ビューティ系総合サイト「アットコスメ」を手がけるアイスタイル(吉松徹郎社長)が、OMO(オンラインとオフラインの融合)とデータ駆動型ビジネスの先行事例として注目を集めている。1月10日に東京・原宿駅前に旗艦店「アットコスメトーキョー」をオープンしたのに続き、2月20日には、メルカリとの協業を発表した。
アイスタイルは1999年にコスメの口コミサイト「アットコスメ」を立ち上げ、2007年にリアル店舗「アットコスメ ストア」をスタート。「現在では売上げ日本一の化粧品専門店に成長した」と吉松社長は語る。
「アットコスメ」の利用者数は月間1,300万人、国内の20~30代の女性の約半数が利用しているといわれるほど大きなコミュニティに成長。ECの取り扱いブランドは約1,900。口コミデータは1,500万件以上、商品データは32万件以上の蓄積がある。
この膨大なデータやユーザーを武器に、企業向けのデータ活用サービス「ブランドオフィシャル」も2018年4月から開始。
ユーザーの閲覧や購買履歴を活用し、アプリを通じたプッシュ型通知やDM(ダイレクトメール)などにより、既存顧客や将来顧客に対して販促・購買支援を行うもの。利用料金は月額50万円の定額制サービスで、広告収入に続く高利益率の収益基盤として育成している。
今回は、メディア、ストア、ECを三位一体で運営する同社のOMOの象徴である「アットコスメ トーキョー」をレポートするとともに、吉松社長へのインタビューから、同社のビジョンと、ファッションや家電など異業種でも参考になる、デジタル化時代のビジネスモデルのヒントを探る。
オンラインとオフラインを融合、新たな店舗設計がもたらす効果とは
「アットコスメ トーキョー」は地上1~3階の3フロア(店舗面積約1,983㎡)で、1、2階が売り場(約1,322㎡)、3階をイベントスペースで構成。「現時点ではアジア最大の化粧品ストア」(吉松社長)という。
1月10日にJR原宿駅前にオープンした「アットコスメトーキョー」。デパコスからプチプラ、D2C型コスメまで一堂に集めて、新しい出会いと比較購買体験を提供
最大の特徴は、ドラッグストアを中心に販売しているプチプラコスメやオンライン専門ブランドと、“デパコス”と呼ばれる百貨店系・ラグジュアリーブランドを一堂に会している点だ。
通常ではご法度とされる横並びを実現し、リアル店舗ならではの比較購買体験や、新しい出合いの機会、そして、データの収集や活用を行い、新しいネットとリアルの融合のあり方を模索。アットコスメのゲートウエイとして存在感を発揮したい考えだ。
また、秀逸なのは、QRコードを活用した導線設計。店舗展開していないEC・通販専門ブランドのアイテムを試したり、サンプル品を提供する際にもQRコードの読み取りをひもづけることで、ピンポイントでユーザーに商品情報や使用方法の動画を送ったり、購買や再来店につなげるマーケティング&プロモーションができるようにしている。
店舗・ブランドを横断したオンライン上の「共通カウンセリング台帳」も開発。パーソナライズした接客の実現も目指しているのだ。
また、OMOならではの売り場づくりで注目なのが、「Amazon」のリアル店舗「AmazonBooks」や「Amazon 4-Star」などと同様に、ECで売れているもののランキングや情報をリアル店舗で可視化して提供したプレゼンテーションや特設コーナーだ。
「ベストコスメ」賞を受賞したり「殿堂入り」したヒット商品などをアーチ形のゾーンに集めた「ベスコスタワー」(1階中央)や、ECでの売れ筋商品を紹介する「ウィークリーランキング」(1階奥)、自店での売れ筋を集めた「アットトーキョー セールスランキング」(2階壁面)がそれだ。
殿堂入りのベストコスメや売れ筋ランキングなどと連動したコーナーもユニーク。写真は「ベスコスタワー」
自店での売れ筋ランキングトップ商品を集めた「アットトーキョー セールスランキング」コーナー
もう一つ、リアル店舗の特性を生かした、体験型コンテンツの充実だ。
色味やテクスチャー(質感)を立ったまま気軽に試せるように、専用のテスターバーだけでなく、多くの商品陳列棚の脇にコットンやチップなどを備えて、積極的にテストしたくなるような仕様にしている。
リアル店舗ならではの比較購買体験を提供するため、気軽に試せる「テスターバー」を備える。商品情報には「アットコスメ」サイトの評価も記載することで、OMOを体現
ブランドがマーケティング投資を行う「プラットフォーム」を目指す
原宿駅前の一等地に位置しており、通常であれば、少しでも売り場を多く取りたくなりそうなもの。だが、リアルとネットを融合した体験型店舗とするため、3階はあえてイベントスペースとすることを決めた。
製品発表会や、ブランドの商品開発担当者やビューティアドバイザーなどとの交流会、ファン同士がつながる座談会、ワークショップなどを行いながら、メイクやスキンケアに対する興味関心を高めたり、ブランドに対する理解や愛着を深めるなど、「ブランドとユーザーと店舗をつなぐプラットフォームとして活用されることを期待している」という。
この3階と、1、2階のポップアップスペースは、ブランド・メーカーのプロモーションに活用することで、リアル店舗の新たな収益源としていく。
物販だけでない収益源があることで、人が集まる高い家賃の場所にも出店しやすくなるため、結果、物販やECにも好影響を与えられるし、小売店舗の広告・プロモーション事業はOMOや体験型時代に重要な役割を果たしそうだ。
吉松社長は原宿店について、初月度は「半期で19億円、年間40億円の目標に向けて順調に進んでいる。1日1万人前後が集客できている。2年目の黒字化を目標にしている」と語る(が、新型コロナウイルス肺炎の影響もあり、インバウンドを中心に、入店客数などにも影響はありそうだ)。
「アットコスメ」を手がける吉松徹郎アイスタイル社長
この場所は、米カジュアルSPA(製造小売業)の「GAP」(ギャップ)が撤退した跡地で、「『ファッション・アパレルでも年間売上高は20億円が限界』『コスメで40億円を売るのはあり得ない』『これだけの広さで売り場をつくるのは難易度が高すぎる』と反対の声があった」という。それを、データ活用や、新たな収益源を確立することで、「2年目には黒字化させたい」と意欲的だ。
「新たな思想を打ち出すというよりも、すでに世の中にあるものを組み合わせて、実装し、運営していくことの難しさに挑戦している。物販収入だけでなく、ブランドがマーケティング費用を投じるプラットフォームとなり、それが収益源の一つになるような事業モデルを考えている。ブランドとユーザーをつなぐ立場として、僕たちらしい立ち位置を築きたい」。
なぜ、銀座や表参道、新宿や渋谷でなかったのか? 「新宿にも銀座にも渋谷にも池袋にも百貨店がある。表参道にはブランドの直営ストアも多い。エリア内でのバッティングを避けるためには、原宿である必要があった」という。
追い風が吹いたのは2017年のこと。「1号店でもあるルミネエスト新宿店が、館内売上高1位になったことで、「『アットコスメ』は売れる」とブランドからの信頼も広がった。
欧米の外資系ブランドが中国のTモールを中心にECの売上げを伸ばし、日本でもECを強化しようというタイミングも重なった」と吉松社長は振り返る。
メルカリとの協業、アットコスメのデータ戦略とは
なお、アイスタイルの売上高は2019年6月期で約322億円(前期比13.1%増)。
本業の儲けを示す営業利益は4億円(同77.6%減)の黒字だったが、ソフトウエア資産や国内外店舗の減損などによる特別損失を計上し、当期純損益は5億円余りの赤字だった。
2020年6月期の第2四半期は、国内の店舗閉鎖や、中国のEC・卸売の鈍化や香港のデモの影響などもあり、売上高は159億円(前年同期比1.7%減)、営業利益は原宿旗艦店への先行投資などもあり11億円の赤字(前年同期は2億円の黒字)、当期純損益は海外関連を中心に30億円の特別損失を計上したため、39億円の赤字(同5,900万円の黒字)となっている。
次の成長ドライバーとして期待するのが、メルカリの二次流通のデータを生かした一次流通の活性化だ。
メルカリでは「コスメ・美容」カテゴリーに注力している。年間流通金額の8%、約400億円がコスメ美容で、年率130%以上で成長を続けている大変重要なカテゴリー。
吉松社長は、メルカリの400億円に対して、百貨店で一番大きな化粧品売上高を誇る梅田阪急や伊勢丹新宿店でも「年間300億円足らず」という実績を引き合いに出しながら、「二次流通にあるデータを可視化し、一次流通やブランド側のマーケティングに活用することで業界を活性化できる。化粧品を(新品で)いきなり買う前に、ちょっと試して、良ければリピートする人もいる。メルカリは新しいお客さまと出会うプラットフォームととらえられる」と説明。
さらに、検索して欲しい商品がメルカリにない場合、一次流通のブランドや店のビジネスチャンスにつながると指摘。「『ブランドオフィシャル』のサービスで、新しいユーザーとブランドの出合いをつくっているが、さらにメルカリのデータを生かせるように新しい一歩を歩んでいきたい」と意気込む。
「アットコスメ トーキョー」を含めた、OMOは、リアル店舗がオープンした後の修正やオペレーションが成否を左右するキモになる。
売れているモノや売れる要素などのデータ分析結果から品ぞろえやサービスなどをブラッシュアップしていくことが不可欠だ。さらに、アプリだけでなく、実際の店頭でも個人特有の買い方や試し方ができるようなパーソナル対応にも着手することが必要だ。
オフラインならではの顧客体験を高めるためには、オンラインにはない武器=店頭スタッフによる接客スキルの向上や、アドバイス力、さらには、心の触れ合いにまで至るようなハイタッチなコミュニケーション力が求められる。
また、デジタル活用を掲げているからには、肌分析やバーチャルメイクのような、“ビューティテック”と呼ばれるテクノロジーを活用したブランドの店頭施策を手厚くする必要もある。デジタル×エンターテインメント的な顧客体験を増やすことが、来店動機になり、OMOをうまく回す秘訣になる。
「アットコスメ トーキョー」の進化の過程を見ていくことが、OMOとデジタル駆動型ビジネスを成功に導くヒントにつながりそうだ。
取材・文:松下久美