ペット関連コンテンツが盛り上がっている。というと、飼い主を対象にしたハウツー的なものを思い浮かべる人が多いかもしれない。しかしいまや、ペット自身が楽しむためのコンテンツが創られる時代になっているようだ。 

スウェーデン発音楽ストリーミングサービスのスポティファイが、今年に入って、ペット向けプレイリストを公開し、ペットを愛するユーザーからの注目を集めている。

また、年60%という驚異的な成長率を遂げるポッドキャスト市場の可能性にも目をつけ、多大な投資を行っているスポティファイは、ペット向けポッドキャストチャンネルとして「My Dog’s Favourite Podcast」の提供も開始した。

スポティファイが独自に行った調査では、ペットと暮らす人の70%以上がペットのために音楽を流していると回答、80%以上が、自分のペットは音楽が好き、42%が自分のペットには好きなタイプの音楽があると考えていることが明らかになっているという。
 
まだ黎明期ではあるが、そのポテンシャルから注目を集めるペット向けコンテンツ。スポティファイを中心に最新の動向を探ってみたい。

ペットと一緒に楽しめる、スポティファイが提供するペット向けコンテンツ

ペット向けコンテンツが必要とされている理由のひとつは、犬のお留守番対策だ。もともと群れで暮らす動物なだけあって、一人きりで家に残されるのが苦手な犬は多い。

長時間家をあける人はそもそも犬と一緒に暮らすのに向かないのだが、たいていは誰かが家にいる家庭であっても、買い物やちょっとしたお出かけで、犬が数時間程度のお留守番をすることは少なくないだろう。

スウェーデンで行われた研究によると、犬に2〜4時間の留守番をさせ、留守中と帰宅時の体調や反応を調べたところ、留守番時間が長いほど、帰宅時に尻尾を激しくふる、身体を動かす、飼い主を舐めるといったより熱烈な歓迎をすることがわかった。

たった数時間の留守番でも、犬が飼い主の帰宅を待ちわびていることはたしかであり、多くの飼い主は家を空けることに罪悪感を感じつつも、愛犬にできるだけ快適にすごしてもらいたいと感じているのだ。

そんな気持ちから、飼い主は愛犬の留守番ストレスにいろいろな対策を講じるものだが、先述の調査によると、その選択肢の一つとして音楽をかける飼い主は25%いるようだ。

スポティファイで聞ける「マイ・ドッグス・フェーバリット・ポッドキャスト(My Dog’s Favourite Podcast)」は、そんなニーズに応えて生まれた。

ヒーリングミュージックをBGMに「お留守番ありがとう、心配しないでくつろいでね」などと人が語りかける声と、小雨、葉の音、鳥のさえずりなどの環境音、洗濯機、アイロンといった生活音がミックスされており、お留守番の間、犬にできるだけ心地よく過ごしてもらえるように工夫されている。

現在聞けるのは、イギリス人女優ジェシカ・レインが優しく語りかけるバージョンと、ハリーポッターやゲームオブスローンズなどで知られるイギリス人俳優ラルフ・アイネソンが励ますように語りかけるバージョンの二つ(英語のみ)。約5時間のコンテンツだ。


犬や猫からイグアナにまでプレイリストを提供 スポティファイより

同じくスポティファイが提供を始めたペット向けプレイリストには、現在、犬、猫、イグアナ、ハムスター、鳥用があり、独自のアルゴリズムで自分のペットにあわせた選曲をしてくれる。

最初にペットの種類を選んだら、まず曲の雰囲気を「癒し」か「元気」の間で選ぶ。
 

質問に答えていくと、独自のアルゴリズムで選曲される スポティファイより

その次のステップで、シャイかフレンドリー、クールか好奇心旺盛の二項目でペットの性格を選び、最後にペットの名前を入力すれば、30曲のプレイリストが用意される。

我が家の犬と猫向けにも、「癒し」100%にカーソルをあわせ、プレイリストを作ってみたところ、ピアノといったインストルメントから、ヒーリングミュージック、グラミー賞候補女性シンガー、全く知らない映画のサントラからなど、飼い主としても楽しめる30曲のプレイリストができあがった。

スコットランドの動物愛護団体SCOTTISH SPCAとグラスゴー大学の調査によると、犬の好むジャンルはソフトロックとレゲエらしいのだが、なぜかそのジャンルからは1曲も入っておらず、ヒーリングミュージックとピアノ中心のリストになっていた。
 
このアルゴリズムがどう機能しているのかは明らかでないが、スポティファイユーザーの飼い主の好みが反映されるという噂がある。

我が家の犬がこの選曲に喜んでいるのかは、彼の様子からは窺い知れなかったが、留守番時に愛犬にリラックスしてもらうには、飼い主の在宅時と同じような環境を作り出すのが大事だという。

その意味では、このリストを、普段から飼い主も楽しんで犬と一緒に頻繁に聞いていれば、お留守番の時もリラックスの助けになりそうだ。

ストレス緩和からエンターテイメントまで。ペット向けコンテンツの可能性


犬や猫からネズミまで、ペットもコンテンツを楽しむ時代に PIXABAYより

スポティファイのこのペット向けコンテンツリリースにあたり、アドバイス役を務めた英グラスゴー大学のニール・エバンス氏は、音楽の動物のストレスや不安を和らげる効果について、心拍数が下がり、ストレスが緩和され、穏やかになるという研究を発表している。

これまでも、このような研究の結果に基づいて、スコットランド動物虐待防止協会が、保護犬に使われるケージに音響システムを装備し、犬に適したプレイリストを作成するなどの取り組みが行われてきた。

実はイギリスにはペットを対象としたラジオ局もすでに複数ある。特に人気なのは、Classic FM’s Pet Soundsというクラシックチャンネル。犬だけでなく、猫、ハムスター、スナネズミを対象としている。

こちらもスタートのきっかけは「癒し」。イギリスでも盛大な花火はイベントの演出として人気だが、音と光に敏感な犬たちにとっては花火の夜はストレス以外の何物でもない。Classic FM’sは、そんな犬たちのストレスを和らげるためにクラシック音楽を流すチャンネルとして始まった。 

日本でもUSENでペット向けヒーリングチャンネルが提供されているし、これまでもCD、Youtubeといった形で、ペットの快眠、ストレス解消のための音楽を聴くことができる。「癒し」はペット向けコンテンツの重要なテーマなのだ。

熱心な愛犬家からは、そもそも長時間の留守番や近隣での花火といったストレス源をなんとかすべきだという声も聞こえてきそうだが、ペット自身が病気で入院しなければいけない、雷や嵐の音がひどいといったストレスを避けられない状況もあることを考えると、気軽にアクセスできるペット向け「癒し」のコンテンツは歓迎すべきものにみえる。

ストレスへの対処だけではなく、エンターテイメントとしてのペット向け音楽の提供もはじまっている。

すでに数年前には、ニューヨーク、タイムズスクエアで、オスカーにもノミネートされた前衛アーティスト、ローリー・アンダーソンによる、キーボードと改造バイオリンを使った犬のためのコンサートが行われ、好評を博した。

あくまでメインオーディエンスである犬たち向けに低周波で届けられた音楽は、人間には聞き取りづらかったようだが、飼い主もヘッドフォンを通じてなら楽しめたようだ。
  
もちろん、音楽が苦手なペットもいるであろうし、人間からの押しつけにならないように十分注意する必要はあるだろう。

でも、ある種の音や音楽、あるいは映像といったものが、動物にプラスの影響をもたらす可能性は十分にある。ペットがより家族の一員としての存在感を強める昨今、ペット向けコンテンツのさらなる盛り上がりに一飼い主としても期待したい。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit