ソーシャルメディアの暗黒面?「ダークソーシャル」とは
「ソーシャルメディア」は、パブリックなものとプライベートなものに大別できる。
パブリックなものは、ユーザーが不特定多数の人々に対し情報を発信したり、シェアしたりできるもの。フェイスブックやツイッターがその代表例だ。
これまでソーシャルメディアといえば、このようなパブリックなものを暗に指す場合が多かったといえるのではないだろうか。
しかし、ユーザーのプライバシー意識とセキュアなソーシャルメディアに対する需要が急速に高まっており、それに伴いプライベートなソーシャルメディアに対する関心も高まりを見せている。
プライベートなソーシャルメディアとは、特定のユーザーどうしが情報のやり取りやシェアを行うもので、LINEやフェイスブック・メッセンジャーなどがその範疇に入る。
このプライベートなソーシャルメディアは、海外のマーケターの間では「ダークソーシャル」と呼ばれ、近年のソーシャルメディア・トレンドをあらわすキーワードとして注目度が高まっている。
ダークと呼ばれるのは、そのネットワーク上でどのような情報が発信・シェアされているのか知る術がなく、マーケターにとってブラックボックスになっているためだ。
このダークソーシャル、実はソーシャルメディアでシェアされる情報の大部分を占めていると考えられている。
米マーケティング企業RhythmOne(2017年10月投稿の記事)によると、ソーシャルメディアにおける情報シェアは、84%がダークソーシャルで行われているというのだ。
世界的にはWhatsApp、日本ではLINEでの情報シェアを考えると実感できるのではないだろうか。プライベートなネットワークでは、写真や旅行に関する情報をかなり多くシェアしているはずだ。
ダークソーシャルでは写真や旅行情報などが活発にシェアされる傾向
GlobalWebIndexが公表しているいくつかの調査レポートでは、パブリックなソーシャルメディア利用の縮小とダークソーシャル利用の拡大が顕著になっており、ソーシャルメディアの世界が変化しつつあることが示されている。
まず2018年9月に公開したレポートでは、米国と英国のインターネット利用者の間で、(パブリック)ソーシャルメディアから距離を置く人が増えていることが判明した。
ソーシャルメディア・アカウントを削除またはディアクティベートしたという割合は、男性で37%に上ったのだ。女性も25%がそうしたと回答。
アカウント削除・ディアクティベーションの理由としては以下の回答が多かった。最も多かったのは「他人がシェアする情報に興味が持てなくなった」で30%。次いで26%が「ソーシャルメディアの情報がうすっぺいから」と回答している。
このほか「個人情報の管理やセキュリティに関してソーシャルメディア企業を信用できない」(25%)、「ソーシャルメディアに依存したくない」(24%)、「オフラインで家族や友人との時間を楽しみたい」(23%)などの回答割合が高かった。
他社の分析レポートにおいても、特に北米でのフェイスブックユーザー数の伸び悩みが指摘されるなど、パブリックなソーシャルメディアの減退傾向は年々強まっていると考えられる。
一方で、ダークソーシャルは右肩上がりでユーザー数を伸ばしている。Statistaのまとめでは、フェイスブック傘下のWhatsAppの1日あたりのアクティブユーザー数は2017年第1四半期に1億7,500万だったが、2018年第2四半期に4億5,000万人、2019年第1四半期には5億人に到達した。
WhatsApp
ソーシャルメディアの規模を知りたいとき、登録者数よりもアクティブユーザー数を確認するのが好ましい。登録しているが実際にはあまり使っていないというケースが少なくないからだ。
GlobalWebIndexによると、たとえばスナップチャットでは、52%の調査対象者がアカウントを持っていると回答したが、実際に使っているとの回答は36%と16ポイントも差があることが判明。ツイッターも64%がアカウントを持っていると回答したが、実際使っているという割合は48%にとどっている。
GlobalWebIndexが2019年4月に公開したレポートでは、WhatsAppなどのプライベート空間で人々はどのような情報をシェアしているのか、ダークソーシャルにおけるユーザー行動の一端が明らかにされた。この調査も米国と英国のインターネットユーザーを対象に実施された。
まず「どのように情報をシェアしているのか」という質問では、ダークソーシャルの優勢が示された。回答割合が最多だったのは、63%のプライベート・メッセージアプリ(ダークソーシャル)だったのだ。一方、(パブリックな)ソーシャルメディアは54%とダークソーシャルに比べ9ポイント低い値となった。
ダークソーシャルではどのような情報がシェアされているのか。
最多は72%の「個人的な写真」。次いで「面白い写真・動画」(70%)、「ウェブサイトのリンク」(50%)、「ディスカウント情報」(49%)などの割合が高かった。このほか旅行したい旅先情報のシェアもかなり多いことが判明したという。
スノーデン氏、米上院、欧州委員会、英保守党も使うセキュアなSNS「Signal」
ダークソーシャルの拡大は、ユーザー需要拡大に加え、ダークソーシャルアプリの多様化によっても加速することが見込まれる。
現在世界的にダークソーシャルのユーザー数を見ると筆頭はWhatsApp、それにメッセンジャーやWechat、LINEなどが続く状況だ。
一方、TelegramやCyber Dustといった暗号化/セキュリティを売りにするダークソーシャルアプリの人気が急上昇している。
その中でも「Signal」に対する注目度は特段高いものとなっている。
すべての通信がエンドツーエンドで暗号化されたSignal。セキュリティには定評があり、エドワード・スノーデン氏も2015年に自身のツイッターで、同アプリを毎日使っていることを明らかにした。
また米情報セキュリティの専門家ブルース・シュナイアー氏など多くのセキュリティ分野のエキスパートらも推奨しており、各国政府機関などでの利用が広がっている。
セキュアなメッセージアプリ「Signal」日本語ページ
2017年には米上院でSignal利用が承認されたほか、2020年2月には欧州委員会がスタッフに対しメッセージアプリをSignalに変更することを促しているとの報道(Politico)がなされた。また英ガーディアン紙によると、同国保守党が議員に対しメッセージアプリをWhatsAppからSignalに変更するよう通達したとのこと。
セキュリティに定評のあるSignalだが、絵文字やインターフェイスに関してWhatsAppなどの人気アプリに比べると見劣りする部分があったといわれている。しかし、WhatsAppの共同創業者ブライアン・アクトン氏による支援もあり、改善を重ね、マスマーケットにおける普及も目前に迫っていると見るメディアや専門家もいるようだ。
ダークソーシャルはどこまで広がりを見せるのか。またSignalなどの比較的新しいメッセージアプリの進化・発展はソーシャルメディアの世界をどう変えていくのか。そのダイナミックな変化から目が離せない。
文:細谷元(Livit)