陽性診断の患者対応でロボット活用する米病院

世界保健機関(WHO)は3月6日、新型コロナウイルスの収束時期について、インフルエンザのように夏になれば消えてなくなるだろうという希望的観測は持つべきではないとの声明を発表した。ウイルスの活動について、どのような気候で、拡散能力がどのように維持されるのか、まだ分かっていないためだという。

長期戦の様相を呈している新型コロナウイルス対策。感染のさらなる拡大を防ぐために、人と人の接触を避けることが求められている。この状況下、中国や米国の病院/医療当局では、人員の感染リスクを下げるために、ロボットやドローンを相次いで導入。その効果に世界各地からの注目が集まっている。

CNNによると、米国ではシアトル近郊エバレットの病院Providence Regional Medical Centerでは、聴診器搭載のロボットが同病院に入院した新型コロナ感染患者の診察を行っていたという。

ロボットには、聴診器のほか、カメラとディスプレイも搭載されており、医師や看護師が遠隔で患者とコミュニケーションをとったり、健康状態を確認することができる。

この男性、中国・武漢市への渡航履歴があり、1月中旬頃に陽性診断を受け入院を開始。病院に搬送される際にはISOPODと呼ばれる外部との接触を遮断する特殊タンカが利用された。

米国では2014年にエボラウイルスの感染が広がった時期があるが、このとき同病院では感染症に対応するためのプロトコルを作成。今回の新型コロナウイルス感染のケースで、さっそくこのプロトコルに沿った対策が実施された格好となる。

中国の病院ではデンマーク製の除菌ロボット大量導入か

震源地の中国でも新型コロナウイルス感染対策でロボットやドローンが相次いで導入されている。

2月末には、デンマークのロボット企業UVD Robotsが中国の医療機器サプライヤーSunay Healthcare Supplyと中国の病院へのロボット供給で合意。

UVD Robotsが開発しているのは除菌自動走行ロボット。病院内を自動で走行し、病院スタッフや医療当局者の代わりに除菌作業を行う。これにより、人員の感染リスクを大幅に下げることが可能となる。2月末から供給開始し、最終的には2,000カ所以上の病院で、同社のロボットが導入される見込みという。


UVD Robots社が開発した自動除菌ロボット(UVD Robotsウェブサイト)

中国の街なかでは、感染対策の一環でドローンが飛び交っているとの報道もある。

上海北部に位置するジュツ陽県では、警察がスピーカー搭載のドローンでマスクを着用していない歩行者を注意しているという。北京などではマスク着用が義務化されたといわれている。ドローンを使ったマスク着用警告は他の都市でも実施されていると考えられる。

実際、深センのドローン企業MicroMultiCopter(MMC)は2月8日に、パトロール、除菌、熱感知を行えるドローンの配備を中国各地で進めていることを発表。100機以上のドローンを上海、広州、肇慶、仏山などに配備したとのことだ。


MMC社のドローン(MMCウェブサイトより)

ロボットではないが、熱感知に関して中国ではハイテクヘルメットが登場したとして話題になっている。

深センのKuangChi Technologyが開発したというハイテクヘルメットは、赤外線カメラと顔認識テクノロジーが搭載されており、ARディスプレイを通じて街なかの人々の熱を感知することが可能という。5Gにも対応しているという同ヘルメットは、上海などですでに導入されているとのことだ。

コロナウイルスのクラスターいち早く突き止めたAI

新型コロナウイルス対策は、ロボットやドローンだけでなく、データアナリティクスやAI企業にとってもその実用性を示す機会になっている。

カナダのAI企業BlueDotが運営するAIプラットフォームは、WHOや米疾病対策センター(CDC)より早く、武漢における危険信号を察知していた。

WHOが武漢で新型肺炎のクラスター発生に関する声明を発表したのは、1月9日のこと。一方、BlueDotは12月30日に、武漢の市場付近で「見慣れない肺炎のクラスター」が発生したことを突き止め、同プラットフォームのユーザーに警告していたという。

BlueDotの創業者兼CEOを務めるカムラン・カーン氏は、トロント大学で薬学と公衆衛生を教える教授でもある。2003年のSARS感染拡大を受けて、BlueDotのアイデアを思いついたとのことだ。


BlueDotの感染症トラッカー(BlueDotウェブサイトより)

BlueDotは、Saas型の感染症トラッキングサービス。

世界各国の衛生当局/デジタルメディアの発表や航空券販売、また家畜健康状態に関するレポートなどさまざまな情報源からデータを取得、そのビッグデータを機械学習モデルで解析し、感染症に関する情報を15分ごとに更新している。シリーズAラウンドで、2019年には940万ドル(約9億6,000万円)を調達した。

米MetabiotaもBlueDotのようにオンラインデータとAIを活用した感染症トラッキングサービスを提供。今回の新型コロナウイルスに関しては、各国の公式発表の1週間ほど前に、タイ、韓国、日本、台湾がハイリスク地域であることを示していたという。

世界経済の冷え込みが顕在化しており、早急に感染を抑え込む必要性が高まっている。AI、ドローン、ロボットの活用が抑え込み効果をどこまで高めてくれるのか、その活躍に期待を寄せたい。

文:細谷元(Livit