“外国人難民”が人材不足解消の一手となるか。グローバル人材活用の最新事情とは

「労働力不足」「グローバル人材の獲得難」など、さまざまな形で人材不足が社会課題となっている。この問題を解決する方法として、難民の人材活用を提案しているのがNPO法人「WELgee(ウェルジー)」だ。

日本では、2018年に10,493人が難民認定申請を行ったが、同年に難民に認定されたのは42人だった。申請数のうち、難民として認定をされた者は0.3%(*)であり、G7+韓国の中では最下位である。

WELgeeはいつ難民認定されるか分からない人々を“かわいそうな存在”ではなく、「グローバルで活躍可能なスキルを持つビジネス人材」として企業へアピールし、難民の理解普及に取り組む。

そしてWELgeeはこの2月、日本初の難民に特化した伴走型人材紹介サービス「JobCopass(ジョブコーパス)」をリリースした。

今回は、同法人代表理事 渡部氏、就労伴走事業統括の山本氏から日本における難民事情、そしてビジネス現場における難民の可能性や企業の反応についてお話しを伺う。

*:2018年度に処理された難民認定申請数(13502件)のうち、一次審査での認定者および不服申し立てで「理由あり」とされた者の合計数(42件)を割った数値

【プロフィール】

渡部 カンコロンゴ 清花
代表理事。1991年静岡県生まれ。様々な背景から生きづらさを持つ子どもたちが出入りするNPOの実家で育つ。大学時代はトビタテ!留学JAPANの奨学金を得てバングラデシュで、先住民族と2年間暮らす。バングラデシュの元・紛争地にてNGO駐在員、国連開発計画(UNDP)インターンとして平和構築プロジェクトに携わった。2016年、難民の仲間たちとWELgeeを設立。東京大学大学院 総合文化研究科・人間の安全保障プログラム 修士課程在学中。Global Shapers Tokyoメンバー。
山本 菜奈
就労伴走事業統括。1994年横浜市生まれ。小学校低学年をアメリカ・ロサンゼルスで、中高をドイツ・ミュンヘンで過ごす。17歳の時、ネパールで山岳民族の同年代の若者たちとの語り合い、逆境のなかでも自己実現と社会へのビジョンを諦めない若者たちの「働く」を通じた社会活躍に関心を抱く。早稲田大学在籍中カナダ・バンクーバー留学や北海道下川町での産業振興インターンシップを経て、現職。

企業への伴走は「円滑な難民人材活用」に繋がる

始めに、ジョブコーパスについて説明する。同サービスは人材育成から採用、企業定着サポートまで一貫した伴走を通じ、逆境を乗り越えてきた人材の強みを事業や組織づくりへ生かすことを目的とする。本サービスの魅力について山本氏は次のように語る。

山本:「VUCA時代」と呼ばれる昨今、今日よりも良いサービスやマーケットを生み出す方法を考え、柔軟にアップデートし続ける必要があります。

その中で違う環境や世界で活躍してきた難民たちが一緒のテーブルに座り、アイディアを出し合うことは、組織にこれまで存在しなかった刺激や視点をもたらす可能性があるのです。

もしかしたら、同質の人材たちだけでは生まれないであろうソリューションが誕生するかもしれません。そこへ私たちが並走することで、チームワークを阻む要因を一緒に解決し、事業進展に貢献出来たらと思います。

渡部:誤解してほしくないのが、私たちは「難民のほうが優秀」「日本人のポジションを取りに行く」と言いたいのではありません。これまで企業に見出せていなかった観点をもたらすのが、もしかしたら難民たちかもしれないんです。

ジョブコーパスが目指すのはもっと良い未来に向け、解決策を作ることです。難民として日本に来ている若者がアクターとして参加することで、彼らが持ち味を発揮し、参画する状態をWELgeeはサポートします。

WELgeeは「祖国を追われた若者のエネルギーと日本の若者の問題意識」から作られた

難民の人材活用に奮闘するWELgeeは、日本で生まれ育った若者の問題意識と祖国を追われ日本へやってきた若者たちの思いから誕生した。

渡部:祖国の紛争や迫害から「今、自国には居られない」と希望を求めて日本へやってきた人たちと私たちのエネルギーが重なり誕生しました。

渡部氏が難民について意識するようになったのは、大学時代に「トビタテ!留学JAPAN」という文部科学省の制度を使いバングラデシュの先住民族と暮らした2年間だ。

渡部:トビタテの制度を使い、バングラデシュの先住民族の地域で活動しました。

彼らは、政府から命、文化そして言葉を奪われてきました。自分の国が自分を守ってくれないこと、ましてや自分の国の権力や軍に弾圧されることがある、先住民族たちと暮らす中でその事実を目の当たりにしました。

すぐ近くの村が、焼き討ちにあうこともありました。中には、どこか別の地域や国で人生を築こうと、故郷を後にする人たちもいたんです。

そうして国を出た人は、難民として他の国へ渡ったことを知った渡部氏。「難民に会いたい」と思い、自分から日本の中で難民と会えそうな場所を探し回った。

渡部:帰国後は、難民を探して歩き回りました。

特に難民認定申請中の人たちに会うのは簡単じゃないんです。難民支援の団体も、通常は、セキュリティやリスクの問題から市民に会わせる機会は作っていません。ホームレスになっている人もいると聞いたので、渋谷の24時間営業のマックなどを探し続けました。

やっと出会えた彼らと話す中で、紛争・テロ・迫害等で戻れない故郷を背にしてきた同世代の若者たちがもつ大きな希望と夢に触れました。こんなユニークな人たちがいるのにどこにも接続していないことはおかしい、この人たちとならワクワクする未来がしかけられるとも思いました。

「日本に貢献するチャンスが欲しい」難民のラベルに隠された使命感

山本氏は初めて会ったアフリカの青年からの「日本に貢献するチャンスが欲しい」という一言に心が動いたと語る。

山本:「僕たちは日本社会に守られるだけでなく、貢献出来る部分があると思う。

ただそれを証明するチャンスが欲しいだけなんだ」と言われた時、使命感を感じて行動を起こしたい同じ若者が「難民認定申請中」という境遇が壁になっているのなら、その枠を取っ払いながら日本の若者として一緒に社会を作れるか考えていこうと思いました。

難民というラベルが貼られた彼らの下には、一人の人間として祖国で築いてきたキャリアや生活があることを忘れてはならないと、山本氏は続ける。

山本:最初は私も「難民」(かぎかっこなんみん)という、表面的な言葉しか知らず、彼らをかわいそうな存在と見ました。だけど彼らが祖国で築いてきたキャリアに焦点を当てると、ユニークな人材の宝庫なんです。

WELgeeが出会った難民の半数以上は大学・大学院卒です。能力も様々で、マルチリンガルから起業経験者、ジャーナリストにプログラマー、コンサルタント、中には弁護士や医師のライセンスを持った人もいます。

先ほどお話しした彼は大卒で起業経験があり、祖国ではエンジニアや牧師、NPOのメンバーとしても活動していました。そんなカリスマ性のある方から「チャンスがほしい」と言われ、与えられない日本社会だったのだろうかと思ったんです。

渡部:彼らは私たち日本人がもはや麻痺している「鬱」「自殺率の増加」などの日本問題にも敏感に反応し、「この問題をどうにか解決したい」と話してくれます。

日本人以上に日本を想ってくれる彼らを難民として支援するのではなく、日本社会を支えてくれる人材として活用することが、彼らのエネルギーに応えると私たちは考えます。

母国を思い、海外で働くからこそ生まれる「グローバル人材」

WELgeeの人材活用は、既に民間企業数社で採用が決まっており、人材が放つ魅力から業種限らず関心を持つ企業が多い。

山本:期待を寄せている業種は、コンサル、メーカー、IT、物流など、さまざまです。事業部門としては、新規開発、海外展開、エンジニアリングなどが好感触です。

渡部:採用の一例を挙げると、ヤマハ発動機株式会社さん。彼らは、アフリカの新しい事業展開に向けて、日本とアフリカ文化を知り、事業のキーマンになれる人材を探していたんです。

そこで私たちは中国で起業経験があり、先生としての勤務経験を持つ30代の東アフリカ出身者を推薦しました。彼は面接やプレゼンを経て、8名した応募者の中から採用されました。

企業側の難民に対する印象も一度当事者に会うだけで大きく変化すると山本氏は話す。

山本:貧しい、恵まれないという印象とは全然違うことに驚き、認識が180度変わる人が多いです。目の前の人が会社経営者だった、プログラマーだったと知ることで、普通の人生とキャリアを難民になる前までは送っていたと知るからです。

中には、「自国の将来を常に考え、海外の大学で勉学に励み、さまざまな文化的背景の人たちと働いていた若者たちこそ、グローバル人材ではないか」と見出してくれた企業もありました。

渡部:それこそ私たちが難民問題の事実をきれいなスライドにまとめて流暢に話すよりも、アンバサダーとして難民たちから話してもらうだけで印象はガラリと変わるんです。

日本社会が抱える「在留資格」「心」「言葉」という3つの問題

では日本社会が難民を受け入れる土壌を作るには、どんな意識がいるか。山本氏は「在留資格」「心」「言葉」という3つの問題をクリアする必要があると話す。

山本:まず在留資格が壁になります。短期間の在留しか許可されない在留資格を付与されている状況では、10年先の日本で生活するビジョンが全く描けません。

生活の中で受けた振る舞いから、「心の壁」を感じている人も多いです。肌の色が違う人と一緒に暮らすことが、まだ日本では普通ではありません。ただ彼や彼女たちは、「黒人」「難民」を理由に距離を取られてたり、避けられたりしていると考えてしまいます。

日本語を話せないもどかしさから周囲に気持ちを伝えられない「言語の壁」もあります。新宿など観光客が多い場所でも、街の掲示板には読めない漢字が多く並んでいます。

アフリカや中東の高等教育を受けてきた人は英語を喋れる人が多いため、日本のビジネスパーソンならと話しかけても、「おっと、彼らでも英語が話せないぞ」…となるのが現状です。

渡部:もちろん、難民として認められるべき人が、きちんと認定されることは大切。

ただ、認定される人があまりにも少ない現実があります。八方塞がりになっている彼らの壁を壊すためにも、難民認定以外の枠で日本に居られる方法を民間と私たちで作る必要があります。

彼らはたとえ日本語が上手に話せなくても、どのようなレッテルがあっても、世界でも日本でも輝く可能性をもっているんです。

さらに、「難民も日本社会もハッピーになるかもしれないドアが開かれようとしている」と話す。

渡部:WELgeeは日本社会と難民という二項対立を繋ぐ存在より、難民である彼らと私たちの間には境界がないことを提示し続ける存在でいたと思っています。難民支援というよりは、人材活躍と考えることで、彼らが入れる社会の入り口を作りたいんです。

人材活用を通したビザ制度を目指して

WELgeeの展望を質問すると、渡部氏は次のように教えてくれた。

渡部:日本で活躍する外国人材として、政府から安定したビザを得られるようにしたいんです。そのためにも民間で実績を作り、政府へ制度化に向けた働きかけをしたいと考えます。また国連と政府だけが難民問題解決のアクターではありません。

国連でもまさに昨年「難民に関するグローバル・コンパクト」が採択され、日本もプレッジをしています。「全社会でアプローチしてゆこう」というスローガンの日本版を仕掛けてゆきたいですね。

人材不足の解決策として、難民活用を考える人へのメッセージを最後にお願いした。

山本:難民たちは衣食住の安定だけではなく、心の貢献も求めています。それは自身のキャリアを通して、社会の役に立つことです。難民である彼らに興味をもたれた方は、ぜひ一度彼らと話してみてください。

渡部:企業の方に「外国から良いエンジニアを採ったのに、すぐ辞めてしまったた」「ダイバーシティ&インクルージョンというスローガンはあっても、誰もイノベーティブではない」とご相談を受けます。そのような現状を切り開くきっかけに、私たちの仲間たちがなってくれるはずです。

取材・文:杉本愛
写真:西村克也

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