表現の限界を拡張するソニーが目指す未来。“テクノロジーとクリエイティブ”が生む衝撃

TAG:

2020年2月13日、ミレニアルズが集う渋谷、モディ1階にあるソニースクエア渋谷プロジェクトに、ミニ四駆(※)サーキット場が出現した。しかし、普通のミニ四駆とは、どうも様子が異なる。サーキット全体にはカラフルな映像が映し出され、激しいテクノ調の音楽の中、高速で走るミニ四駆の白い車体には、プロジェクションマッピングされたボディデザインが投影されている。
※ミニ四駆は株式会社タミヤの商標登録

音と映像、そして最先端のテクノロジーを間近に体験できるこのサーキットは、まさに“新感覚”という言葉が似合う。

ソニー株式会社(以下、ソニー)はなぜ、いまこのような取り組みを行うのだろうか。そして、その先に彼らが見据えている近未来のビジョンとは。

本イベント「High Speed Colors -ソニーとつくる、新感覚サーキット-」について、ソニー株式会社 ブランド戦略部 ロケーションブランディング課 統括課長の梶尾 桂三氏と、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 システムソリューション事業部 大山田 光夫氏に、さらに本企画のクリエイティブを担当し、King GnuのMVなどを手掛けるクリエイティブ集団「PERIMETRON(ペリメトロン)」からは、プロデューサーの西岡 将太郎氏、ディレクター・デザイナーのMargtのARATA氏、ISSA氏、CGデザイナーの神戸 雄平氏、音楽プロデューサーのDr.Pay氏の7名に話を伺い、今回のプロジェクトにおける“ねらい“とその制作過程を振り返り、技術×クリエイティブの可能性について語ってもらった。

※以下、発言テキストへの敬称略

若手クリエイターが彩る、ソニー最新技術との「共創」

「High Speed Colors -ソニーとつくる、新感覚サーキット-」では、体験者がまずミニ四駆の「ボディ」(2種)、「メインカラー」(3色)、「サブカラー」(5色)、「サーキット演出」(3種)をカスタマイズ。サーキットでは選択したカラーが真っ白な車体に投影され、演出映像とともにレースがスタートする。


音と光とミニ四駆のコラボレーション

レースでは、ソニーが開発した高速ビジョンセンサー『IMX382』が搭載されたカメラシステムを使い、高速で走行するミニ四駆をリアルタイムにトラッキングしてマッピングしていく。終了後は、その場で記録した動画のダウンロードも可能だ。


画像のように、自身で選択したミニ四駆のカラーが車体に投写される。また、走る様子を記録した、自分だけのオリジナル動画も持ち帰ることができる

約1分間のレースとともに流れる映像は、レトロゲーム風の世界観から、近未来SFのような世界観へとシーンが徐々に変化する。ミニ四駆の疾走感と映像、そしてサウンドのコラボレーションが、見る人に懐かしさと共に未体験の驚きを与える。

ソニーの梶尾氏に今回のプロジェクトが生まれたきっかけについて尋ねると、「ソニーは、テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」だとし、次のように答えた。


ソニー株式会社 ブランド戦略部 ロケーションブランディング課統括課長 梶尾 桂三氏

梶尾「ソニーのセンシング(センサー(感知器)などを使用してさまざまな情報を計測・数値化する技術)の最新技術は、私たちの生活の中にさまざまな形で、活用されてきていて、その技術を、エンタテインメントの表現方法として昇華させられないか、よりおもしろく新しい使い方ができないかと考えていました。そこで考えたのがミニ四駆です。高速ビジョンセンサーの特徴を生かすならば、高速に疾走するミニ四駆を組み合わせることで、技術に基づいて表現の幅を広げることが可能になるのでは、と思ったんです。さらに、より高いレベルのエンタテインメントにするために、新進気鋭のPERIMETRONと組むことで、今までとは違ったクリエイティブにおける新たな表現が生まれることを期待しました」

さらに、ソニーはクリエイターとの「共創」を重要視してきたといい、最大限のサポートをしていきたいと梶尾氏は語る。

梶尾「ソニーは、技術を通してクリエイターと協力し、映像や音響等、さまざまな分野でクリエイターの夢や表現したいものを実現できるように努めてきました。それにより、クリエイターの表現の幅を広げ、世の中に多くの感動を届けることを目指してきたんです。それには、若くて将来クリエイターを目指す次世代クリエイターとの共創を行い、ソニーの技術でサポートすることで、世の中にクリエイティビティを発揮する機会と可能性を拡げることがとても重要だと考えています」

リアルタイム性を追求し、人間の“違和感”をなくす

「High Speed Colors -ソニーとつくる、新感覚サーキット-」で使用されている技術は、1000fps(1秒間あたり1000枚の高速画像処理)という速さで物体を認識し、追跡ができる高速ビジョンセンサー『IMX382』だ。

『IMX382』のチップのサイズは、約10ミリ角。この小さなチップひとつで撮像から対象物の検出、追跡まで処理ができる。これにより、一般的な「毎秒30フレーム」のイメージセンサーでは実現が難しかった、「高速に移動する対象物や現象」を捉えられるようになった。また、画像情報から対象物を検出し、ソニー独自のアルゴリズムにより、重心位置や面積、動きの方向などの高速情報処理や、システムへの高速なフィードバックなども実現した。

今回のプロジェクトにおいて、技術面を支えたソニーの大山田氏は、「IMX382により、1/1000秒でミニ四駆の位置を算出し、独自の予測アルゴリズムとの掛け合わせで、精度の高いプロジェクションが可能になりました」と話す。


ソニーセミコンダクタソリューション株式会社 システムソリューション事業部 大山田 光夫氏

今回のシステムには、「ゼロレイテンシー予測アルゴリズム」が採用されている。「レイテンシー」とは感覚的遅延のことで、この遅延が少なければ少ないほど、人間は遠隔で何かを体験した際に感じる“違和感”がなくなる。

また今後、5G(第5世代移動通信システム)時代に起きる技術革新について、大山田氏はこのように語る。

大山田「5Gや6Gという、今後実現していく高速かつ低遅延な通信技術の発達に伴って、事象を正確でリアルタイムに捉えるセンシング技術の重要性は、より一層高まっていくと考えられます。イメージセンサーだけではなく、あらゆるセンシング技術がこの流れに沿った進化をしていくはずです。エンタテインメント領域であれば滑らかで違和感の無いインタラクションが重要になりますし、遠隔地の機械等を操作する遠隔制御などにとっても活用機会は増えてくると考えらえますね。ソニーとして今後は、“低遅延できちんと正しくセンシングしていくこと”に注力していきたいです」

トライ&エラーを繰り返し、新たな発想へとつなげる

そして、今回の最先端技術を、アート作品へと昇華させたのが、PERIMETRONのメンバーとサウンドを担当したDr.Pay氏だ。今回のプロジェクトに関わるきっかけについて、PERIMETRONのプロデューサーの西岡氏は、「普段ぼくたちはMV(ミュージックビデオ)などのグラフィックをつくることが多いなかで、今回はいつもの仕事とは明らかに違うキーワードだったので、コラボレーションしたらどんな可能性が生まれるのか興味を持ちました」と語る。


PERIMETRONメンバーとDr. Pay

新しい技術を前に、メンバーたちもまずは最新テクノロジーに興味を持ったと口を揃える。ARATA氏は「センシングで何ができるのか、どんな動きができるのかをまずは考えて、どうクリエイティブと掛け合わせられるのかを模索しました」と語り、さらにISSA氏が「最新技術なので、実際に取り入れること自体は難しかったけど、どんなクリエイティブにすればいいかの構想はすぐに沸いたよね」と話すと、全員が頷いた。

今回のような技術は、やはりクリエイターからしても興味深いものであり、技術だけではなし得ないクリエイティブな発想やノウハウと交わることで、新しいシナジーを生むようだ。

また神戸氏は「自分もミニ四駆世代だからこそ、慣れ親しんだものをクリエイティブでアップデートできることは嬉しい」と話す。20代後半の彼らにとって、ミニ四駆はまさに幼少期に慣れ親しんできたコンテンツのため、思い入れやどうすればおもしろくなるのか、といったクリエイティブへの筋道は見据えやすかったようだ。

サウンドを担当するDr.Pay氏は弱冠20歳ではあるが、ミニ四駆についてはYouTube動画で学び、サウンドに対する着想も得たようで「いままで触れたことのないコンテンツと、それを新しく見せることのできる技術にサウンドを組み合わせることは、純粋に楽しかった」とコメント。ソニーの目指す“技術によって表現の幅を広げる”という、クリエイティブのアイデアや可能性を広げることが実際に可能になった瞬間となったようだ。

実際に、ソニーからの提案を受けたメンバーは、初回の打ち合わせ後すぐにアイデアのブレストを行なったそうだ。ISSA氏は現場での作業について「自分たちがやりたいことと、技術的な面で実現できることを、ソニーのみなさんと確認をしながら、現場でトライ&エラーを繰り返しました」と作業期間を振り返る。

技術面を担当したソニー大山田氏が「今回、高速でのマッピングが成功したことにより、様々な可能性を考えられるようになりました。本来のミニ四駆のスピードは今回のものよりも速いものもあるので、コースアウトの危険性なども考えると現状ではまだ実現が難しいですが、たとえば今後はミニ四駆同士の対決というアイデアも実現できたら面白いかもしれないですね。発想次第で無限の可能性が広がる点も、技術×エンタテインメントの楽しいところだと思います。」と話すと、「たしかに対決という形を取れれば、また新しい次の可能性が出てきて、一層楽しそう!」と、クリエイター側にも刺激を与えられるコンテンツとしての可能性を感じさせた。

メイキング映像

技術とクリエイティブの力で、「世界を感動で満たす」

ソニーと協力することで最先端技術をアート/ミュージックというクリエイティブに取り入れたPERIMETRON。今回の経験を経たことで、メンバーに今後高速ビジョンセンサーはどのようなことに取り入れられる可能性があるのかを問うと、「リアルミニ四駆のように、地上を高速で走るレーシングカーにマッピングしたり、スノーボードやスケートボードなどのエクストリームスポーツの分野で派手な演出に使えたら、とても盛り上がるかもしれない」というアイデアが返ってきた。クリエイティブの観点からしても、今回の高速ビジョンセンサーの技術は、いままで考えもつかなかった”アイデアを生み出すきっかけ”となっているようだ。

これに対し、ソニーの梶尾氏は「ソニーの生み出す技術を通してこういうアイデアが生まれることが、一番望んでいたことなんです」と応える。

梶尾「クリエイターのみなさんが私たちのテクノロジーを使うことで、いまよりももっとクリエイティブな表現が可能になる。そうすると世の中はもっとワクワク・ドキドキで満たされていくと思うんです。冒頭にも触れましたが、私たちソニーのPurpose(存在意義)は、『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす』ということ。今回、PERIMETRONと一緒に想像を超える作品を創り上げられたことは、私たちの描く感動への第一歩なので非常に嬉しいし、大きな価値を感じています」と、今回のプロジェクト全体を振り返った。

そして、今回、使用された高速ビジョンセンサーは、今後、エンタテインメントという枠を超えて、社会の課題解決に結びつくこともありそうだ。

梶尾「ソニーのセンサー技術には、幅広い用途があります。例えば、皆さんが普段使われているカメラやスマートフォンはもちろん、街中のセキュリティカメラなどにも、ソニーのテクノロジーが使われています。今回の企画のようにエンタテインメント領域における活用に加え、今後は、私たちの生活のなかに自然と技術が溶け込んでいき、世界の”安心・安全”にも貢献していけるのではないかと思います。」

今回披露されたソニーのセンシング技術はイノベーションの序章に過ぎない。ソニーはこれまで、技術とエンタテインメントの“融合”で世の中にインパクトを与え、変革してきた。それは文字通り、私たちのライフスタイルにおけるそれまでの考え方を、根底から変えてしまうほどの衝撃だ。だが、既存のものをディスラプト(破壊)するのではなく、ハーモニー(調和)の歴史だといえよう。つまり、生活者の中に自然と溶け込むイノベーションだ。

ソニーのセンシング技術はいずれ、動くものを認識するだけでなく、人への認識の精度をも高め、エンタテインメントはもちろんスポーツ、セキュリティ、ビジネスにおいても影響を与えていくはずだ。このイベントでは、その小さな一歩を証明した。次はどのようなワクワクした未来を見せてくれるのだろうか。

「世の中を感動で満たす」という、ソニーの飽くなき挑戦は、これからも続いていく。

ソニースクエア渋谷プロジェクト
【場所】渋谷モディ1階(東京都渋谷区神南1-21-3
【営業時間】11:00~21:00
※年中無休 但し1月1日、及びイベント準備期間は除く
※営業時間は渋谷モディに準じる
※現在実施中の「High Speed Colors -ソニーとつくる、新感覚サーキット」は2/13~4月下旬(予定)まで

ソニースクエア渋谷プロジェクトサイト
>>https://www.sony.co.jp/square-shibuyapj/

文:野口 理恵
撮影:西村 克也

モバイルバージョンを終了