国内1億人以上のユーザー。インドで活況する音楽ストリーミング市場、国内アプリが強くSpotifyは苦戦?

ネットユーザーの伸びしろ大きなインド、YouTubeなどデジタルコンテンツ消費も増加見込み

フォロワー数で世界最多を誇るYouTubeチャンネル「T-Series」。インド発の音楽チャンネルで、2020年3月時点のフォロワー数は1億3,200万人。この数年フォロワー数が急増し、このほど世界トップだったスウェーデンのPewDiePieを抜き世界最大のYouTubeチャンネルとなった。累計の視聴回数は102億回以上。

インドの人口は13億5,000万人。すべてがユニークユーザーであるとすると、全人口の約10%がT-Seriesチャンネルの登録者ということになる。


T−Series YouTubeチャンネル

この数字はまだまだ伸びることが予想される。なぜなら、インドのネット普及率は50%に届いておらず、この普及率が欧米や日本並になると、登録者と視聴回数がさらに増える可能性あるからだ。

インド・ネット・モバイル協会(IAMAI)によると、2019年同国におけるインターネットのアクティブユーザー数は4億5,100万人。全人口に占める割合は約33%だった。

この数字は今後3年ほどで2倍に増加することが予想されている。

Ciscoが2020年2月に発表したレポートによると、インドのネットユーザー数は2023年に9億人以上に達するというのだ。ネット普及率は64%に拡大することになる。

伸びしろが大きなインドの音楽ストリーミング市場。T-Seriesがチャンネルを運営するYouTubeはもちろんのこと、SpotifyやGoogle Playなど多様なプレーヤーが力を入れており、ネットユーザーの拡大とともに、今後同市場は一層の盛り上がりを見せることになるはずだ。

インド音楽ストリーミング市場、Spotifyは苦戦中?

インドの音楽ストリーミング市場はいまダイナミックに動いている。市場動向に関するさまざまな調査が実施されているが、一貫した状況はつかみにくいのが現状だ。

2019年末に発表されたYouGovの調査データでは、YouTube MusicやSpotifyなどのグローバルプレイヤーに加え、インド発のプラットフォームの人気が拡大しており、競争激化の状況が浮き彫りになった。2019年11月25日〜12月2日、インド在住の1,018人を対象に実施された比較的新しい調査だ。

どの音楽ストリーミングアプリを利用しているのか、という質問では、男性・女性ともにトップとなったのがYouTube Musicだ。調査対象者に占める利用率は、男性24%、女性21%だった。

欧米における音楽ストリーミング市場では、YouTubeとSpotifyがトップを競う状況が多い。インドにおいてもそのような構図が想定されるが、YouGovのデータは興味深い結果を示している。それは、インド発の音楽ストリーミングアプリがYouTubeに迫っているということ、そしてSpotifyが意外と苦戦しているという状況だ。

月間アクティブユーザーは1億人超え、インド発の音楽ストリーミングアプリ

YouGovの調査で、YouTubeに次いで人気が高かったのは「JioSaavn」と「Gaana」というインドの音楽ストリーミングアプリだった。JioSaavnの利用率は男性19%、女性9%。一方、Gaanaの利用率は男性16%、女性19%。JioSaavnは男性に、Gaanaは女性に人気が高い傾向があるようだ。

Spotifyは、Google Play、Wynk Music、Amazon Prime Musicに次ぐ7番目。インドでは苦戦を強いられている。

JioSaavnは、ボリウッド映画の音楽などインド音楽に特化したストリーミングアプリ。Saavnとして2007年にローンチされ、2018年にJioMusicと合併し、現在の名称になった。

このJioMusicとはインド3大財閥の一角リライアンス・グループの通信企業Jioが運営していた音楽ストリーミングサービス。JioSaavnの評価額はこの合併によって10億ドル(約1,000億円)になったといわれている。


JioSaavnウェブサイト

音楽メディアMusic Business Worldwide(MBW)が伝えた情報筋の話によると、2019年4月末時点におけるJioSaavnの月間アクティブユーザー数(MAU)は1億400万人。一方、Gaanaは1億人で、同時点ではJioSaavnがインド最大の音楽ストリーミング・プラットフォームであると伝えている。

2018年3月、SaavnのMAUは2,200万人だったがJioMusicとの合併で一気に8,000万人近く増加したという。

このJioSaavnとしのぎを削るGaanaの躍進も目覚ましい。インド最大級のメディア複合企業といわれるTimes Groupのデジタル部門Times Internetが2010年にローンチしたストリーミングサービス。

インド地元紙Economic Timesによると、Gaanaのユーザー数は2018年2月時点で6,000万人に達していた。同時期、中国テック大手テンセントなどから1億1,500万ドル(約123億円)を調達したとして話題となった。


Gaanaウェブサイト

このGaana、2020年2月末に発表された別の最新調査では、インド音楽ストリーミング市場の占有率において、JioSaavnを抜き1位になったと伝えられている。

この調査は、OTT Audience Measurement Insightsが発表したもの。インド主要9都市のモバイルユーザー9,000人を対象に実施した。YouGovとはサンプルや調査方法が異なる点は留意が必要だ。

それによると、Gaanaの市場シェアは30%、一方JioSaavnは24%だった。次いで、WynkとSpotifyがそれぞれ15%、Google Playが10%、Amazon PrimeとYouTubeなどはまとめて7%であるという。

調査対象をモバイルユーザーに限定し、主要都市のみに絞ったことがYouTube利用率の大きな差につながった可能性が考えられるが、いずれの調査もGaanaとJioSaavnがインドの音楽ストリーミング市場を支える2大アプリであり、同市場を見る上では欠かせない存在だということを物語っている。

今後もまだまだネットユーザーが伸びるインド。他国に比べ音楽コンテンツへの関心が高く、音楽ストリーミング市場もダイナミックに変化・発展していくことになるだろう。

文:細谷元(Livit

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