「56兆円」——これはアメリカにおける男女間の年間平均給与の格差だ。

ビジネスワイヤによると、同国で女性は男性に比べて年間の給与が平均20%低く、また人種別でいうと黒人女性は38%、ラテン系女性に至っては46%も白人男性に比べて給与が低い傾向があるという。

この賃金格差については、近年P&Gやナイキなど、多くのグローバルカンパニーがジェンダー平等を推進すべくキャンペーンを展開しており、解決すべき社会課題として随分と可視化されてきた。

しかし今、女性が女性であるが故に被る別の”損失”、通称「ピンクタックス」として知られる、特定の商品に上乗せされる価格について欧米を中心に活発な議論が行われており、その存在に異を唱える企業も登場している。

年間1,300ドル……対象にはドライクリーニングも

欧米では、女性用剃刀や生理用ナプキン、洋服など女性向けプロダクトが男性向けのそれと比べて割高に価格設定がされているケースが多い。

特に、ドラッグストアで販売されているような使い捨ての剃刀だと、男性用も女性用も品質面での差はなく、あるのはデザインなどの見た目だけである場合がほとんど。

そして、一般的に女性向け商品にはピンク色が採用されることが多いため、この格差はピンクタックスと呼ばれ、ジェンダーギャップの一つであると近年問題視されている。

金融に関するウェブプラットフォームでブログとポッドキャストの配信を行う「Listen Money Matters(以下、LMM)」によると、アメリカ国内で商品やサービスに対して金銭を支払う際、女性のほうが男性よりも42%多く支払っているという。

その額、年間1,300USドル(約14万5,000円)。カリフォルニア州が2004年に行った試算によると、女性が生涯に渡って支払うピンクタックスの総額は10万USドル(約1,000万円)にものぼるという。

「ヘイ、ACE。この写真、一体どういうことなんだ?」2018年アメリカのある男性がTwitterに投稿したピンクタックスに着目したつぶやきは国内外で大きな反響を呼んだ。大手ホームセンターACEで売られているトラベルキットは同じ中身なのに色が違うだけでピンクの方が2.4USドル(約270円)高い。

またニューヨーク市の消費者課が一般的に市場で販売されている商品800品目について価格差を調査したところ、女性向け商品は男性向け商品と比較して、平均7%も高額に設定されていることがわかった。

具体的には、

・おもちゃやアクセサリー 7%
・子供服 4%
・大人服 8&
・衛生用品 13%
・その他ヘルスケア用品 8%

と、その価格差が浮き彫りとなった。

またLMMはドライクリーニングで、同じデザインのシャツでも女性用のクリーニング費用の平均は4.95USドル(約554円)であるのに対し、男性用は2.86USドル(約320円)であるといい、ピンクタックスは目に見える商品だけでなくサービスにも含まれていると指摘している。

正当な理由の範疇を超えているものも

そもそも、なぜピンクタックスは生まれたのか?

一つには、洋服などがそうであるように、女性向けの商品は外国からの輸入品が多く、関税がプラスされるケースが多いからとされている。

また、剃刀などの衛生用品も、クオリティ面では男性向けのそれと同等であるが、女性の方が消費心理が複雑であることから、男性に対して行われるよりも多くかかるマーケティングコストが商品価格に反映されてくるからだとも言われている。

2014年には、衣料品大手のGAPがアメリカ国内で展開するOld Navyのプラスサイズデニムが、女性用のみ、レギュラーサイズよりも12~15USドル(1,300円~1,700円)高額な価格に設定されていたことが物議を醸した。

これに対し、GAPは「女性用にはシルエットがより美しく見えるようプラスサイズ専門チームを組んでデザインしている。また使っている素材もストレッチ性に優れており、そのため価格を上乗せせざるを得なかった」と釈明した。

しかし、前出の消費者課が行った別の調査では、女性が中古車を購入する際に提示される車の平均見積もり価格は、男性客より約2倍高額だとしている。

またノースウェスタン大学の調査でも、車のラジエーターの修理費用に関して男女それぞれがいくつかの修理屋に電話で見積もりをとったところ、車に関する知識に乏しい女性に対しては406USドル(約45,000円)だった見積もり価格が、男性向けには383USドル(約43,000円)だったという。

関税や素材など価格差に関して明確な理由があるものもあれば、車の修理費の例のように「女性だから」という理由で足元をみられ、高額な価格を言い渡されるケースもあることがわかる。


同じメーカーから発売された子ども向けのヘルメット。青色のものは14.99USドル(約1,700円)で、ピンク色のものは27.99USドル(約3,100円)。違いは色と付属のぬいぐるみのみであるが、果たして13USドル(約1,500円)の価格差は適正だろうか。(Listen Money Mattersより転載)

ピンクタックスに異を唱える企業

このピンクタックスに異を唱え、男性向け、女性向けの両方の価格設定を均等にし、消費者から支持を得る企業も登場している。ニューヨークで2017年に創業された女性用剃刀ブランド「Billie」がその一つ。同社はこれまでもジェンダー平等に関する取り組みを積極的に推進してきた。

同社の主力サービスである剃刀のオンラインサブスクリプションサービスは、初回は9USドル(約1,000円)で本体と2つの替え刃、そして壁に取り付けられるホルダーが付属されてくる。これは女性用剃刀の市場価格の約半額で、男性向けアイテムと同等の価格である。


ピンクタックス・リベートを提唱するBillie

また、2013年にスタートした男性向け剃刀メーカーの「Harry’s」も、女性向けブランド「Flamingo」をローンチ。本ブランドは剃刀に加えて、脱毛ワックスなどムダ毛処理用アイテムのラインナップも揃える。

Billie同様に剃刀本体の価格は9USドル(約1,000円)で、人気商品の一つであるシェービングジェルは美容メディアAllureに2019年の優秀アイテムとしても選ばれるなど、価格面もみならず、その品質面も大きく支持されている。


Flamingo(同社の公式Webサイトより)

また、会員費無料で商品のまとめ買いができることからミレニアム世代から支持を得ている”次世代のコストコ”こと「Boxed」もピンクタックスに反対し、ナプキンやタンポンを相場価格より安値で販売している。

例えば、P&Gの持つナプキンブランドAlwaysの同じ品物が、小売り大手のTargetでは9.36USドル(約1,050円)だが、BOXEDでは8.18USドル(約915円)だ。

今やミレニアムやZ世代を始めとして、消費する際にその商品やサービスの背景にあるストーリーや原材料まで精査する消費者は多い。商品間の価格差が明確な理由に基づくものなら消費者は納得するだろうが、それが理不尽な性差別に由来するものであるなら時代錯誤であり、大きな問題だ。

本稿で紹介したような取り組みを行う企業が今後より増えることで、ピンクタックスという曖昧な概念に対する議論が活発化し、この悪習慣が淘汰されればよい。

文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit