人間の目を補完するAIカメラソリューション「AWL」がもたらす新たな価値

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厚生労働省の発表によると、日本ではすでに労働人口の減少が始まっている。2012年には6,628万人だった労働力人口は2017年には6,556万人となっており、2030年には6,180万人にまで減少する見込みだという。

その影響を受けている業界のひとつがリテール(小売)業界だ。店舗では人手不足が顕著になっており、2018年には大手コンビニチェーン「セブンイレブン」のフランチャイズ店が人手不足を理由として夜間閉店に踏み切るなど、営業形態にも影響が出始めている。

そうした小売業界の課題を解決する一手として、どこの店舗にもある防犯カメラを活用したソリューションを提案するのが、AIカメラソリューションを提供するAWL株式会社だ。

北海道のドラッグストアと連携してソリューション開発に取り組んできた同社代表取締役社長の北出 宗治氏(以下、敬称略)に、小売業界が直面している課題と、その解決の一助として生まれたサービス「AWL」、そして今後の戦略について伺った。

高度なトラッキングで来店者の動線を一筆書きに


AWL Webサイト

――貴社が開発されたAIカメラソリューション「AWL」には、どのような特徴があるのでしょうか。

北出 「AWL」はリテール業界に特化したAIカメラソリューションで、「AWL BOX」と呼んでいる独自に開発したAIエッジコンピューティング端末を各店舗に置いていただくだけで既存の防犯カメラをAI化し、防犯やマーケティング、店舗運営の効率化に貢献できるシステムです。

AIカメラソリューションとしての「AWL」の特徴は、従業員とお客様を自動で分類した上で、お客様一人ひとりを判別し、複数の人が交錯した場合や、別のカメラの撮影範囲に移動したときにも見失わずに「同じ一人」として認識して追いかけられる点です。

わかりやすくいえば「従業員、お客様の入店から退店までの動きを、一筆書きにできる」というイメージです。類似サービスのカメラでは単純にその画面内にいる人を検知することしかできず「のべ客数」というような解析になってしまい、正確なデータをとるのが難しいのです。

――AIカメラを導入するメリットには、どのようなものがありますか。

北出 AIカメラによってもたらされるメリットには防犯、マーケティング、そして経営の効率化・省人化、サービスレベルの向上といったことがあげられます。

防犯面については、既存の防犯カメラで不十分な「万引きをする前」の不審行動者に気づけるということです。

例えば店内であやしい動きをしているお客様をカメラが検知して、従業員の持っているスマホなどの端末へアラートを送り、従業員があいさつや声かけをすることで抑止につながるでしょう。

マーケティング面では、来店したお客様の顔から性別やおおよその年齢を判別し、さらに商品との接触回数やどのような商品に関心を示しているのかを検知させることもできるため、より適切な接客や広告表示へとつなげられます。

――経営効率化というのは?


AWL 代表取締役社長 北出 宗治氏

北出 店舗側が作成したシフトが健全に機能しているかをチェックすることができます。従来、従業員のシフトは作成したら終わりで、実情は出勤時間と退勤時間でしか管理ができませんでしたが、レジカウンターで複数の従業員が時間を持て余しているとしたらもったいないですよね。

接客すべきお客様がいればそちらをフォローすべきですし、店内で人員が余っているとしたら他の業務をお願いすることもできます。

深夜や早朝といった従業員の確保が難しい時間帯もAIカメラが店内の異常や声かけすべきタイミングをリアルタイムに検知することで、少ない人員でも、店舗運営が回せるという効果もあります。

見えない部分の多かった小売業界を可視化するため「AWL」を開発

――創業時やソリューションの開発の経緯についてお聞きします。創業時から小売業界についての課題感というのは持っていたのですか?

北出 課題感についてはより解像度が上がった、というイメージです。

もともとは北海道大学でAI研究をされている川村秀憲先生と創業したのですが、AIを社会に実装することで人手不足を解消できないかと考えていました。

当時はAI TOKYO LAB(エーアイ トウキョウ ラボ)という社名で受託開発を中心に行っていましたが、そのなかで“店舗”が抱えている課題によりフォーカスしていこうという思いが強まり、経営リソースを集中させ始めました。

――その背景はどのようなものだったんでしょうか?

北出 受託開発をしていた頃からお付き合いのあったサツドラホールディングス(北海道で「サッポロドラッグストア」をチェーン展開する企業)との出会いです。

店舗というのは未だにブラックボックスで、例えばチラシを配布してもそれにどれだけの効果があったかを正確に測るすべがありません。

客数にしても、レジ通過数だけでは来店者数に対する購買率を割り出すこともできませんし、店内で何に興味を持ってくれたのかもわかりません。

せっかく防犯カメラがあるのに、録画しかしておらず、これをAI化して人間の目を代替することができたら、大きな可能性があると感じ、サツドラさんと提携して、データ提供を受けながら「AWL」の開発に向けて動き始めました。

――開発時に直面した課題はありましたか。


AWL BOX

北出 サービス開発にかかるコストと、店舗で負担できるコストのバランスを釣り合わせなければいけないことが一番大きな苦労でしたね(笑)。

通常、AIカメラというと専用の高性能なカメラを設置する必要があり、店舗からすると、すでにある防犯カメラとの二重投資になってしまうのがネックでした。

私たちも当初は専用カメラを使う手法を考えていましたが、それだと初期コストも運用コストも高すぎて、R&Dとして数店舗でお試し導入はできたとしても、数百店舗のチェーンストア全体で活用することはできず、本来の課題を解決できないというジレンマに悩まされました。

そこで考えたのが専用カメラではなく、既存の防犯カメラをそのまま活用できる、専用のAIエッジデバイスを活用すること。できることは可能な限りエッジ側で、また必要に応じてクラウド側で……といったように、計算コストを最小に抑えることで、提供価格を大きく引き下げることができました。

その結果、専用のAIカメラを活用したり、クラウドをメインに計算する場合と比較して、初期の導入費用、月額のランニングコストは、類似サービスの10%ほどに落とすことができました。

――ユーザーからの評価はいかがですか?

北出 「サツドラで運用してきただけに、かゆいところに手が届く」「ようやく全店導入できるAIカメラソリューションと出会えた!」と大変高い評価をいただいています。導入と維持にかかるコストを抑えながら、他にできない多様な機能を備えている点が好評ですね。

適切な声がけによる万引き抑止などは、まさに小売店舗の方が求めていたもの。万引き検知=捕まえることではなく“抑止”に注力したサービスは、非常に実用的だという声をいただいており、こうした知見はサツドラとの連携によって現場で得られたものなので、大きな財産だと感じています。

小売業界からの信用を得るためのツール選択

――クラウドツールにMicrosoft Azureを使用されていますね。これにはどのようなきっかけがあったのですか?

北出 実は、私たちはずっとAWS(アマゾンウェブサービス)を利用していました。ただ、米国でのリテール業界の動きを見ていると、Amazonはいわば店舗にとって大きな脅威です。

私たちがやろうとしているサービスのように、小売店舗のデータを収集する必要があるビジネスにおいて、Amazonと関わりのあるサービスを避ける傾向が強まっていると感じました。

エンジニアがAzureに慣れるための学習コストや、AWSからの移管コストはさまざまな面でかかりましたが、使用法についてはマイクロソフトからフォローを受けられたこと、それからやはり小売店舗で「Azureを利用している」というと、「それなら」と安心いただける場面が多く、長期的な戦略から考えれば切り替えの判断は間違っていなかったなと感じています。

――他にメリットを感じる点はありますか?

北出 ビジネスとして連携できる点は、非常に助かっています。マイクロソフトはさまざまな企業とつながりのあるところですから、「カメラソリューションならAWLですよ」と名前を出していただくなど、ビジネスにつながりそうなお話をたくさんいただけるのは、とてもありがたいです。

省人や無人化によって過疎地にも存続可能な店舗を

――今後、リテール業界にどのような変革を起こしていきたいと考えていますか?

北出 まずは働き方改革ですね。私たちが事業をスタートしたのは北海道なのですが、北海道は目に見えて過疎化が進んでいてて、今までのフォーマットでは収益が合わずに出店ができず、このままでは店舗は減る一方で、生活者がどんどん不便になってしまいます。

ですが、省人化・無人化が実現できれば、離島や過疎地でも小さな店舗が存続することはできます。インターネットでモノを買うという流れももちろんありますが、一方で、これからも変わらず「見て・さわって買う」という動きもなくならないはずです。

「AIに仕事が奪われる」という危惧も耳にしますが、労働力はどんどん減っていきますから、人がする必要のない仕事はAIにサポートしてもらい、人はより高度な思考を必要とする仕事に集中できます。「奪われる」よりも「やらなくてよくなる」という発想への転換が必要だと感じています。

――他社との連携や、それに伴う今後の展望はどういったものでしょうか?

北出 サービスそのものについては、現在2020年2月のサービスローンチに向けて行っている実証実験で約20社の店舗に「AWL」を導入いただいており、飲食や小売店、アパレルなど、業種によって異なるニーズに応えることを課題としています。

また、私たちはリテールに特化してサービスを行っていますが、「AWL」をプラットフォームとして提供することで、交通機関や病院、工場、倉庫など他業界に強いパートナー会社と連携することで、にもどんどん広げていく準備を進めています。

近い将来の実現に向けて開発を進めているのが、完全無人店舗です。

Amazon Goに代表されるGrab&Goスタイルのレジなし決済のソリューション開発を、AWLの技術を使って、低コストで実現することを目標としています。

完全無人店舗が実現できると、オフィスビルや高層マンションなどで、わざわざ1階まで降りなくても、近くのスペースで必要なものを手軽に購入できるようになります。

日本のサービス業は「おもてなし」の言葉でも知られるようにとてもハイレベル。

ですから、そのレベルに慣れた日本の消費者に違和感を与えることなく運用できるAIカメラや無人店舗のソリューションは世界にも通用するはずです。その先駆けとして、16カ国から集まる多様性溢れるメンバーと共に、日々開発に取り組んでいます。

※この記事は日本マイクロソフトからの寄稿記事です

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