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欧州を中心に街の一部や全体を自動車禁止にする「car-freeムーブメント」が広がりを見せている。ヨーロッパの都市が市内から車を排除しようとしているのだ。スペインのバルセロナ市では「superilla (スペリージャ)」(英語でsuperblockの意味)と呼ばれるプロジェクトが進行中である。
ZBEとスペリージャの導入
2018年に米国シカゴ大学が発表した「Air Quiality Life Index」という指数によると、人間の健康に害を与えるもの原因は大気汚染・粉塵公害が1位、それに続く2位のタバコや、3位のアルコールやドラッグを大きく引き離す結果となっている。
筆者の住むスペインでも環境問題は日々深刻化している。2018年の5月に欧州委員会はバルセロナとマドリッドの2都市のEUの法定基準を超える大気汚染基準の違反が継続しているため、ルクセンブルグの欧州司法裁判所に提訴する決定を下している。
そんな中、2020年1月からバルセロナ市はZBE(La zona de bajas emisiones、低排出圏の略)を導入し、2003年以前に登録した車両やバイクは月曜から金曜の朝7時から20時まで市内全域乗り入れ禁止とすることにした。
2003年以前に購入したガソリン車と2006年以前に購入した軽油車は、その圏内に入るたびに100から500ユーロの罰金を払うことになる。
しかし、罰金システムが実際に施行されるのは2020年4月からとなっており、2020年1月中旬現在、交通量に今のところあまり変化はないようだ。また古い車やバイクを廃車にした場合には3年間全交通機関が無料となるチケットをもらえるというシステムもある。
スペインは2016年から交通局が車のフロントガラスの隅に貼るためのステッカーを配布している。「0(ゼロ)」「Eco」「C」「B」の4種類あり、基準をクリアしていない古い車にはこのステッカーは配布されず、ZBEを平日走ることはできない。
マドリードで導入済みの同様の低排出圏はマドリッドの中心部だけであり、都市圏全体がその対象になるバルセロナとは異なる。カバーする面積は約95平方キロメートルで、マドリード市の20倍である。
バルセロナは3年以内に市内の自動車の数を12万5,000台減らし、4年以内に大気汚染を20%削減することを目標としている。そして、それが達成できない場合は、バルセロナはロンドンと同様の混雑課金の導入を考えている。
また、公共空間の市民の有効利用という意味で、2016年からバルセロナ市が取り入れられているのが、「Superilla(スペリージャ)」である。
バルセロナの街は、まずローマ時代に作られた歴史的な建物が集まる旧市街のゴシック地区があり、そのあとに産業革命が起きて工場がたくさん作られ、城壁を壊し、周りの平野部に近代的な都市を広げて行った。
これは土木技師イルデフォンソ・セルダの1859年に発表した計画であり、「セルダ・ブロック」と呼ばれたものだ。それは、133.3メートル四方の区画で京都の碁盤の目のようになっている。
今回のプロジェクトでは、この碁盤の目のブロックの9つを大きな島のように1つとし、その内部の本来自動車が走っていた部分を自転車と歩行者のみが自由に行き来できるようにする。
中には自動車が入れず、外枠を通るときでも車は時速10キロに減速しないといけない。縦に3つ、横に3つブロックを繋げるため、1辺は400mほどになる。
バルセロナ市は現在人口約160万人。圧倒的な交通量により、子どもたちが遊ぶ公共空間や市民がゆっくり散歩できるようなスペースがないという問題の解消のため、2006年ごろより、毎週日曜日だけ自動車が通行禁止のエリアを作るようにした。
その後2016年9月に海沿いのポブレノウ地区に一番最初のスペリージャが作られた。
現在合計6つあるスペリージャのうちの1つであるサンアントニ地区では、82%の車の交通量が減ったというデータがある。1日通行していた自動車は7,216 台から1,266台に減り、6,000台の減少。また、街中を歩く人の数も28%増えたというデータも2019年12月に発表された。
Instituto de Salud Global Barcelona(バルセロナ・グローバル健康研究所)が2016年6月に行った調査では、このプロジェクトを施行することでバルセロナ市で早世する人を年間20%減らすことができると予測されている。
スペリージャは市民のストレス軽減となるだけでなく、市民の健康にも直接よい影響を与えるだろうと見込まれているのだ。
ハンブルグの「Grünes Netz」グリーン・ネットワーク計画
ドイツの北部にあるハンブルクは、首都ベルリンに次ぐドイツ第二の都市、人口は約170万人。全長1,091kmの国際河川エルベ川河口に位置し、古くから港湾都市として栄えた。
ハンブルク市は、2013年に「Grünes Netz(グリーンネットワーク)」というプロジェクトを発表した。
これから20年の年月と400万ユーロ(約4億9,000万円)をかけてハンブルク市の40%をすべて車なしで、徒歩や自転車や公共交通機関だけで動けるようにインフラを整備するのを目標とした、環境対策のためのプロジェクトである。
ハンブルク市に市役所を中心とした半径1キロメートルとした小さな環状グリーンベルトと、半径8から10キロメートル、端から端まで最長部分で90キロメートルの大きな環状グリーンベルトのエリアの二つの環状グリーンベルトがあると考え、この二つのベルトと公園、娯楽エリア、墓地、動物の生息地などを、緑とエリアと元からあった中心部へ向かうアクセスするルートを結ぶというのがこのプロジェクトの目的だ。
ハンブルグの過去60年の平均気温が1,2度上がったことをふまえ、CO2を抑えるために市内の緑化事業の促進するという目標もこのプランに含まれる。
また、この緑化事業で木を増やすことにより、海抜が過去60年で20センチ高くなり、今後2100年までにさらに30センチ高くなるだろう予測する研究データもあり、そうなった場合の洪水を防ぐためでもある。
ノルウェー・オスロの気候予算案
「緑の首都」として2019年に選出されたノルウェーのオスロでは、過去10年に公共交通を使って移動する人の数は2億2,800万回の利用から3億7,100万回利用まで63%も増加している。
また2020年までに公共交通機関は再生可能エネルギーですべて動かすようになり、また、2028年までにはすべて電気で動かすようにする計画がある。
オスロでは2016年に、世界初となる気候予算案を発表し大きな話題となった。
この気候予算案は現在も継続しており2019年9月に発表された2020年の気候予算案は、具体的には海洋・水域保護を加速させるため、富栄養化対策に2億4,000万スウェーデン・クローナ(SEK、約26.4億円)、汚染堆積物や難破船などの回収に6,500万SEK(約7.2億円)、海洋水域モニタリングに8,000万SEK(約8.8億円)を投資する。
森林保護強化の目的では2億SEK(約22億円)、国立公園の保護や外来種対策などに対して4億SEK(約44億円)投資する。
また、同様にデンマーク・コペンハーゲンでは通勤する人の50%が自転車通勤をしているようになっている。これは1960年代から市が歩行者専用道路の整備をすすめ、また合計200キロ以上にもなる自転車専用レーンを作ったことによる成果である。
フィンランドで始まったスマホを使って一括して交通手段を検索し、予約・決済をする「MaaS(Mobility as a Service、マース)」のシステムも最近は進化してきている。
EU各地で電動自転車はもちろん、電動キックボードを街角でシェアするサービスも増えてきている。たとえば、フランスのパリに住む人全体の49%が3個から5個のモビリティアプリを使って移動手段を自分たちで選択しているという調査結果もある。
人も街も変化し続ける中で、地球を守っていく暮らしは、行政と市民の協働の上に成り立つということを意識することが大切だろう。
文:中森有紀
編集:岡徳之(Livit)