10代の若者の半数以上は、ソーシャルネットワークサービス(SNS)でニュースを見ている――アメリカでティーンエイジャーを対象に行われた調査で、こんな結果が明らかになった。

彼らの考え方に大きな影響を及ぼしているのは、今や先生やテレビのコメンテーターではなく、「ユーチューブ」のインフルエンサーやセレブたち。しかし、フェイクニュースやヘイトスピーチなど、オンラインメディアでは玉石混合の情報が溢れている。

そんな中、子供たちがメディアリテラシーを高め、情報を正しく理解できるように支援する試みが広がっている。


BBCがティーンエイジャー向けに放送する「BBC My World」。子供たちの正しい国際理解を目指している。

フェイクニュースから子供を守れ!

女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは先月、英放送局「BBC」と共同で、10代の若者向けのニュース番組「BBC My World」を立ち上げた。毎週日曜日の午前11時半(米東部標準時)から30分、テレビの「BBC World News」で放送されるほか、ユーチューブチャンネルでも視聴可能。

ニュースのコンテンツは、世界各地の若者たちの身近な問題を伝えるとともに、ニュースが作られる現場の様子や学生たちによるディスカッションなどを盛り込んでいる。若者たちがさまざまな問題を自分事として捉え、自分で考えられるような内容を目指しているという。

「親として、子供たちが世界中の若者の生活について多くを学んだり、彼らを互いに結びつけたりできるようなプログラムを支えることができて、大変嬉しく思います」と、ジョリーさん。

自身も5人の子供を育てる母として、子供たちが自分たちの問題を解決するために適切な情報やツールを得られることが大切との見方を示している。

BBCワールドサービスグループのディレクター、ジェイミー・アングス氏も、「ニュースがどのようにつくられ、その背後にどんな価値観があるのかを理解したい若者のニーズと、実際に提供されているニュースの間にはギャップがある」と指摘した上で、「本物のニュースとフェイクニュースを区別するためのツールと、情報を批判的に考えるスキルが必要だ」との考えを示している。

ニュースソースはテレビからSNSへ


10代の若者たちは、ニュースをSNSから入手している(筆者撮影)

BBCとアンジーが取り組む「子供たちをフェイクニュースから守れ!」という動きの背景には、10代の若者たちがニュースを新聞やテレビではなく、SNSで得ているという現状がある。
 
子供と家族の生活改善を目指す非営利団体コモンセンスが2019年6月、13~17歳のアメリカ人1,005人を対象に実施した調査「Survey Monkey Audience」によると、対象者の54%が「インスタグラム」や「フェイスブック」、「ツイッター」などのSNSでニュースを見ていることが分かった。

また、対象者の50%は「ユーチューブ」でニュースを見ていると回答。このうち10人に6人はニュースメディアが配信する動画ではなく、インフルエンサーやセレブ、「ユーチューバー」からニュースを得ていることが明らかになった。

一方、雑誌やテレビといった「オールドメディア」を情報源とする若者は、全体の41%。このうちテレビのニュースは37%にとどまった。若者のテレビ離れは以前から指摘されているが、ニュースに関しても重要な情報源がSNSに移行していることが浮き彫りとなる。

しかし、オールドメディアから情報を得ている若者の65%が「現状をよく理解するのに役立っている」と答えたのに対し、SNSでニュースを見ている若者が同様の回答をしたのは59%にとどまり、「現在の状況について混乱してしまう」と答えた人が19%に上った。

これは、従来のニュースメディアに比べて、SNSで流れるニュースの信頼感が薄いことを示している。

幼少時からクリティカルシンキングの練習を


「アクティブ・リーディング」は子供たちの批判的思考を育成する(Pinterestより)

オールドメディアに加え、SNSやユーチューブ、ポッドキャストや各種アプリで情報が氾濫する現在、自分で情報を取捨選択し、クリティカルに考える力はこれまで以上に重要になってきている。

特に、デジタル時代の子供たちにとって、「メディアリテラシースキルは第二のアルファベット」(『WIRED』)になってきている。

メディアリテラシー教育の促進を目指す非営利組織「米メディアリテラシー教育協会(NAMLE)」の創始者であるフェイス・ロゴーさんによると、メディアリテラシー教育は早期に始める方がいいのだとか。

「中学生になるのを待つよりも、小さい時の方がより簡単にメディアを使用し、問いを立て、考える習慣を身に着けることができます」(ロゴ―さん)。

例えば、テレビのコマーシャルを見て、「彼らは何を売ろうとしているのか?」を当てるゲームを家族でやってみるのも一つの方法。「そのためには、まず大人がメディアの習性を知ければなりません」とロゴ―さんは警告する。

メディアリテラシーを専門にする教育家のジムメカ・アンダーソンさんは、米ノースカロライナ州の図書館で小さな子供たちを対象に、「アクティブ・リーディング・プログラム」を実施している。

このプログラムでは、両親が子供たちに本を読み聞かせるのではなく、本の絵を見せて、「このクマの色は何色?」「クマは何をすると思う?」と、子供たちに問いを投げかけることで、メディアリテラシーを身に着けさせるようにしている。

「ビジュアルメディアを消費する上で、能動的な役割を担うことで、クリティカルシンキング(批判的思考)ができる人になるのです」(アンダーソンさん)。
 

テレビの時代は終わる

イギリスの通信サービス規制機関「Ofcom」の2019年の調査では、子供だけでなく、大人たちの間でもニュースソースがテレビや新聞といったオールドメディアから、SNSにシフトしつつあることが分かった。

16歳以上のイギリス人がニュースを入手する情報源としては、依然としてテレビの割合がいちばん高く、75%となっているが、2018年の79%から低下。テレビのニュース番組では「BBC One」を情報源としている人が58%と筆頭に挙げられたが、2019年はすべてのBBC番組が2018年に比べて低い数字となっている。

一方、SNSを情報源とする人の割合は、2018年の44%から49%に増加。中でも「フェイスブック」は73%の人が使っており、ニュースソースとして第3位に挙がった。

友人や知人がSNSで投稿したニュースが大きな情報源となっており、それに対してコメントやシェアなど、アクティブに反応する人が多いことも明らかになっている。


16歳以上のイギリス人が使うニュースの情報源(出典:Ofcom「News Consumption in the UK: 2019」)
*インターネットはSNS以外のすべてのインターネット情報源も含む。

通信技術が4Gから5Gへアップグレードし、通信速度がどんどん速くなる中で、これからはますますニュースがSNSやユーチューブで入手される時代になるだろう。「ホリエモン」こと、堀江貴文さんも「テレビの時代は終わった」として、ユーチューブでの情報発信に注力している。

彼の発するニュース解説は多くの大人たちを惹きつけており、このところの彼のユーチューブチャンネル登録数は急速に伸びているという。

前述のアンダーソンさんは、「私たちはほかのどんな情報ソースよりも友達や家族から聞いたことを信じるもの。だから、あなたがメディアなのです。

あなたがシェアする情報を精査することが大切です」と述べている。ニュースの情報源がSNSになった時代、まずは大人たちがメディアリテラシーを高めることが急務となっている。

文:山本直子
編集:岡徳之(Livit