ウェブで商品やサービスを売り込むデジタルマーケティングの分野は近年、AIを取り入れ自動化されたサービスが急速に広がっている。
FacebookやTwitterなどのSNSマーケティングで急成長してきたwevnalは数年前から、自動化へのシフトを進めてきた。
昨年4月から、サービスの本格展開をはじめたチャットボットプラットフォーム「BOTCHAN」(ぼっちゃん)は、データやAIの活用を進めるうえで、キーとなるプロダクトとの位置づけだ。
このチャットボットは、自動化されたチャットでユーザーを「ウェブ接客」し、商品の購入、決済までをワンストップで実現するサービスだ。これまでに約500社に導入されている。
wevnalは、デジタルマーケティングの“次”をどう描いていくのだろうか。 代表取締役社長の磯山博文氏と、デジタルトランスフォーメーション事業部マネージャーの森川智貴氏に話を聞いた。
ウェブでも自動で「接客」
――チャットボットのBOTCHANは、企業のどのような課題を解決するために開発されたサービスなのですか?
代表取締役社長 磯山 博文氏
磯山 ウェブサイトには様々なユーザーが訪れます。そのユーザーの接客をウェブ上でも実現しようというのが、チャットボットのはじまりです。
いままで、手紙、電話、メールとコミュニケーションが進化してきて、いまは、リアルタイムにお客様に対応できる、対話型のサービスが求められています。
われわれのチャットボットBOTCHANは、よりインタラクティブにリアルタイムで、相互に情報をやりとりすることを目指しています。
商品を購入したり、問合せをしたり、ユーザーがウェブ上で実現したいことを、どれだけ、ストレスなく実現できるかを考えたとき、出てきたのがチャットボットというサービスでした。
今後、チャットボットで集まった対話のデータを、どう活用していくかという世界にもつながっています。
3年〜4年前、社内で、Webマーケティングの次の一手を考えるうえで、最先端の技術を取り入れたほうがいいという議論になり、海外を回ったんです。当時、注目されていたのは、インドネシアのジャカルタでした。人口が多くて、ビジネスチャンスも多い。
また、エンジニアが多いベトナムや、金融の街シンガポールなども訪問しました。この訪問をきっかけに、ベトナムに開発拠点を立ち上げたんです。
実際にビジネスを立ち上げていくとなると、AIとかIoT(モノのインターネット)はちょっと先の世界です。当初、データを大量に保有してAIを活用したビジネスをつくろうという話になったのですが、もう少し、手前のサービスが必要ではないか、との考えに至りました。
AIまで行かなくても、AIにつながるサービスを目指して立ち上げたのが、チャットボットでした。AIやIoT、機械学習を使ってサービスを展開していく将来構想を描く中で、チャットボットは今後につながるサービスになると考えています。
デジタルトランスフォーメーション事業部マネージャー 森川 智貴氏
森川 2018年4月にBOTCHANをリリースしたところ、これまでに約500社、アカウント数としては800アカウントほどをつくっていただいています。月に20〜30件ずつ増えていて、ナショナルクライアントにも導入していただいている状況ですね。
例えばドイツ観光局様では、これまでTwitterでのドイツ観光画像をひたすら投稿していたのですが、我々のBOTCHANをLINEインターフェイス組み込むことによって、LINEの中でユーザーと対話して、その人にあった観光場所を画像付きでレコメンドすることが可能になりました。
そのような会話データを元にマーケティング・プロモーションの施策にフィードバックしております。
高額商品のマーケティングに欠かせない手厚い対応
ーーチャットボットのニーズが高い業界や分野などはどういったものでしょうか?
磯山 不動産、人材、結婚式場といった分野は、人の一生の中でも大きな買い物です。こうした分野で、チャットボットのニーズが高いです。
不動産の場合、住宅1軒で数千万円の買い物になりますが、従来のエントリーフォームでは、名前や住所などを入力してもらう段階で離脱する人が多いんです。ログインをしないといけないとか、新規会員登録しないといけないといった手間は、ユーザーにとってストレスになります。
こうした課題を抱えた企業がチャットボットを導入し、双方向のやり取りでひとつずつ入力してもらう方法に変えたことで、離脱率が半減した事例もあります。
美容や健康食品の分野では、ボットとの対話のなかでクレジットカードの情報を入力してもらうことで、決済まで完了させるサービスの導入が進んでいます。
ユーザー・ファーストで、どうしたらストレスなく進めることができるかという課題の解決を追求したら、チャットボットに行き着ついたという形ですね。
いくつもある項目を一人で埋めていくのは面倒でも、対話の中で順番に回答してもらうことで、ユーザーのストレスも、離脱率も軽減できる。
1つの企業に寄せられる質問を仕分けすると、実は、よくある質問は、3つか4つに集約できることが多いんです。「問い合せ先がわからない」「商品を買ったけど壊れているんじゃないか」など、そういった質問が多いようです。
よくある質問に対しては、多くの場合チャットボットで対応を完結できる。
それでもだめなら、電話やメールで問合せをしてもらい、人と人とのやり取りで解決してもらえばいい。人的工数の大幅な削減にも繋がります。
森川 高額の買い物をするうえで、最初の接客はAIでもOKです。しかし、最終的にAIが勧める不動産や結婚式場を選ぶ人はあまりいないでしょう。
そこに人間が入っていく余地があります。最初はAIが対応して、その後は人間のプロが引き継ぐ。チャットボットと人間が連携して、ユーザーへの対応を手厚くしていくことも重要です。
チャットボットで、人が接客しているように自動で応答しながら、ユーザーにリコメンドを出したり、対話形式で買い物と決済も完結できる。国内でも、われわれを含め限られた企業にしかできません。
商品開発はトライアンドエラーの連続
――マイクロソフトとはどのように協業を進めていますか?
磯山 今後、チャットボットを通じて保有したデータをどのように使っていくか、顧客の企業に対して改善を提案していくのか。こうした課題への対応を考えるうえで、Microsoft Azureを活用していこうと考えています。
たとえば、最初に聞く質問はどんな質問がいいのか。いきなり名前を聞かれると個人情報を取られるんじゃないかという気持ちにもなって、ユーザーはかまえてしまう。
選択式の質問から始めると離脱しにくいとか、どんな質問の順番だと最終的に購入に結びつきやすいかなど、データを使って改善できる余地はたくさんあります。
こうしたデータの保有と活用に関する活動については、マイクロソフトからさまざまな支援を受けています。実際、われわれがつくっているサービスのほぼすべて、裏側はAzureで動いています。
当社はウェブマーケティング中心の会社ですが、自社サービスをどうやって開発するかを考えたとき、自前でエンジニアを雇い、自前で開発をするだけではなく、マイクロソフトのような大きな企業が支援をしてくれて、メンターの役割をしてくれるのは心強い。
これまで全く経験のない領域に、先生もなしに突っ込むのは無謀でしかありません。
僕らは弱小企業で、数万円、数十万円を削りながらビジネスをやっています。でも、チャットボットのサービスをここまで大きくできたのは、トライアンドエラーを重ねる事ができたからです。
今後も新たなサービスを開発していくつもりです。マイクロソフトにとってもAIは得意分野ですから、一緒につくりあげていければと考えています。
森川 ナショナルクライアントにも導入していただいたことで、一度に多くのユーザーに対応するなど、サーバーへの負荷も増えてきました。
Azure上でサービスを成長させていく中で、システムだけでなく、人の面でもさまざまなサポートをいただいています。たとえば、展示会ブースへの出展などの提案もその一つですね。
われわれはIPOを目指していて、その後はグローバル展開も視野に入れています。こうした会社の目標に対して、まずは海外のブースで展示をして、そもそもニーズがあるのか検証しませんか?というような提案をしていただけるのはありがたいです。
個人と個人の交流からモノが売れる
――マーケティングにおけるSNSの存在感はどんどん高まっているように感じますが、どうお考えでしょうか?
磯山 情報の量は毎年倍々で増え、趣味嗜好もどんどん多様になっています。今後5Gが入ってくれば、さらに情報の量は増加するでしょう。
これまでは、テレビで大々的にCMが放送されたり、マスコミが大きく取り上げたりした商品が売れましたが、個人が発信するSNSが広がったことで、考え方や趣味嗜好は違って当たり前だという世界になりました。
だからこそ、FacebookやTwitter、Instagram、Tik TokといったSNSにチャンスがあると思います。
人が集まって交流しているところには、ビジネスチャンスがあります。ただ、ものすごいスピードで変化しているため、昨日のことですらもう遅いよねと言われてしまう。
個人の力が強くなってきて、どこかの個人が発信したことがきっかけで、あるパン屋さんの商品が売り切れになってしまうこともあります。
どのSNSを通して買い物をするかというと、いまはやはりInstagramが強い。
たとえば顧客を16通りに分類して、このユーザーはこの分類に当てはまります、といった今まで通りのマーケティング手法もありますが、いまはInstagram上の個人と個人の交流の中で、商品が売れていきます。
年齢、趣味嗜好に合わせて、バナーのクリエイティブをどう見せるか、どんなメッセージを送るかが重要です。そして量産することも必要です。幅広い趣味嗜好をできるだけ細分化し、最適な文章、クリエイティブで届ける。
メッセージを送る際には、バンドが好きな女性と男性アイドルグループが好きな女性に対しては、文章の書き方も絵文字の使い方も違ってきます。情報の賞味期限が早いので、どれだけ手数を多くできるかも重要です。
さらに言えば、いつバズるのか、いつ炎上するのかを予測するのは難しいですが、そうしたチャンスとリスクにも備えながら、商品の良さを伝えていくことが求められています。
――個人が起点となってモノが売れていくんですね。
森川 われわれは、Twitter広告でグロースしてきました。Twitterの強みは拡散性で、そこで初めて商品やサービスのことを知り、興味を持ってくれたユーザーが、商品ページにランディングして、商品を買ってくれるかもしれません。
でもそのユーザーとは、もう会うことはないかもしれません。
いまアツいのは、LINE公式アカウントです。企業は少しずつ、自分たちでコミュニティをつくることの大切さに気付きはじめています。LINE公式アカウントのコミュニティにユーザーが入ってきてくれたら、どんなコミュニティ運営をしていくかも重要です。
コミュニティ運営は、顧客と企業の関係のあり方を見直す機会にもなると考えています。ディスカウントやクーポンを配ったりする手法が主流ですが、LINE公式アカウントのような閉じたコミュニティでは、従来とは異なる仕かけも重要です。
LINE公式アカウントでは、本業とはまったく関係がなくても、動物占いやクイズといった気軽に遊べるコンテンツを提供するなど、工夫をしながら企業とユーザーの関係を構築し、ファンになってもらうよう努力していくことが必要です。
ただ、自動化できるところはチャットボットで自動対応しないと、担当も大変です。
たとえば、住宅メーカーのコミュニティに入ってくれたユーザーに対して、プロのノウハウ、プロの知識を取り入れたボットが対応することで、プロがいなくても、プロが接客しているように感じてもらう。そんなサービスを目指しています。
自動化が進む世界で、人はどう価値を生み出すか
――自動化が進む世界において、これからデジタルマーケティングはどうなっていくと考えていますか?
磯山 デジタル広告はこれから、人材があまりいらなくなると思っています。
ウェブマーケティングの業界はめちゃめちゃハードで、深夜も働いていますが、人的リソースは、必要でなくなる世の中に向かっています。
だからこそ、いまAIに力をいれています。
ウェブ広告代理店の存在は重要です。AIは、データの取捨選択に強いですが、一方で、絵文字や人間の感情、感覚については、今後も人間の優位が続くでしょう。
人間が担当する単純作業はなくなっていきますが、どうすれば人の心に刺さるのか、どういう見せ方、どういうクリエイティブが求められているかについては、プログラムでは対応できません。しばらくは、AIでも対応できない領域として残るでしょう。30年後、50年後はわかりませんが。
――そういった世界に対してどのような対応を行なっていくおつもりでしょうか?
磯山 当社も組織として、クリエイティブを厚くしています。テキストを自動生成するAIもありますが、細かいニュアンスまではAIには対応できない。価値をつくることに頭を使わないと、僕らは生き残れないかもしれません。
広告の世界は今後、二極化が進んでいくと思います。電通や博報堂といった信頼のある大手と、腕のいいフリーランスの世界です。
その中間にあるわれわれのような会社は、必要でなくなる可能性が高い。だからこそ、人間にしかできない暖かさや冷たさ、クールやかわいいといった感情を具現化するクリエイティブを重視しています。
これまで、いい意味でも悪い意味でも、なんでも屋さんでした。25歳で仲間と会社を立ち上げて、いまは9期目。さまざまな事業にチャレンジして、失敗を繰り返してきました。失敗ありきで、いろんなことを試さないと正解にはたどり着けません。
結果として、われわれの強みだったWebマーケティングを効率化するような自社サービスの開発に力を入れています。
今後は、基盤となる自社サービス、Webマーケティングの土台であるノウハウをもとに、次の市場であるAIに進んでいきたいと思っています。
※この記事は日本マイクロソフトからの寄稿記事です