社内起業家アベンジャーズ。“大手企業のイントレプレナー支援”を行うマイクロソフトのビジョン

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日本マイクロソフトは、2019年より日系大手企業向けのイントレプレナー支援の取り組みとして、「Empower Japan Intrapreneur Community」をスタート。
NTT東日本や三菱地所、資生堂、JR東日本など、日本を支える名だたる大手企業のイントレプレナーを招き、ビジネスアイデアを構想するミーティングを開催する。

2019年9月に第一回目のミーティングを実施し、10月、11月のミーティングを経て、12月14日には中間発表会を開催。アクシスコーディネート代表取締役社長の南形潔賜氏、イッツ・コミュニケーションズ コミュニティアクセラレーター―の河原あず氏、日本マイクロソフト業務執行役員の澤円氏の3名をメンターに迎え、各社の強みを活かしたビジネスプランが披露された。

イノベーション創出のカギは、大手企業にあり

Empower Japan Intrapreneur Communityは、日系大手企業のイノベーション創出支援を通して、経済的に停滞気味の日本を活気づけることを目的に設立された。

イノベーションを生み出すキーマンとなる各社のイントレプレナーを集め、課題や情報を共有する場を提供している。

日本マイクロソフトからは、テクノロジー面での支援や、PoC(概念実証。新規性の高いアイデアが実現可能なことを示すためのデモ)支援、協業パートナー企業とのマッチング支援など、多方面でのサポートが提供される。

コミュニティ設立者であり、活動を牽引する日本マイクロソフト金本 泰裕氏は、自身も日系大手企業にて10年以上新規事業に携わってきた過去を持つ。日本マイクロソフトに入社し、企業の新規事業を支援する立場になったタイミングで、とある課題に気付いたという。


日本マイクロソフト 金本 泰裕氏

金本氏「昨今、イノベーティブなスタートアップが多数登場し、脚光を浴びています。彼らが成長していくうえで、大手企業との協業が欠かせないケースは少なくありません。つまり、イノベーションを起こすうえで大手企業の存在が重要となるわけです。

一方で、大手企業もオープンイノベーションの気運の高まりとともに、スタートアップと積極的に協業するようになりつつあります。ただ、穿った見方をすれば『イノベーションを外部に頼っている』ようにも見えます。ヒト・モノ・カネが潤沢にある大手企業は、スタートアップよりも本来新規事業に取り組みやすいはず。

大手企業が自らイノベーションを起こしていくための機運を高めるためには、新規事業を推進するイントレプレナーをサポートするのがベストではないかと考えたのが、コミュニティ構想のきっかけです」

Empower Japan Intrapreneur Communityのメンバーは、基本的には運営メンバーの繋がりを軸にメンバーを招集しているという。「各社の新規事業創出に本気でコミットするためには、一社一社に対し厚いサポートを提供する必要がある」との考えが根底にあるからだ。

金本氏は、コミュニティを通じて、参加者に「2つの出会い」を提供したいと意気込む。
1つは、イントレプレナーとしての矜持を持ち、悩みを共有し合える「人」との出会い、もう1つは「テクノロジー」との出会いだ。

金本氏「私自身が新規事業に携わっていた経験から学んだのは、イノベーションとは『人』や『テクノロジー』と出会った瞬間に生まれるということ。今回設立したコミュニティでは、非常に優秀で個性溢れるメンバーが集まったため、お互いにとってよい出会いになっていると感じています。

テクノロジーとの出会いについては、マイクロソフトは世界有数のテクノロジーカンパニーであり、先進的な技術情報や世界中の先行事例が集まりやすい環境です。それらの最新情報をコミュニティメンバーに向けわかりやすく噛み砕き、提供しています。また、プロダクト開発の内製化の重要性等についてもふれ、組織的な課題にもアプローチしていきたいと考えています」

気鋭のイントレプレナーたちのアイデア

12月に開催された中間発表では、計10名のイントレプレナーが参加。各々が構想している新規事業内容を10分程度でプレゼンし、メンターの3名からフィードバックを受けるという形で行われた。


NTT東日本 大友 太一朗氏

トップバッターを務めた東日本電信電話株式会社(NTT東日本)経営企画部 営業戦略推進室 主査 大友 太一朗氏は、AIを用いて観光客の趣味嗜好に応じたレコメンドを行う訪日観光客向けのサービスを提案。


三菱地所 渡邊 良吉氏

三菱地所株式会社 海外事業企画部 企画管理ユニット 主事渡邊 良吉氏は、不動産業界の課題とブロックチェーンを組み合わせた新規事業を提案。


アイリス 登坂 直樹氏

3社目のアイリス株式会社からは、インターン生である登坂 直樹氏が参戦。ベンチャー企業の人材不足問題を解消するため、産学官を連携させたベンチャー人材獲得戦略支援アイデアを披露した。


資生堂 瀧田 隼氏

株式会社資生堂 リージョナルブランド部 メイクアップ室 マジョリカマジョルカ ブランドアソシエイト瀧田 隼氏は、女性の趣味嗜好に併せて、個別の診断からブランド体験までをよりシームレスに行うパーソナライズサービスの構想を発表。


JR東日本 奥田 結香氏

続いて発表されたのは、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)事業創造本部 新事業・地域活性化部門 ON1000プロジェクト奥田 結香氏のプラン。地方での観光二次交通を提供するMaaSビジネスのプランを発表した。


旭化成エレクトロニクス 中村 磨樹央氏

旭化成エレクトロニクス株式会社 企画管理部 事業企画室 課長 中村 磨樹央氏は、ヘーベルハウス顧客のロイヤリティ向上を目的としたシェアリングエコノミービジネス構想を発表。


日揮ホールディングス 小島 徹也氏

日揮ホールディングス株式会社 グループ経営企画部 アソシエートマネージャー小島 徹也氏が、ブロックチェーンを活用し、熟練技術者・労働者の不足を解消する新規事業アイデアをプレゼンした。

第一部を終えた段階で、メンターの河原氏によるワークショップ「イノベーターパーソナリティセミナー」が開催された。参加者は、EQをベースにしたパーソナリティ検査「EQPI」を体験し、イノベーターとしての自己理解を深めた。


博報堂 加藤 喬大氏

博報堂 ビジネス開発局 アカウント開発部 AE加藤 喬大氏が遠隔地からMicrosoft Teamsを使っての参加。防災×地域コミュニケーション活性化に関する新規事業アイデアを紹介。


宇部興産 新田 桜氏

続いて、宇部興産株式会社 化学カンパニー ナイロン・ファイン事業部 ファインケミカル営業部 ファインケミカルグループ新田 桜氏からは、化学品の納入に際した品質保証関連業務を効率化する事業アイデアが披露された。


Uber Japan 佐々木 裕馬氏

ラストを飾った前Uber Japan株式会社の佐々木 裕馬氏は、今回の参加者のなかでは異色の存在だった。冒頭、「まもなく現職を退職し、スタートアップで役員として働きながら個人でアフリカ起業の準備をする予定」と発言。今回のプレゼンでは、これから個人で立ち上げる予定の、フランス語圏のアフリカを主戦場とした新規事業アイデアが披露された。日系大手企業のイントレプレナーを想定して設立されたコミュニティではあるが、ユニークで熱量が高い起業家人材も支援の対象としているようだ。

斬新な事業アイデアが共有された中間発表。自社にいるだけでは決して聞けないような、他社イントレプレナーの構想を聞くことができ、多くの参加者が新たなファインディングスを獲得し、満足しているようだった。

実際、Empower Japan Intrapreneur Communityにどのような想いをもって参加しているのか。JR東日本奥田氏と、NTT東日本大友氏の2名に伺ってみた。

知人のすすめでコミュニティに参画した奥田氏は、「同じイントレプレナー同士と交流できる場があるのは心強い。他社の新鮮なアイデアが事業化される過程を見られるのは刺激になるし、非常に学びが深い」と、コミュニティへの想いを語ってくれた。

大友氏は、新規事業に携わり始めてすぐのタイミングで参加したという。
「自分と同じ立場の方々とネットワークを持てたのは大きい。前向きで優秀な方々と悩みを共有したり、ヒントをもらえたりしている」と語る。

イントレプレナーは社内で孤立しがちで、相談相手がいないケースがほとんどだ。悩みを共有できるだけでも、彼らにとっては大きな救いになる。
加えて、メンターからのフィードバックやマイクロソフトからの支援など、潤沢なサポートを受けた彼らは、余計な不安を抱えることなく新規事業創出に集中できているようだ。

最強のイントレプレナー集団を目指して

今回の中間発表では、多数の事業アイデアが披露された。金本氏は、「メンターなどからのアドバイスや支援を活かして、自身のアイデアやプランをよりよいものにし、実現して頂きたい」と語る。

金本氏「今回、10名のイントレプレナーから新規事業プランを発表して頂きましたが、いずれもユニークかつ優れたものばかりでした。当初の仮説通り、正しい人に正しい出会いを提供することで、大手企業からもどんどん新規事業が生まれていくんだと実感しています」

各イントレプレナーの力の込もった新規事業プランに対し、メンターの3名も本気のフィードバックを展開し、場を盛り上げた。最後、イントレプレナーとして持つべき矜持について、三者三様のコメントを残している。

南形氏「夢を持ったら、まず日付を付けること。いつまでに何を実現するのかが明確になれば、応援しやすい」

河原氏「自分が本当にやりたいかどうかで事業の強度は決まってくる。熱量が高ければ高いほど、周りは心を打たれる」

澤氏「肝は、どれだけ皆に笑われるアイデアを出せるか。誰もが本気にしないような、自由なアイデアを出してほしい。私たちメンターも、そういう人を応援したいと思っている」

今後は、3月に実施予定の最終報告会に向け、各自の事業アイデアを磨き上げるフェーズに入る。最終報告会を終えた後は、コミュニティから生まれた新規事業アイデアの実現に向けて動き、将来的には事業として成立させるためのサポートにも取り組む予定だという。

金本氏「このコミュニティ活動は、マイクロソフトの“”Empower every person and every organization on the planet to achieve more(地球上のすべての個人とすべての組織が、 より多くのことを達成できるようにする)”というミッションにもつながる取り組みだと考えています。本気で新規事業に挑みたい優秀な人材を集め、ゆくゆくは日本をエンパワーメントするようなイノベーションがどんどん創出される場を形成したいと思っています」

“イントレプレナーのアベンジャーズ”を目指して、今後も会を推進していきたいと語る金本氏。Empower Japan Intrapreneur Communityからどれだけのイノベーションが生まれるのか、今後の展開に期待だ。

>>Empower Japan Intrapreneur Communityに関するお問い合わせはこちら

文:水落 絵理香
撮影:益井 健太郎

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