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地球上のあちらこちらで地球温暖化の影響があからさまになるにつれ、動きの遅い政府に任せている場合ではないと、一般市民が立ち上がるようになった。
極力自然環境に負担をかけない生活を送ろうと活用しているのが、自らの購買力だ。環境への影響を抑え、倫理にかなった商品を選び、購入しているのだ。
企業側も要望に応じ、生産地の表示を行うなどしている。しかし、商品を目の前にした際、「これなら!」と自信を持って購入に踏み切るために有用な情報はいまだ不足気味だ。
そんなケースに役立つアプリが、実験段階ながらお目見えした。「シチズン・ポータル」だ。商品を買う際だけでなく、リサイクル法といった使い終えた際に重宝する情報をも網羅しているのが特徴。
スマホアプリとQRコードだけで、一般市民を「ただの消費者」から、「エココンシャスな消費者」へと変身させてくれる。
ますます増加の一途をたどる、サステナブルな商品の売り上げ
環境と倫理を念頭に置いて買い物に臨もうという消費者は世界中で増加している。自らの購買力にものを言わせ、環境・倫理の両面において、より良い世界を構築したいという意欲の表れだ。
米国を例に挙げると、環境への影響を抑制するために、自らの消費習慣を変えることを明確にしている人、または変える可能性があるとする人は、消費者の48%に上る。マーケティングリサーチ会社、ニールセンが2018年に行い、発表した報告書による数値だ。
人々がサステナブルな日常消費財(FMCG)に費やした金額は1,285億米ドル(約14兆円)。2014年からこうした商品の売り上げは、年々約20%の伸びを見せている。
年平均成長率は従来製品の4倍にも及ぶ。2021年までにサステナブルなFMCGの売り上げは、140億米ドル(約1,500憶円)から220億米ドル(約2,400億円)までの増加が予想され、最高で1,500億米ドル(約16兆円)に達すると見られている。
現段階これを支えるのが、ミレニアル世代。環境への影響を抑えるために、消費習慣を変えることを明確にしている、もしくは変える可能性があると回答したミレニアル世代は75%にも上る。また高めの値段でも90%が環境に配慮した商品を、80%が倫理にかなった商品を購入するとしている。
エココンシャスな消費者のためのプラットフォーム「シチズン・ポータル」
「シチズン・ポータル」はQRコードを用い、商品の生産各段階で排出される二酸化炭素の量などの情報を消費者に提供してくれる(世界経済フォーラムのウェブサイトより)
ニールセンでヘルス&ウェルネス成長戦略部の副部長を務める、サラ・シュマンスキー氏は、商品購入にあたって、デジタルデバイスが重要な役割を果たしていることを強調する。先の報告書でもそれは裏付けられている。
米国内のサステナブルな消費者の70%近くがインターネットを利用し、情報収集やソーシャルメディアを利用していることがわかっている。つまりスマートフォンやタブレットなどで、ネットショッピングをしたり、検索するなどして商品知識を得たりしているというわけだ。
そんな状況を背景に、サステナブル志向の消費者が環境・倫理面で理想に近い買い物できるようサポートするプラットフォーム、「シチズン・ポータル」が開発された。
同ポータルは3つの企業・組織の協力のもと立ち上げられた。ビジネス向けソフトウェア開発大手である、ドイツのSAP、資産の所有者情報や過去の所有権の移転などの安全管理のためのデジタル記録の制作を手がける、英国のエバーレジャー、そして世界経済フォーラムがタッグを組んでいるのだ。
現段階では、「シチズン・ポータル」の対象はコンピュータ・IT関連商品に限られているが、消費者は専用アプリをダウンロードしたスマホを使い、店頭でQRコードをスキャンするだけで、当該商品が環境にどのような影響を及ぼしているかについての情報を入手できる。
ポータルには、商品生産の各段階における情報が保管されており、消費者に見やすい形で表示される。そしてその情報をもとに納得がいく商品を購入する。
サーキュラー・エコノミーの実現を目指して
「シチズン・ポータル」が目指すのは、サーキュラー・エコノミーだ。サーキュラー・エコノミーの実現のために、同ポータルは特に2つのことを意識して立ち上げられた。
1つは、透明性の確保だ。ニールセンの先の報告書でも、環境・倫理面に配慮して買い物をする消費者が、生産過程上の透明化を求めていることは明らかだ。2030年までには、こうした消費者が米国内で大多数を占めるようになることが予想されており、「透明性」は最重要事項の1つなのだ。
そしてもう1つが、エココンシャスな消費者が、求める情報をいつでもどこでも入手できることだ。コンピュータ・IT関連商品の購入にあたっては、商品の環境への影響を知っておきたいところ。
ポータルで、生産各段階で排出される二酸化炭素の量や、水などの希少かつ貴重な資源や材料の使用量などの情報を確認・判断できれば、環境・倫理の改善を期待できる。
また、「シチズン・ポータル」が対応しているのは、商品購入時の情報だけではない。商品が使用できなくなった際に、どのような処理方法があるかが提示される点も高く評価できる。どこでいつ、当該商品を処分できるかが明確になっているのは、ごみ問題が深刻化する一方の今、重要なことだ。
例えば、持ち込み先がもともとそれを生産した工場であれば、生産者側は消費者から使用済み商品を受け取ることが見込まれているわけなので、リサイクルしたり、それから別の商品を製造したりすることが計画的にできる。
生産プロセスにおいて途切れていた、商品の廃棄から生産の部分がつながることになり、サーキュラー・エコノミーの実現に一役買う。
環境・倫理に配慮する人のためのアプリはそのほかにも
英国・ニュージーランド両国内で展開するアプリ「CoGo」。消費者の近辺にあるエココンシャスな店舗を教えてくれる。ビデオはニュージーランド版
環境・倫理面に配慮してショッピングをするのに役立つ情報を提供する、消費者向けのアプリはほかにもある。どれも少し似ているが、各々特徴がある。
「GoodGuide」は格付けを行い、一般消費者にもわかりやすい商品情報を提供している。対象は米国を中心に販売されている、約7万5,000点のトイレタリー、化粧品、家庭用品だ。格付けは成分情報を分析した上のもの。評価の理由も添えられている。
サステナブルでエシカルかどうか、健康に良いかどうかといった情報を提供してくれるのは、「HowGood」と「Giki」だ。
「HowGood」は米国内で販売されている約100万点の食品、また「Giki」は英国のスーパーマーケットで取り扱われている28万点の商品が対象となっている。
「CoGo」は、英国とニュージーランド国内にある、エココンシャスな消費者向きの店舗を掲載している。
ユニークなのは、オーガニック、二酸化炭素排出量、フェアトレード、廃棄物削減など、何を気にかけているのか、興味があるのかを問い、各人の志向を把握。それにマッチする、利用者近隣のレストランやスーパーマーケットといった店舗を紹介してくれる。
米国の「DoneGood」では、社員に適正な賃金を支払い、環境負荷の抑制努力を行うなど、環境や倫理面を気遣うブランドにより生産された商品のみを扱う。消費者により良いチョイスをしてもらうよう促すのに加え、「DoneGood」自体は寄付も行っている。
同社は、米国に拠点を置き、世界各国に会員を擁する非営利組織、1パーセント・フォー・ザ・プラネットの会員企業。売り上げの1パーセントを同組織に寄付しているのだ。各会員から集められた資金は最終的に同組織に承認された環境保護団体に資金として提供され、環境保全に役立てられる。
2030年までには、ミレニアル世代に続き、Z世代も20~30代を迎え、最も大きな影響力を持つ消費者層に成長する。「デジタル・ネイティブ」とも呼ばれるこの世代のこと。環境・倫理面に配慮した買い物をするのに便利なアプリを、効率的に使いこなすだろう。
充実したアプリへの需要が高まるのに応じ、アプリも充実度を増し、種類も増えていくに違いない。現在、コンピュータ・IT関連商品の検索に限られた「シチズン・ポータル」も、対象分野を広げて、一般公開される日が来るのではないだろうか。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)