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2020年は東京オリンピック開催に向けての最新システム導入や5Gのローンチなど、日本社会を取り巻くデジタル環境に大きな変化が生じる。
デジタルトランスフォーメーション(DX)による社会変革に注目が集まる今日、NTTドコモ・ベンチャーズは、2020年2月7日(金)に「Innovate. Keep on Blending.」をテーマとしたオープンイノベーション「NTT DOCOMO VENTURES DAY2020」を開催した。
同イベントでは、株式会社NTTドコモ 代表取締役社長 吉澤和弘氏が自社に関する5Gの取り組みを、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 稲川尚之氏は2019年の事業報告を中心に基調講演を実施した。
続けて行われた「Innovation前夜」では、Deportare Partners 代表 為末大氏、ロンドンブーツ1号2号/起業家 田村淳氏を登壇者に迎え、イノベーションの源泉やプロセスについて両者の経験を元に、独自の視点で切り込んでいく。
Keep on Blendingの名の通り、ベンチャーと混ざり合うことで自身も変化しようとしているNTTドコモ。「5G」「イノベーション」などの切り口から変革の最前線を探っていく。
5Gは「デジタル変革」の大黒柱
株式会社NTTドコモ 代表取締役社長 吉澤氏は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するための一番太い柱が5G」だと話す。
吉澤:「UI/UXの抜本的な改善」「革新的なサービスの創出」「生産性の向上」を実現し、新たな価値創出、社会的課題解決を達成するためには、DXが欠かせません。AI、IoT、AV/VR、クラウドなどの要素の中でも5Gの存在がどの柱よりも一番重要なのです。
さらに、「5Gはパートナーとの協創手段」と吉澤氏は強調する。
吉澤:5Gはあくまでも手段であって、パートナーと活用することで確信的なサービスが生まれます。既に3,200を超える企業・団体がパートナーとして参加しており、各種トライアルや5Gサービスの実現に向けて動き出しています。
最後に吉澤氏は「5G 時代のあたらしいサービスを作り出していくためにもベンチャーとの協業を加速していきたい」と語り、次世代サービスへの期待を伺わせた。
事業開発とのコラボを重視した「質的深化」
続いて、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 稲川氏が、自社の2019年の取り組みについて報告した。
稲川:投資においては、「質的深化」を重視し行動しました。私たちは財務リターンを狙うキャピタルではないので、事業開発そのものが鍵を握ると考えています。投資家目線で考えると、質は重要なファクターとなるため、2019年は重視してきました。だからこそ、企業と混ざり合う中で何をしていくか考える時間を作り出したんです。
続けて、2019年に重視した領域について説明がなされた。
稲川:私たちは「5G」「DX」「マイクロマーケティング」の領域に投資を実施しました。 外国企業へも投資し、 スタートアップへの投資は過去最多です。 NTTグループとの協創も32件実施し、 窓口・アクセスポイントとして頑張っています。
2020年も、国内外を含め、未来への挑戦者の価値についていち早く気づき、背中を押していくことを述べ、基調講演は終了した。
イノベーションは狙って生み出すものではない
ゲストセッションでは「Innovation前夜」をテーマに、為末氏、田村氏が登壇し、モデレーターとして 稲川氏が参加した。今回のテーマが選ばれた背景を、稲川氏は次のように話す。
稲川:為末さんと飲んだ時、「イノベーションが起こった日も気になるのですが、その前の夜ってどうなってるんだろう」という話をしたんです。だからお二人とこのトークテーマで話してみたくなりました。淳さんはイノベーションから連想されることって、なんだと思いますか?
稲川氏からのフリに、田村氏は「イノベーションを起こそうという人が成功したことを見たことがない」と述べると会場から笑いが漏れた。
田村:僕、イノベーションって、意識して起きるものではないと思うんです。実際にイノベーションを起こした人と話してみると、イノベーションにこだわっている人は誰もいません。社会を良くしたいという思いから何かしらのアイデアを持つ人が、イノベーションを生み出しているんです。僕はイノベーションを起こそうとしている人で成功した例を見たことがありません。
続いて為末氏が、走り高跳びの背面跳びを生み出したホスベル氏のエピソードを紹介。イノベーションが誕生するタイミングについて自身の考えを次のように説明する。
為末:ホスベルは、背面跳びを生み出そうと思ったわけではなく、気がついたら飛び方が背面跳びになっていたそうです。誰も見たことのない飛び方ではコーチに怒られるため、練習では飛ばずに、オリンピックの本番で初めてその姿を披露しました。そして、背面跳びという「名前がついたこと」で存在が認識され、走り高跳びのイノベーションとなったんです。
つまり、初めは何だか分からなかった飛び方でも、 「名前」がついたことで大衆もその存在を認知することが出来た。それによって、従来とは異なる1つのスタイルとして確立され、イノベーションの誕生となったのだ。
イノベーションのきっかけは枠の外の人かも?
「紅茶もお茶のイノベーション」という話を田村氏が切り出した。
田村:船で茶葉を運んでいたら、いつの間にか発酵していたそうなんです。それを捨ててしまうのはもったいないと飲んでみた人がいて、その結果、紅茶が誕生しました。従来のお茶が紅茶になった瞬間です。
すると為末氏が、「そのイノベーションを発見したのは誰か?」と切り返した。
為末:このような時、気になるのが「誰がその紅茶を飲んでみようと言い出したのか?」だと思うんです。茶葉を発見した人が飲んだのかもしれないですが、もしかしたら全く関係のない周囲の人が茶葉を見て「試しに飲んでみたら?」と勧めたのかもしれません。それこそ、新しいものを作ろうとした訳ではない人が、知らないうちにイノベーションへ導いていた可能性があります。
何となくの言動がきっかけで、想定外の化学反応を引き起こすかもしれない。自身の気づきや発見は、他者からみたらイノベーションだったなんてことは充分にあり得るのだ。
コミュニティーの境界に「こっそり隠れている」面白さ
企業の事業開発や新規事業担当者は、イノベーションを我先に見つけようと、オフィスで眉間にしわを寄せ試行錯誤を重ねているかもしれない。為末氏は自身の経験とからめながら「コミュニティーの内側にずっといると、物事の本質から離れてしまう可能性がある」と話す。
為末:短距離の選手は、記録を1秒でも縮めるためにも、手足を速く動かすことに囚われてしまいます。しかし、短距離の本質は胴体を前に運ぶことにあり、そこから新たな発見が生まれたりすると思うんです。短距離、ひいては陸上の枠内だけに居ると、こうしたシンプルな問題を忘れてしまうかもしれません。
つまり、いつもと違う視点から普段の物事を見れるかどうかが、イノベーションを起こすためのポイントとなる。為末氏は、「普段のコミュニティーから一歩外へ出た時、その境界線にこっそりとイノベーションが隠れているかもしれません。」と話を続けた。
為末:陸上は、練習場を変えるのですら、正直大変なんです。それは、村っぽい文化があるからなんですが。だけど、いっそ陸上というコミュニティーを出て、外から眺めた時、その境にイノベーションぽいものが隠れていることに気がつきました。
例えば、一般の人が陸上を語る時は、「短距離走のことを”かけっこ”」のように、専門用語を使わず馴染みのある言葉で表現します。陸上をする人は怒るかもしれませんが、そのほうが本質が見えてくるんです。外から見ている人が言うことにはヒントが隠されていることに対し、「これは面白い!」と思いました。
その後も田村氏が巧みなトークで場を沸かせ、盛大な拍手の中、イベントの幕は閉じた。
〜イベントを終えて〜混ざり合いが生み出す新たな発見
基調講演、ゲストセッションにおいてところどころで登場したのが「混ざり合い」と言うキーワードだった。これは本イベントのテーマでもある。イノベーションにしても、DXに向けたアイデア画策にしても、積極的に異分野や初めて会う人と関わることで得られる新たな知見について、その可能性を示してくれた。
机の上でイノベーションやデジタル領域のアイデアを考えているビジネスパーソンがいたら、ぜひこの機会に外へ出て、他者と交流してみてはいかがだろうか。もしかしたら、ふとしたきっかけで、新たな閃きが得られるかもしれない。
取材・文:杉本愛
写真:西村克也