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ビジネス系ソーシャルメディア、リンクトインが2019年12月末に、世界各地の雇用状況をまとめたレポートを発表した。第3回目となる同レポートでは、同プラットフォームのデータを分析し、いまどのような職種の求人が伸びているのか労働市場における最新トレンドを明らかにしている。
今回は、リンクトインの最新レポートの米国市場に焦点を当て、どのような職種の求人が伸びているのか、その最新トレンドをお伝えするとともに、メンタルヘルス問題の増加など求人データから見る社会経済の変化にも触れる。
米労働市場で最も増加率が高かった職業トップ3
6億人近くのユーザー数をもつ世界最大級のビジネス特化型SNSリンクトイン。彼らが毎年行っているEmerging Jobs分析は、過去5年間に各国で正社員の仕事を持つ公開プロファイルのすべてのLinkedInメンバーに対し調査が行われる。
今回のレポートは、2015年から2019年までの各職種の雇用と割合の複合年間成長率を計算して、成長が最も大きい職業が特定された。
2020年版の米国労働市場で、最も増加した職業トップ3は以下の通り。
第1位 AIスペシャリスト
米国で年間成長率の伸び最大の74%を記録し、1位となったのが「AIスペシャリスト」。
主に、ベイエリア、ニューヨーク、ボストン、シアトル、ロサンゼルスで求人が増えている。この求人を出す業種としては、ソフトウェア開発、インターネット系、情報通信、高等教育機関、家電企業が多いことが明らかになった。
第2位 ロボット工学エンジニア
次いで増加率が最も大きかったのは、ロボット工学エンジニアで年間成長率40%増。ロボット工学エンジニアは、ITサービスやコンピューターソフトウェア業界だけでなく、金融サービス、自動車から産業オートメーション業界まで求人が出されている。
第3位 データサイエンティスト
去年の7位からランクを上げ3位となったデータサイエンティスト。機械学習やデータサイエンスの知識、データ分析のためのPythonやR言語、クラスタコンピューティングフレームワークApache Sparkなどの知識が必要となる職種だ。年間成長率は37%に上る。
上位ランク3位までを概観してみたリンクトイン社の考察によると、AIやデータサイエンティスト関連の職種の需要は、ほぼ全ての業界で軒並み伸びている。これは、企業におけるAI・データ活用が進んでいることを示唆している。
平均増加率35~24%を誇る4位以降の職種は?
続く4位から15位までの職種は以下の通り。ランキングの少なくとも5つの役割には職種に「エンジニア」という単語が含まれており、前年に引き続きエンジニア需要が目立つ傾向となった。
第4位 フルスタック・エンジニア:別名マルチエンジニア。プログラミング言語、ミドルウェア、OSスキル、クラウドサービスの知識があり、システム開発に関わる全ての技術かつコミュニケーション能力も高いITエンジニア。
第5位 サイト信頼性エンジニア:SREとも呼ばれ、Google社が提唱・実践している、システム管理とサービス運用ができ、インフラの信頼性を支えるエンジニア。
第6位 カスタマーサクセス・スペシャリスト:顧客の成功体験を目的とし、能動的に売り上げの向上や解約率の引き下げを指標として、自社の製品やサービスのライフタイムバリューを最大化させる職種。
第7位 販売促進部員:マーケティングオートメーションなどの技術を駆使して、売上を上げる営業要員。
第8位 データエンジニア:ビッグデータを処理するスキルなどを持ち合わせた、大規模なデータの活用を支えるインフラ構築と運用の専門職。
第9位 ビヘイビアヘルス・テクニシャン:行動医療技術者とも呼ばれ、ストレス障害、自閉症、精神的不安、身体及び精神的ハラスメントなどを抱える患者に対し、日々の行動を変えることによって健康を維持するアドバイスをする専門家。
第10位 サイバーセキュリティ・スペシャリスト:最新の情報ネットワークのセキュリティに関する知識・技能を備えた、高度かつ実践的な専門家。
第11位 バックエンド開発者:Node.jsやJavaScriptなどの開発言語を理解する、サイト内部の処理部分開発者。
第12位 チーフ・レベニュー・オフィサー:最高収益責任者のことで、収益プロセスを最適化するため部門間の連携や一元性を高め、CRMなどのテクノロジーを駆使しながら組織づくりを実行する責任者。
第13位 クラウドエンジニア:クラウド上でシステムを設計・構築し、運用していくスキルを持つエンジニア。
第14位 Javascript 開発者:Web開発ほぼすべての領域で必要とされるJavascriptでアプリなどを開発するエンジニア。
第15位 プロダクトオーナー:開発チームから生み出されるプロダクトの価値を最大化する責任者であり、ビジネスと開発チームの連携役となる。
技術やセールスと関連ない唯一の職種、ビヘイビアヘルス・テクニシャン
一方ランキングのうち、技術やセールスと関連がなく、4年間の学位を必須としない職種が1つだけある。ビヘイビアヘルス技術者の職務だ。レポートによると、2015年以降米国でメンタルヘルスの保険適用範囲が拡大したこともあって、この職種の雇用は年間32%の割合で増加している。
行動医療技術者と訳されるこの職種は、ストレス障害、精神的不安定、身体及び精神的ハラスメントなどを対象に、患者の行動を記録し、患者に安全で支援的な環境を治療薬やコンサルティング、レクリエーションなど形で提供する専門家だ。
病院に行くというよりも日々の考え方や行動を変えることによって健康を維持するアドバイスをする。
仕事内容には個々人の治療内容を理解し、計画を立てて実施するだけでなく、暴力行為やハラスメントの仲裁や制限も含まれる場合がある。専門知識だけでなく、対人スキルと観察眼が重要なスキルとして望まれる職種だ。
ニューヨークのビジネスマガジンInc.は、これからは、ますます精神と心のメンタルケアの福利厚生が重要となってくることを強調している。
以前からは例えばジムの会員権やヨガのクラスを補助として与える従業員の身体的健康促進への補助が注目されてきたが、これからは企業内精神科医やマッサージ師、セラピーに通う福利厚生の需要が増えてくる。
健康・福利厚生アナリストは「職場では心疾患や糖尿病などの身体的側面に焦点が当てられることがよくあるが、現状は精神的な健康が、慢性的な健康状態においても致命的な要因になっている」ことを記事で指摘している。
実際、精神疾患や過労はビジネスに大きな影響を及ぼす。世界保健機関の2019年5月の報告では、うつ病および不安障害の患者数は世界でおよそ2億6,400万人、それによる経済生産性損失は年間約1兆ドルを占めると推定している。
ビヘイビアヘルス技術者という職種は、この様な個人と企業のニーズに呼応して求人が増加している。
米国において需要が高まっている15の職種。
データやAIを扱うエンジニアやセールス関連の職種が大半を占める中、ビヘイビアヘルス・テクニシャンである行動医療技術者がランクインしたのは、テクノロジーの発展と人間のメンタルヘルスに、何らかの相関関係があるのを示唆しているのかもしれない。
文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit)