エリザベス女王やオバマ元大統領超え、英国で最も尊敬される93歳の「人間国宝」

このところ日本でも連日「ヘンリー王子の王室離脱」に関する報道がなされ、英国王室への関心が高まりを見せている。

そのトップに君臨するエリザベス女王。英国の象徴であり、国民の多くが尊敬する存在だ。


英国エリザベス女王(1926年4月生まれ、93歳)

英国に拠点を置く世論・市場調査会社YouGovがこのほど発表した「2019年世界で最も尊敬する人物ランキング」英国版では、エリザベス女王は22.61%のスコアを獲得し、女性の中ではミシェル・オバマ氏(13%)やJ.K.ローリング氏(6.77%)などの著名人らを大差で離し1位となった。

英国でエリザベス女王がいかに尊敬されているのかをあらわす数値といえるだろう。

エリザベス女王が1位であってもおかしくはないが、エリザベス女王を超える数値を叩き出した人物が1人だけいる。

英国の動物・植物学者でありテレビ番組のプロデューサーやナレーターを務めるデビッド・アッテンボロー氏(93歳)だ。英国の「national treasure(人間国宝)」と呼ばれるほどの人物。

YouGovランキングのスコアは25.78%(男性ランキング2位はオバマ元大統領で14.12%)。男女含めた総合ランキングでも堂々の1位。ちなみにエリザベス女王も93歳でアッテンボロー氏と同年齢(1926年生まれ)。


デビッド・アッテンボロー氏(1926年5月生まれ、93歳)

日本では聞き慣れない名前かもしれないが、アッテンボロー氏が関わるテレビ番組を目にした人は多いはずだ。

NHKが2018年5月と2019年3月頃に連続放送した海洋ドキュメンタリー番組「ブループラネット(「Blue Planet Ⅱ」)」。豊川悦司氏と仲間由紀恵氏によるナレーションで放送されたBBCの番組であるが、そのオリジナルナレーションを務めているのがアッテンボロー氏なのだ。

このアッテンボロー氏は今英国だけでなく、広く英語圏やアジア諸国において「アッテンボロー・エフェクト」と呼ばれる環境意識・ライフスタイルの大変革を引き起こしている。

英国で1,400万人以上、中国では1億人が同時視聴か?アッテンボロー氏がプレゼンターを務めた驚異のドキュメンタリー番組

「アッテンボロー・エフェクト」とはどのような現象なのか。

アッテンボロー氏がプレゼンター/ナレーターを務めるBBCの自然ドキュメンタリー番組では、主に自然や野生動物の美しさや雄大さが描かれるが、近年の場組では深刻化する気候変動、プラスチックごみ問題、自然破壊の現状も生々しく描写。

この映像に衝撃を受けた視聴者の間で、普段の生活におけるプラスチック利用を減らすなど環境を意識した取り組み加速しているのだ。特に2017年に公開された「Blue Planet Ⅱ」の衝撃は大きく、「ブループラネット・エフェクト」と呼ばれることもある。


深刻化の一途を辿る海洋プラごみ問題(写真はイメージ)

Blue Planet Ⅱはサンゴ礁や海洋生物に焦点を当てた海洋ドキュメンタリー番組で12〜14分のエピーソード7つで構成されているが、最終回となるエピーソード7でプラスチック汚染についてその深刻さを伝えている。

アッテンボロー・エフェクトがどれほどの影響力を持っているのか、それを示す数字がいくつか存在する。

まずBlue Planet Ⅱの視聴者数。英国では2017年10月にテレビ放送されたが、その視聴者数は1,400万人を超え、同年英国で最も視聴された番組となったのだ。一方で「Xファクター」などのバラエティ番組は視聴率が低迷していた。

Blue Planet Ⅱは英国以外でも放送・配信され、海外でも多くの視聴者を惹きつけた。アジアでは中国でのインパクトが大きかったと報じられている。

英メディアThe Sunday Timesなどによると、テンセント・ビデオがBlue Planet Ⅱをオンライン配信したところ、推定8,000万人〜1億人の視聴者が同時接続したため、ネット速度が下がるという事態になったという。

中国版ツイッターWeiboでは、視聴者から「海の美しさに感動した」というコメントや「海洋プラスチック問題の深刻さに衝撃を受けた」とのコメントが多くアップされたとのこと。特に自然に触れず育った都市部の若者に大きな影響を与えたという。

2018年1月末に中国を訪れた英テレサ・メイ前首相は、アッテンボロー氏のサインとメッセージ入りのBlue Planet ⅡDVDセットを習近平国家主席にプレゼントしたともいわれている。

エリザベス女王にも影響を及ぼしたアッテンボロー氏

Blue Planet Ⅱを見た視聴者の多くに起こる変化。それは普段の生活におけるプラスチック利用を極力減らしたいという意識が強くなることだ。

英国のオンライン調査会社GlobalWebIndexは2018年10月のレポートでアッテンボロー・エフェクトが消費者の意識を大きく変革していると指摘。

同社が実施した世代別意識調査では、エコフレンドリーな商品を選ぶとの回答は、Z世代が58%、ミレニアル世代が61%、X世代が55%、団塊世代が46%となり、ミレニアル世代がエコ消費をけん引していることが浮き彫りとなった。

GlobalWebIndexによると、現在エコ消費が拡大しているのは食品、飲料、洗剤などの消費財分野だが、今後ファストファッション分野にも波及していくだろうとのこと。

アッテンボロー・エフェクトはこのほかにもさまざまな変化を生み出している。

Blue Planet Ⅱを制作・放送したBBCは、同番組放送を機に局内で2020年までに使い捨てプラスチックの利用を完全に禁止する計画を発表。また2018年4月には英国政府がBlue Planet Ⅱの反響を受けて、使い捨てプラスチックの利用禁止法を検討するとの声明を発表した。

さらに英テレグラフ紙が伝えたところでは、Blue Planet Ⅱを含めアッテンボロー氏がプレゼンターを務めるドキュメンタリー番組に感銘を受けたエリザベス女王は「プラスチック問題への宣戦布告」を発表し、王宮内でのプラスチックストローとペットボトルの利用を禁止することを決定したという。


バッキンガム宮殿

Blue Planet Ⅱ以降も「Our Planet」「Wild Karnataka」「Climate Change – The Facts」などのBBCドキュメンタリー番組でプレゼンターを務めるアッテンボロー氏。「アッテンボロー・エフェクト」はどこまで広がりを見せるのか、93歳のインフルエンサーから目が離せない。

※上記ドキュメンタリー番組の一部は英語圏ではネットフリックスで配信されているようだ。YouTubeのBBC EarthチャンネルでもBlue Planet Ⅱの予告編が公開されており、その映像美の一旦を垣間見ることができる。

息を呑む映像と著名作曲家ハンス・ジマー氏の壮大な音楽、アッテンボロー氏のインスピレーショナルな語りを堪能してみてはいかがだろうか。

Blue Planet Ⅱの予告編 3分版

Blue Planet Ⅱの予告編 5分版

[文] 細谷元(Livit