世界最大ECプラットフォーム「Shopify」が日本市場に与えるインパクトとは

近年、アメリカ発モール型ECサイト「Amazon(アマゾン)」や、中国発モール型ECサイト「Alibaba(アリババ)」などの目覚ましい躍進などにより、Eコマース(電子商取引)市場が急成長を遂げている。

これにより、消費者は家にいながらにして気軽にワンクリックで購入・決済・受け取りをすることができるようになった。

また、販売者も、実店舗では一定のエリア内の消費者しかターゲッティングできなかったものの、ECを利用することによって、日本全国の消費者をターゲッティングすることが可能となった。加えて、世界を相手にビジネス展開することも容易となった。

経済産業省の平成30年度電子商取引に関する市場調査では、2018年のBtoC EC(企業と消費者間取引)市場規模は、17兆9,845億円(前年比8,96%増)にのぼり、日本でも着々とEC化が進行している。

しかし、サイト立ち上げや運営には、プログラミングやWEBマーケティングの専門知識が必要となる場合も多く、志半ばで挫折してしまう事業者も多い。

カナダ発のShopify(ショッピファイ)は、そんな技術的な悩みを解決し、ビジネス面でもフルサポートしてくれる、世界最大のECプラットフォームだ。

月額29ドルから利用することができ、そのクオリティの高さや使いやすさから、現在では世界約175ヶ国、100万店舗以上ものストアで利用されている。

今回は、Shopifyの日本カントリーマネージャーであるマーク・ワング氏(以下、ワング)に、日本国内でのEC市場の現状や課題、Shopifyの国内での今後の展開などについて、お話を伺った。

知識やスキルがなくても手軽に本格EC事業を開始できる

——まず、Shopifyのサービス概要について教えてください。

ワング:簡単に言うと、誰でもどこでも何でも自由に物を販売することができ、簡単にビジネスを開始・展開することのできるサービスです。

サービス内容は、一言では言えないほど多岐に渡ります。例えば、支払いサービス、出荷物流サービス、また、様々なビジネスをサポートするアプリケーションなども提供しています。

そして、我々が最も得意としていることの1つが、ネット広告です。これはeBayやAmazon、また、FacebookやPinterestなど、様々なSNSにマルチチャネルで対応しています。

何かを販売したいと考えているものの、「具体的な手順や技術的なことが分からない」と悩んでいる方でも、気軽に事業を開始することのできるよう、支援を行なっています。

——Shopifyを使うことによって、ユーザーにどのようなメリットをもたらすとお考えですか?

ワング:我々のサービスには、全くゼロの状態からでも、数十億ドル産業のDtoCブランドへと成長させることのできる可能性があります。

これは、ただ口で言っているだけではありません。実際にいくつかの事例があり、複数の起業家が大規模なブランドを作り上げることに成功しています。

Shopifyでは、機能性やセールスなど、どんどん事業の規模を拡大することができます。つまり、スタートアップでも、成長するにつれグローバルに展開することが可能になります。

また、10ドルの商品を販売しているストア、1億個もの商品を販売しているストアなど、規模や価格帯に関わらず、それぞれの形態に合わせて対応することが可能です。

さらに、Shopifyにある100個以上のテーマから選び、それをドラッグ&ドロップで編集するだけで、簡単に自分のお店を作ることができます。もちろん、お店のテーマをカスタマイズすることも可能です。

そのため、専門的な知識や、コーディングなどの技術的なスキルがなくても、どなたでも気軽にクオリティの高いストアを作ることができるんです。

——現在、どれくらいの人が使っているのでしょうか。

ワング:残念ながら、国ごとの数字は公開していないのですが、グローバル単位では、起業家、販売者、マーチャンダイザー全て含め、現在100万ショップ以上が毎日運営されています。

日本でも、個人事業主から大手企業まで、国内向けの販売、越境EC問わず多くのマーチャントに利用いただており、 日本は最速で成長を遂げている市場だと言えます。

そして、おかげさまで、最近では、日本の伝統的なブランドにも利用していただけています。土屋鞄製作所、Tabio(靴下屋)、とらや和菓子屋、鎌倉シャツ、A BATHING APE®、FUGLEN COFFEE ROASTERS、ゴーゴーカレーを始め、他にも多くのブランドがShopifyを利用しています。

スタートアップの企業に利用していただくことはもちろん、こうした伝統的な企業にも利用していただけていることは、大変嬉しいことだと感じています。

日本市場は海外市場とは大きく異なる

——ワング氏はカントリーマネージャーとして、主にどのような役割を担っていますか?

ワング氏:S日本市場にはとても大きな可能性があります。私は、アジアの色々な国を見てきましたが日本には最高のチャンスがあると感じて日本展開をしていくことを説得し今に至ります。

そのため、現在は、「Shopifyを日本で成長させること」を一番のミッションとして掲げています。

日本市場は大変特殊で、アメリカを始めとする海外市場とは非常に異なります。そのため、日本で展開する上で、市場のことをきちんと理解することが重要です。

また、消費者側の視点だけではなく、売り手側の視点も非常に大切で、双方の視点に立って考える必要があります。その理解を踏まえた上で、日本市場にはどういったものが適しているのかを、日々探求しています。

——ワング様とShopifyとの出会いについて教えてください。

ワング氏:実は私は、Shopifyの本社があるカナダ・オタワの出身なんです。

Shopifyは2006年に設立したのですが、その当時私は、銀行で金融系の仕事をしており、日本を含め、南米やヨーロッパなど、色々な国を飛び回る生活でした。

そして、その後、Shopifyは2012年から2013年頃に急成長を遂げたのですが、その頃私はインドネシアで投資関係の仕事をしていたんです。

ちょうどその頃、国際展開をしたいと考えていた創設メンバーが、東南アジアを訪問していました。そして、私がオタワ出身であることがきっかけで、Shopifyのメンバーと出会うことになったんです。

その後も、彼らとはずっと連絡を取り続けていたのですが、数年経った頃に「主要国の市場で展開していくことになったから、手伝ってくれないか」という連絡が入り、正式にジョインすることになりました。

そして、主要な海外市場といえば日本だと思い、一番初めに日本市場に展開することになりました。

日本特有の難しさと、秘めた魅力

——Shopifyを日本に展開するにあたって、始めに取り組んだことは何ですか?

ワング氏:日本市場にShopifyを展開していくにあたって、我々はまず、サービスを全て日本語にローカライズしました。それ自体はとても簡単な作業だったのですが、その後、我々は日本の市場は、他の市場と比べて、一筋縄ではいかないことに気づいたのです。

例えば、支払い方法です。アメリカではほとんどの人がクレジットカードを使用します。しかし、日本にはクレジットカードだけではなく、JCB、代引き、キャリア決済、コンビニ払い、Amazon Pay、楽天Pay、LINE Pay、PayPay、後払いなど非常に多くの支払い方法があります。

そのため、その全ての支払い方法に対応するために、まず、商品の受注から決済、出荷など、業務全体のフルフィルメントパートナーと連携するなど、非常に様々なことに対応する必要がありました。

次に、日本市場についてリサーチしていく中で、日本の消費者や売り手にとって、カスタマーサービスがとても重要なものであることに気づいたため、カスタマーサービスと、そのサポートチームを設置しました。日本市場は、Shopifyの中で唯一、独自のサポートチームが置かれている市場となります。

また、Shopifyを利用している売り手に対し、月に1度のセミナーを開催しています。経済産業省の公式な援助を得て、販売や越境ECに関してのトレーニングを行なっています。

日本はクラフトマンシップ精神が非常に盛んな国なので、少しでも多くの強い志を抱いた人たちが、グローバルに展開していけるよう、力になっていけたらと思っています。

——日本EC市場の魅力や今後の可能性を教えてください。

ワング:日本市場の一番の魅力は「ユニークさ」だと思います。日本には、世界が求めている革新された商品がたくさんあります。例えば、ジーンズ、着物、弁当箱、箸、コスメなどが挙げられます。

しかし、ほとんどの日本人は、他国の人たちがそれを欲しがっていることに気づいておらず、気づいていても、「売り方が分からない」と挫折する人が多いです。つまり、日本市場にはまだまだ大きな可能性や機会が溢れているんです。

一つ、とてもユニークな事例があって、アメリカで大成功をおさめた韓国人の事例を紹介します。

彼は、日本の「ウコンの力」のような栄養ドリンクを販売しているのですが、日本だと、そういったエキスドリンクはコンビニや薬局でもどこでも扱われており、そんなに特殊な商品ではありませんよね。

韓国でも同様で、日本や韓国では、みんな至る所でそういった栄養ドリンクを飲んでいるのに、アメリカでは飲んでいる人がいませんでした。それに気づいた彼は、アメリカ向けの栄養ドリンクを作り、Shopifyを利用し販売しました。すると、それがアメリカで大ヒットしたんです。

この事例のように、思いもよらない商品が他国でヒットする可能性があります。日本にはたくさんの良い商品があり、たくさんのチャンスが溢れているんです。そして、もちろん日本国内でのチャンスもあります。日本は第三の経済大国でEC大国でもあるからです。

来年は、オリンピックが開催されるので、多くの外国人が来日します。それは日本の商品やブランドを見てもらえるチャンスで、日本の商品を海外に展開していくチャンスでもあるわけです。

そういったグローバル展開を、我々がお手伝いしていくことができれば幸いです。

「信頼」が日本市場攻略の鍵

——日本市場を攻略する上で、大変だと感じている点は何でしょうか?

ワング氏:我々が最も大きく受け止めているのは、「信頼性」の部分です。日本では、日本国内での評価を重んじる傾向があります。

Shopifyは、世界的に見ると急成長をしている非常に大きなECプラットフォームであり、我々自身も、事業を開始したばかりの人や事業を成長させたい人、事業を拡大させたい人、どれにおいてもベストな技術、サービスを提供しているという自負があります。

また、実際に我々のサービスを利用し、自分のブランドを海外に展開させれば、海外で大成功をおさめている企業もたくさんあり、日本市場にもそういった可能性はたくさんあるわけです。

しかし、日本では企業・人・プロダクト、その全てに対して信頼性がなければそもそもそのサービスを利用しない傾向があります。つまり、例え日本の外でNo.1であっても、日本ではあまり意味がないのです。

そういった日本市場独特の背景があるからこそ、我々は前述したカスタマーサービスやセミナーの例など、日本人のニーズに合った、日本に最適なサービスを提供し、Shopifyが日本にきちんとコミットしていることを示せるよう、日々努めています。

——日本市場が海外市場と最も異なる点はどんなところですか?

ワング:日本ではいかに密な関係性を保っていくかが、とても重要であると感じています。

ビジネスパートナーである方々と共に、お互いを尊重し合いながら、同じ目標に向かって目的を共有し合っていくということが非常に重要になります。そのため、そうした関係性の構築において、我々は大きく時間をかけ、投資をしています。

我々が日本市場において最も焦点を当てていることは、最速の成長などではありません。

ですから、日本では大々的にCMを打ってプロモーションをするなどといった戦略ではなく、店舗にとって最適なパフォーマンスを提供できるよう、「人生100年時代構想」のごとく、長い時間をかけてアプローチしていくことに努めています。

——今後、日本市場で成し遂げていきたいことを教えてください。

ワング:おかげさまで、日本市場は迅速な成長を遂げています。それにはやはり、日本の店舗ととても良い関係性を築き上げることができていることが、大きいと思います。

また、嬉しいことに、大きなブランドがShopifyを利用してくれていたり、小さなブランドでも数千もの店舗が利用してくださっています。

我々はそれを当然だと思うのではなく、今後も日本市場にとって最適なイノベーションや開発に真摯に取り組み、事業を始めたいと考えているビジネスパーソンにとって、最適なツールを提供し、支援していきたいです。

また、事業を開始するにあたって、コストや技術、時間、工数などを気にすることなく、自分自身のプロダクトを作ることだけにフォーカスすることができるようなサービス、老若男女問わずに利用していただけるサービスを届けていけるよう、引き続き努力を重ねていきたいと思います。

取材・文:Sayah
写真:花岡 郁

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