ゲーマーのいじめ対策はテクノロジーで。マイクロソフトなど各社が取り組む 「毒性」からの解脱

残念なことだが、ゲームの世界にも「いじめ」が存在する。

オンラインでゲーマーのコミュニティが世界中に拡大する現在、匿名のプレーヤー同士のののしり合いや人種・性別・経済的格差などに対する差別やヘイトなども無視できない問題に発展してきている。

こうした「Toxic(毒のある)」な言動に対処し、ゲーム界にポジティブなイメージをもたらそうと、マイクロソフトをはじめとするゲーム各社が対策に乗り出している。


オンラインで世界中のプレーヤーとつながって遊ぶ子供たち。ゲームの世界に「理想郷」はあり得るか…?(写真:筆者撮影)

ののしり言葉が氾濫するオンラインゲーム


白熱する中、怒号が飛び交うゲームプレイ。(写真:筆者撮影)

「Fxxk!Shit!Mother Fxxker!」――ヘッドフォンを付けてオンラインゲームをしながら、ライブチャットで飛び交う言葉は恐ろしく汚い。もちろん、友達同士で白熱した戦いを楽しむ中で、冗談半分に投げかけている言葉ではあるが、傍で聴いていると思わず顔をしかめてしまう。

しかし、中にはそのスキルの稚拙さを本気でののしられたり、参戦した女子があらゆる呼び名で侮辱されたり、アフリカ系アメリカ人がリンチの場に呼ばれたり……といったいじめに直面しているプレーヤーも少なくない。

いじめやハラスメントの問題に取り組むオンライン組織「Ditch the Label」が12~25歳の若者2,515人を対象に実施した調査によると、2017年時点で「オンラインゲームでいじめを経験したことがある」と答えたのは、全体の57%に上った。

中には個人情報や写真をオンラインでシェアされ、「リアルライフ」でいじめられた被害者もいる。

「オンラインゲームで誰かをいじめたことがある」と答えたのは20%。「初めは冗談ぽくののしっていたが、知らない相手だし、ゲームをしながら罵倒がエスカレートしてしまった」と語るゲーマーもおり、匿名性ゆえの歯止めのなさもうかがい知れる。

「オンラインゲーム上のいじめをもっと真剣に考えるべきだ」とする声は、全体の74%に上った。

「Xbox Live」の毒メッセージをフィルターに

オンラインゲームのいじめ対策として、マイクロソフト社は2019年10月、ゲームプレーヤー用のチャット「Xbox Live」に、メッセージのフィルター機能を導入した。誹謗中傷や差別的発言など、非適切な表現のテキストメッセージを遮断する設定を可能にするものだ。


マイクロソフトはゲーマー用チャット「Xbox Live」でメッセージのフィルター機能を導入。「非設定」から「フレンドリー」まで4段階の設定が可能。(マイクロソフトのホームページより)

フィルターの設定は「Unfiltered(非設定)」「Mature(大人向け)」「Medium(中間)」「Friendly(フレンドリー)」の4段階に分けられており、「フレンドリー」設定が一番厳しく、子供向けにはこの設定が自動的に導入される。

例えば、「Noob(スラングで初心者をバカにする表現)」「Destroy(破壊する)」はフレンドリー設定でも表示されるが、「Slaughter(屠殺)」「Shit(くそ)」など、攻撃的な表現になると、「Potentially offensive message hidden(不快な可能性のメッセージを非表示)」というテキストが現れる。

それでもメッセージの内容を見たい場合、「中間」以降の設定にしている人は、そのメッセージをクリックすれば隠されたメッセージが見られる仕組みとなっている。もちろん、メッセージにより傷つけられた人は、それをレポートすることも可能だ。


攻撃的なメッセージは「Potentially offensive message hidden(不快な可能性のメッセージを非表示)」で表示される。(マイクロソフトのホームページより)

マイクロソフトXbox事業部長のデーブ・マッカーシー氏がテック系オンラインメディア『The Verge』に語ったところによると、フィルター機能は現在、テキストのメッセージに限られているが、将来的にはテキスト同時変換技術などを使ってオーディオチャットにも同機能を広げていきたい考え。

テレビで禁止用語が「ピー」という音で遮断されるように、音声にフィルター機能をつける構想だ。

しかし、ゲーマーたちが会話をしながらゲームプレイをする中、遅延なく言葉をフィルターにかけるのは相当の技術を要する。

それを実現するまでの期間は、例えばあるセッションで交わされる会話の「毒性」レベルを測り、それが一定のレベルを超えた場合はセッションを自動的に無音にしてしまうといった措置も視野に入れているという。

「ゲームはすべての人のためのもの」として、マイクロソフトは2019年5月に「Xboxのコミュニティ規範」を更新し、ハラスメントなどの定義や対処を記した。しかし、相変わらずはびこるゲーム上の嫌がらせに、今度はテクノロジーを使ってこれに対処する方策に出たというわけだ。

サムスンは「フォートナイト」のいじめ対策


人気ゲーム「フォートナイト」でサムスンが無料で提供した「Samsung Fortnate Glow」スキン。(Sammobileホームページより)

世界中で大ヒットしているゲーム「Fortnite(フォートナイト)」でも貧富の差に根差したいじめが横行している。これはゲーム機やコンピュータ、スマホなど多様なデバイスでプレイ可能な無料ゲームで、100人が一つの島に降り立ち、最後の1人になるまで戦うという「バトルロワイヤル」だ。

1ゲームの勝者は1人という狭き門なので、プレイで輝くことは難しいのだが、自分のプレイするキャラクターのコスチュームや動き(エモート)を変えることでオリジナリティを出して楽しんたり、建物などを自分で作り出したりするクリエイティブな面があったりして、ただのシューティングゲームとは一線を画するゲームとなっている。

しかし、問題なのはこのコスチュームとエモート。これらは有料であるため、子供たちの間ではこれがステータスシンボルになっているのだ。高いものは、50ドルもするという。

初期の無料コスチュームしか持っていない子供が「デフォルト(初期設定)」と呼ばれたり、仲間外れにされたりと、貧富の差によるいじめが横行していることがツイッターなどで報告されている。

こうした問題を受け、サムスン・ブラジルは2019年11月、フォートナイトとのコラボレーションでいじめ対策に乗り出した。同社のデバイスでフォートナイトをダウンロードすることにより、期間限定で無料の「Samsung Fortnate Glow」スキンを提供。

友達にもプレゼントすることを可能にした。同社はブラジルのインフルエンサーの協力を得て、「“デフォルト”プレーヤー」へのコスチューム贈与を全国のゲーマーたちに呼びかけたという。

この動きと連動し、クリスマスにはフォートナイトからも無料コスチュームが「プレゼント」された。無料とはいえ、コスチュームの種類が増えるだけでも、心理的に子供たちを救っている。

ゲームの中で「いじめ体験」


プレイステーションのゲーム「アッシュと魔法の筆」では、少年がネガティブなことにクリエイティビティで立ち向かう。(プレイステーションのホームページより)

マイクロソフトやサムスン・ブラジルの試みは、いじめられる側をサポートするものだが、「いじめをなくす」という根本的な問題解決にはなっていない。

そこでグーグルはより根本的な解決を目指し、2019年11月に立ち上げた新たなゲームプラットフォーム「Google Stadia」で、「GYLT」というエクスクルーシブなゲームをリリースした。

そこでは、主人公のサリーという女の子が従妹を探して旅をしながら、さまざまな困難に直面する……というゲーム展開の中で、プレーヤーがいじめられっ子の感情を体験できるように工夫されている。

ゲームに込められたメッセージは、「いじめ反対」。疑似体験で嫌な気分を味わうことで、他人の気持ちにも寄り添えるプレーヤーを増やしたいという製作者の意図がうかがえる。

一方、ソニーのインハウス・スタジオ「Pixelopus」が開発した「アッシュと魔法の筆(Concrete Genie)」もいじめに立ち向かう少年を主人公としている。そこでは魔法の筆を手に入れた少年・アッシュが、絵の力でさびれた街をよみがえらせるという物語が展開される。

ネガティブなことにクリエイティビティで立ち向かう主人公に、自分を投影させながらプレーができるようデザインされているのだ。

同ゲームのデザイナーJingLi氏は、「世界をアートやクリエイティビティや、ポジティブなエネルギーで満たしているような感じを味わってほしい」と述べている。

見知らぬ人同士でも国境を越えて楽しめるオンラインゲームの世界。うまく行けば世界をつなげるユートピアとなり得るが、なかなかそうはいかないのが人間社会の常。万人が楽しめる理想郷を求めて、ゲーム各社の試行錯誤は続く。

文:山本直子
編集:岡徳之(Livit

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