オラクル創業者が取り組む、島まるごとサスティナブルリゾート計画

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ラリー・エリソンという人物をご存知だろうか?

アメリカの大手ソフトウェア会社であるオラクルを立ち上げ、世界有数の企業にして過去には世界一の大富豪になった人・・・ということくらいは知っているかもしれません? では現在の彼が取り組んでいることについてはどうですか?(一部のハワイフリークを除いて)、ほとんど知られていないのではないでしょうか。

彼は今、ラナイ島に夢中なのです。


マウイ島からもはっきりと確認できるラナイ島。にもかかわらず奇跡的に手つかずでありのままのハワイが残された貴重な島

「ハワイ最後の楽園 」と呼ばれるラナイ島

なぜラリー氏はこの島に夢中になっているのだろうか。その理由を語るには、まずはラナイ島がどんな場所なのか、著作の一つ「気になるハワイネイバー」他で取材した際に撮影した写真とともに紹介したいと思います。

ハワイには観光客が上陸できる島が主に6つあり、その中の一つがラナイ島です。日本人にはほとんど馴染みのないこの島の人口は、約3,000人。島内には病院と学校が一つずつ、ファストフード店、信号は一つもありません。

島本来の手つかずの自然と風景が残されているラナイ島を、「ハワイ最後の楽園」と呼ぶ人がいるのにも納得です。

交通標識もこんな感じ。見落とさないよう注意。目印となる建物がなにもないため自分がどこにいるのかわからなくなります。なにもないから迷わないというのは違う、とわかります。


ラナイタウンのメインストリート。タウンとは言うものの、そのサイズ感はビレッジ。メインストリートに面して同じサイズのレストランやギフトショップが並びます。


町の人気ブルージンジャーカフェ。材料の多くをよそから運んでくるため料理の値段は決して安くはないんです。

国際空港のある一大リゾート地、マウイ島から船で一時間足らずという距離にありながら、いったいどうして開発の手から逃れてくることができたのか?

その理由は、1922年にバナナやパイナップルの農園管理・販売で有名なDole(ドール)が島を購入して以降1980年代までの間、島全体が世界最大級のパイナップル農園となっていたためです。

その間、島民以外の立ち入りは制限され(もっとも、行く理由も必要もなかった?)、オアフ島を始めとする他の島のように、リゾートが建設されることはなかったのですね。


マウイのラハイナ港からラナイ島までは高速艇で45分。ラハイナ発6時45分の始発に乗船すれば日帰りでも十分可能 (1日5便。往復$60)


マウイとラナイの間の海はクジラの揺りかごと呼ばれる海域。ラナイまで往復の途中、船上からこのような思いがけないボーナスがあることも(12月〜3月頃までの間)

しかしながらアジアなど安い生産地との競合などにより農園は縮小。

ドールが島を企業に売却。島はリゾートアイランドを目指すことになります。そこに進出してきたのが、高級リゾートチェーンのフォーシーズンズホテル。

山側と海側に2つのフォーシーズンズホテルが登場します。ビル・ゲイツが貸り切って結婚式を挙げたホテルと聞けば、「あー、あの島!?」と思い浮かべる人もいるのではないでしょうか?しかしながら、ラナイ島が話題になったのはその時くらいなものでした。


島には公共交通機関はなし。タクシーもなし。レンタカーを借り出し島巡りします。しかし島唯一のメジャーレンタカー会社、バジェットが数年前に撤退。

その後これといって注目されるようなニュースもトピックスもなかったラナイ島ですが、2012年に突如注目を浴びることになります。

ラリー・エリソンが描くサスティナブルなリゾート計画

この年、ラリー・エリソン氏がラナイ島の98%を購入(残りの2%は国有地)。翌年2013年にはラナイ島に定期便を飛ばしているアイランドエアを購入したとニュースが流れます。

「金持ちが島を買って一体どうするつもり?!」
「“ハワイ最後の楽園”がめちゃくちゃにされるのでは?」

と、当然島が(ハワイ全体が)ザワつきました。大体において金持ちというのは購入した土地の縄張り意識が高く、よそ者を排除しようとする傾向にありますからね。

ところが、ラリー氏は違ったのです。購入の目的を「土地と島の天然資源を保護管理しつつサスティナブルな島を目指す」ためと表明。ラナイ島の姿を後世に遺すため、できることをすべてやるという覚悟を示したことで、島民に受け入れられたのでした。

島を購入してから約8年が経った現在、日常から解き放たれたラナイ島の静穏な環境と島の伝統や歴史は、約束どおり保たれています。

また、漁業や生態系の維持と管理、ラナイの天然資源によるエコシステムの構築などを行い、島民の生活環境と質を高めることにも貢献しているのです。


「神々の庭園」と呼ばれるラナイ島の“観光スポット”は昔のままで残され、広がるホワイトサンドのビーチにも人影はなし。

質と言えば、スーパーマーケットや1990年代から閉鎖されていた映画館のリニューアルも実施。ボロボロだった映画館は「全米で最高に贅沢な映画館」と噂されるほどです。 


1930年代に建てられた当時と同じデザインで復活した映画館&劇場


島唯一のスーパーマーケット。以前の店内には「いつから並んでいるんだよ!?」と思わせるような埃を被った缶詰ばかりだった商品が今では新鮮野菜やポケ、島で作ったはちみつやソルトが並び、プチWHOLE FOODS状態に

野菜を育てることができずに島外から“輸入”していたラナイ島でしたが、ハイドロポニックの農園「Sensei Farm」を作り、野菜の栽培も可能にしました。

因みにファームで栽培した野菜はリゾ―トで使われていて、近い将来「日本に輸出する」計画もあるといいます。さらには島を訪れる観光客と島民のため、海水を淡水化するシステムを手掛けるなど、様々な方法でラナイ島をサスティナブル可能な島にしようと試みています。


世界中から最高の種を集めて栽培されるラナイ野菜。従来よりも使用する水の量を90%少なくすることに成功。有害な添加物を使用せずテスラソーラーで温室に電力を供給。現在はハワイ諸島内でのみ販売。

ところで、島を購入した中には2つのフォーシーズンズホテルも含まれています(これだけでも凄いけど、行ったいくらで島を買ったのかって?一節には3億ドルと言われています)。

2016年2月に海側の、2019年11月には山側のホテルの改修をそれぞれ終えた後、宿泊客に対しても島のサスティナブルへの取り組み、守るべき島の素晴らしさをアクティビティを通して伝えています。

その活動のためにラリーさんは医学博士とSensei Wayを立ち上げ、ウエルネスをテーマにラナイならではの特別な体験を提供しています。そのユニークで“ならでは”の内容については、次の機会にお話したいと思います。


Four Seasons Resort Lanai (海側のリゾート)2年の改修工事を経て2016年2月にグランドオープン。ラナイ島のカルチャーやオススメスポットをまわる“ホロホロツアー”などのアクティビティーも行う。


Four Seasons Hotel Lanai at Koele, A Sensei Retreat 2015年から改装工事をスタートし、2019年11月にオールインクルーシブのウェルネスリゾートとしてリニューアルオープン。

ハワイという場所はハワイアンの伝統や、歴史的に意味のある土地が多く、よそ者が入ってくることに対して警戒されることが少なくありません。

実際、FBのCEOマーク・ザッカーバーグ氏のように、ハワイアンの土地に対する歴史や意識を知らずに購入したカウアイ島の土地を巡ってローカルと揉めているケースや、大企業による開発が中止になった例は少なくありません。ラリー氏の場合はごく稀なケースだと思います。

そんな中、ちょっと気がかりなのが「3億4,000万ドルかけて空港に隣接する現在の農地を“都市開発”できるように申請」という2019年9月に流れたニュース。持続可能なためには経済活動も必要だということらしいのですが、妙な開発がされないことを祈るばかりです。

取材・文:山下マヌー

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