ファッション・ショーといえば、豪華さを極め、多くの人々にはあまりなじみのないもの、そのようなイメージがある。だが、環境に配慮し、持続可能性の高いショーの実現を目標にして動き出したところがある。
それがコペンハーゲン・ファッション・ウィーク(CPHFW)だ。CPHFWはデンマーク・コペンハーゲンで、夏と冬、年に2回開催されるファッション・ショーで、世界からの注目度が高いイベントのひとつである。
2020年1月、CPHFWのCEOセシリー・ソーマーク氏が、ファッション・ウィークでのラディカルな取り組みを発表し、業界内外の注目を集めている。
主催者側の取り組み
2020年のコレクション発表の場であった2019年8月のファッション・ウィーク開催前には、CPHFWは既に、同イベントでの使い捨てペットボトルの使用を減らすことを宣言していた。
これは、気候変動への影響を少なくするための取り組みで、2022年までには二酸化炭素の排出を2分の1に減らし、廃棄物を完全にゼロにすることを目標に掲げている。また、プラスチック製ハンガーの使用を2021年までに完全に廃止することも盛り込まれた。
その他、飛行機による環境への影響を考慮して、国外からの参加者が直接現地に足を運ばなくても配信でイベントを観覧できるよう、通信技術の向上も視野に入れているという。
参加ブランドにも厳しい課題
CPHFWは、持続可能性を達成するための取り組み・姿勢を、イベントを通して見せるだけではなく、それによってファッション業界へインパクトをもたらすことも目的としている。
そのため、主催者側だけが環境に配慮した行動を行うだけではなく、参加するブランドにも「17の目標」を達成することを求めている。
この17の目標は、「戦略的な目標」「デザイン」「正しい素材の選択」「労働環境」「消費者との約束」「ショーでの取り組み」の6つのセクションに分かれ、それぞれに含まれた細かい目標が計17個あるというものだ。
以下はそのうちの一部である。
- 売れ残った商品を処分しない。
- 商品の価値と質を高めるデザインをして、そのことを消費者の耳にも入るようにする。
- 商品に使用する素材のうち、少なくとも50パーセントは公認されたものを使用する(フェアトレード、産地直送、オーガニック、リサイクル品など)。
- 持続可能性のための取り組みを、店頭に立つスタッフにもしっかりと共有する。
- ショーに参加するにあたって、Zero Waste(廃棄物を出さない)を実践する。
- ショー開催中に提供される飲食物は、口に入るものから食器に至るまで、再(生)利用できるものである。
2020~2022年シーズンは、まずは参加ブランドにとって試験期間になるという。
この3シーズン中のブランドの取り組みを見て、評価基準と参加可能な最低スコアが決められ、2023年シーズン以降はその基準を満たしたブランドのみが参加申し込みをすることができるようになる。
世界に広がる動き
CPHFWから始まった持続可能性を目指す動きは、ファッション業界に広がりを見せている。
ファッション業界において、ショーを行うよりも、もっと多くの廃棄物やムダが出てしまう場面はある。それにも関わらず、ショーは過剰な廃棄物が出るものだとして監視下に置かれており、抗議活動のターゲットになっている。
2019年9月、ロンドンでファッション・ウィーク開催された際には、Extinction Rebellion(気候変動のための活動団体)がショーの中止を求めて抗議活動を行った。
抗議者がファッション・ウィーク本部の建物入口前に立ち、そこでデモを展開、また会場付近で寝そべり死んだふりをするパフォーマンス(die-in)を行うなどして、話題となった。
また、同じくロンドンでショーにおいて、フランス人デザイナーのローラン・ムレが「ファッション界におけるプラスチック製ストローだ!」として、ハンガー使用の廃止を求めるキャンペーンを展開したことも記憶されている。
また、2020年7月に開催予定だったスウェーデン・ストックホルムでのファッション・ウィークは中止が決まった。スウェーデンファッション協会(Swedish Fashion Council)は「より持続可能性の高い選択肢を見つけたい」として、環境に配慮した理由からのイベントの中止だった。
ニューヨークでは、業界初のカーボン・ニュートラル・ファッションショーが開催された。「カーボン・ニュートラル」とは、二酸化炭素の排出量と吸収量とがプラスマイナスゼロという概念のことをいう。
このショーを行ったのは、ラグジュアリー・デザイナーのガブリエラ・ハースト。彼女だけではなく世界のブランド、企業が次々とカーボン・ニュートラルを目指す宣言をしており、「企業全体で排出する約240万トンの二酸化炭素をニュートラル化することを目指す」と宣言したことは大きな注目を集めた。
シューズブランドの「Allbirds」は、自らにカーボン税(Carbon tax)を課すことを発表し、サンフランシスコに本拠地を置くエシカル・ファッション・ブランド「Everlane」も、専門家の指導の下カーボン・ニュートラル化を進めていることを発表した。
「カーボン・ニュートラル」「カーボン・オフセット」という考え方は、環境を考える上での新常識であるが、決してこれがゴールではない。あくまでも、二酸化炭素を減らしていく過程での通過点と言えるだろう。
「ファッション・ウィークを含め、ファッション業界の全ての人々が自身の行動に責任も持たなければなりませんし、これまでのビジネスのやり方を変えていかなければなりません。
地球と我々人間への悪影響を防ぐための時間はそう長くは残されていません。我々は既に悲惨な状況を目にしています。今のままではいられないのです」と、CPHFWのソーマーク氏は語った。
文:泉未来
編集:岡徳之(Livit)