ゲームと観光の融合、eスポーツイベントの経済効果は2日で3億円?

「ゲーム」と聞いて何を連想するだろうか。「オタク」や「インドア」といった内向的なイメージを持つ人は少なくないはずだ。

しかし、eスポーツの盛り上がりなどによって、ゲームに対するイメージは変化しつつある。

そのような変化は「観光」と「ゲーム」の融合によって、一層加速する可能性が見えてきた。

観光は外向き、ゲームは内向きという相反する既存のイメージがあり、これまでの感覚ではこれら2つの事柄を結びつけて考えるのは難しいかもしれない。しかし、世界各地では、ゲームによって観光を盛り上げようという動きが広がりつつある。

ゲーム市場専門の調査会社NewZooは、ゲーム市場における最新トレンドの1つとして、eスポーツを観光アトラクションとして捉え、積極的にeスポーツリーグの開催に取り組む都市が増えていることを挙げている。

中国テンセント傘下の米ゲーム開発会社Riot Gamesのレポートによると、Riot Gamesが開発した人気ゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」のeスポーツリーグ「リーグ・オブ・レジェンド・欧州チャンピオンシップ」が2019年4月にオランダ・ロッテルダムで開催されたが、開催期間の2日間でおよそ240万ユーロ(約2億9,000万円)の経済効果がもたらされたという。

開催場所は1万5,000人を収容できるAhoy Arena。同レポートによると、オランダ国外から来た観客の割合は87%に上った。eスポーツが盛んな中国や韓国、さらには南米ペルーからやってきた観客が多かったようだ。


オランダ・ロッテルダム

Riot Gamesは2019年から同リーグ開催でホストシティ・プログラムを開始。40都市が名乗りを上げ、ロッテルダムが最初の都市として選ばれた。2020年は春ファイナルが4月にハンガリー・ブタペストで、夏ファイナルがスウェーデン・マルメで開催される予定だ。

eスポーツリーグはこのほかにもさまざまなものがあり、1年を通して世界各都市の間でeスポーツファンの大移動が頻繁に起こるようになっている。

カジュアルなゲーム・ホテル、オランダや台湾に登場

こうした中、eスポーツファンやカジュアルなゲームファンの取り込みを狙うホテルが世界各地に登場し、ゲーマーの間で注目を集めている。

「世界初のゲーム・ホテル」を謳うのが、オランダ・アムステルダムにあるThe Arcade Hotelだ。

同ホテル最大の売りが「Game Room」。25平方メートル(約13畳)の広さの部屋に、任天堂スイッチやプレイステーションといったカジュアルゲーム機だけでなくハイスペック・ゲーミングPC、ディスプレイ、ゲーミングチェア、ヘッドセットなどハードコアなeスポーツファンも満足させる機器・アクセサリーが備え付けられている。

Booking.comなどのオンライン予約サイトにも掲載されており、各部屋1万〜3万円ほどで宿泊できるようだ。


The Arcade HotelのGame Room(The Arcade Hotelウェブサイトより)

台湾・桃園市にある「i Hotel」もゲーマーの取り込みを狙うホテルの1つ。PCゲームでは定番のグラフィックボードNVIDIA「GTX1080 Ti GPU」を搭載したハイスペック・ゲーミングPCに加え、ゲーミングチェアが各部屋に備え付けられている。

1部屋の宿泊料金は1万〜2万円ほどだが、オンライン予約サイトでは50%ほど値引きされている。

高級ホテル・ヒルトンも本格ゲーミングルームを提供

上記オランダのThe Arcade Hotel、台湾のi Hotelはともにカジュアルなホテルだ。一方で、高級ホテルもゲーマー客を取り込む施策を開始している。

その先陣を切ったのがヒルトン・ホテルだ。

ヒルトン・パナマは米ゲーミングPC企業Alienwareとのコラボレーションで、同ホテルの2425号室を本格ゲーミングルームに仕立て上げた。2018年4月にローンチし、一泊4万円ほどで提供している。

同ホテルのウェブサイトからオンライン予約が可能だが、1年先のスケジュールを調べても「not available」となる。かなり先まで予約で埋まっており、その人気のほどがうかがえる。

2425号室のゲーミングデスクトップPCは以下のスペック。Core i7-8700プロセッサ、32GB RAM、512GB SSD、1TB HDD、NVIDIA GTX 1080 Ti。

ゲーミングチェアやゲーミングディスプレイのほか、65インチ4K OLEDテレビ、5.1chサラウンドの音響システムも完備。ゲーミングラップトップもあり、パナマの太陽を浴びながら、屋外でゲームをすることも可能だ。


ヒルトン・パナマの2425号室(ヒルトン・パナマウェブサイトより)

ゲーム企業の元祖Atariも全米にゲームホテルを開設へ

世界初といわれるゲーム企業である米国のAtariもゲームホテルに参入する。

同社は2020年1月、米国8都市に独自ブランドのホテルを開設する計画を発表。第1号は、アリゾナ州フェニックスに開設する予定だ。

2020年秋頃に建設を開始し、2年以内の完成を目指す。このほか、ラスベガス、デンバー、シカゴ、オースティン、シアトル、サンフランシスコ、サンノゼでのオープンを計画しているという。


Atariが計画中のゲームホテル(Atariウェブサイトより)

Atariといえば卓球ゲーム「ポン」などのレトロゲームで知られているが、ホテルの部屋でもそのようなレトロゲームが楽しめるようになるようだ。一方、同社プレスリリースによると、VRやARを駆使した新しいゲーム体験もできるようになるとのこと。

また、eスポーツの会場兼宿泊施設としても機能させる狙いがあることも明らかにしている。

ゲームに対する印象は世代によってさまざまだろうが、ゲームとともに育ったミレニアル世代やZ世代にとって、ゲームは友人・家族とのコミュニケーションを活性化するもの、また世界中の人々とつながるソーシャルな空間でもあり、さらに懐かしい記憶を蘇らせてくれるものでもある。

若い世代へのアピールとしてゲームを用いるのは好手といえるのではないだろうか。ホテルとゲームの融合は、観光産業をどのように変えていくのか、今後の展開が楽しみだ。

文:細谷元(Livit