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中国の廃棄プラスチック輸入禁止の波紋、東南アジアに輸出されるごみ
2017年末、中国が廃棄プラスチックの輸入を禁止したというニュースが世界的に話題となった。ごみ輸出国の人々が自国のごみ問題を意識するきっかけを作り出した出来事といえるかもしれない。
ごみを中国に輸出していたのは欧州や北米、日本など先進国と呼ばれる国々。自国では処理しきれない量のごみを消費し、その負担を中国に押し付けていた格好だ。
しかし環境問題の悪化を理由に、中国がごみ輸入を禁止。世界のごみ処理を一手に担ってきた中国によるごみ輸入禁止は、世界各地にさまざまな影響をもたらしている。
ポジティブな影響としては、ごみが輸出されていたという事実が広く知られるきっかけとなり、問題意識を醸成し、プラスチック消費を抑えようという取り組みの促進につながったことが挙げられるだろう。
一方で、中国に向かうはずだったごみが東南アジアに輸出され、地元の環境問題や健康問題を悪化させる事態を招いており、看過できない新たな問題として多くのメディアが報じ始めている。
TIME誌は2019年6月の記事で、中国のごみ輸入禁止以来、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシア、フィリピンへのごみ輸出が加速したと指摘。マレーシアでは、月間ごみ輸入量が5倍となる11万トンに増加。
マレーシアにごみを輸出している国トップ3は米国、日本、英国。フィリピンではごみ輸入量が2016年比で3倍増加したという。このほかタイではごみ輸入量が2,000%増加、ベトナムでも同等の増加を見せている。
ベトナム地元メディアのVNエクスプレスは、同国では2018年上半期だけで、海外からのごみ輸入量が400万トンを超えたと報道。そのうち最大の輸出国は日本で100万トン以上だと伝えている。
2番目は米国で96万トン。このほか、タイ、韓国、ドイツ、ベルギーなどからの輸入も顕著に増加。ベトナムの港湾では最近、廃棄物入りコンテナが多量に滞留し問題となっている。環境基準に適合することを証明する書類に不備があり、通関できない状態なのだという。
ごみ貿易に関して、本来ならリサイクル可能な「きれいなごみ」がやり取りされるはずなのだが、ベトナムの事例に見るように異物が混ざり環境基準とリサイクルに適合しない「きたないごみ」が輸出されているのだ。マレーシアやインドネシアでも同様の問題が発覚している。
先進国によるごみの違法輸出と送り返す東南アジア諸国、外交問題に発展も
この問題に対し、東南アジア各国はごみが入ったコンテナを輸出国に送り返すという措置で対抗。
2019年1月、フィリピンは韓国にごみが入ったコンテナ51台を返還。交渉で韓国側に返送コストを負担させることにも成功した。フィリピンが主張したのは、国家間における有害廃棄物の移動を規制する「バーゼル条約」の条項だ。
1980年代、欧州諸国のごみがアフリカに捨てられ、環境汚染を引き起こしたことをきっかけに議論が始まり、1992年に発効した条約。途上国への有害ごみの移動を規制するもので、フィリピン、韓国、両国とも同条約の署名国である。
フィリピン・マニラの様子(2017年8月)
フィリピンはカナダに対してもアグレッシブな姿勢を見せている。2019年5月には、ごみが入ったコンテナ69台をカナダに返送。
この69台のコンテナは2013〜2014年にカナダから輸出されたもの。リサイクル用と記載されていたが、中身は家庭ごみ、おむつ、新聞などのリサイクルに適さない「きたないごみ」であることが判明。
フィリピン政府は、カナダ政府に対し、2019年5月15日までにコンテナを引き取るように求めていた。しかし、カナダがこの期日になってもコンテナを引き取らなかったため、フィリピン政府は強制的に送り返した格好だ。
ロイター通信によると、フィリピンでは2016年の裁判で、カナダから2,400トンものごみが違法に持ち込まれたとの宣言が発表されている。
この違法ごみ問題を巡って、フィリピン政府は2019年5月初めに在カナダ・フィリピン大使と領事に対し本国に帰国することを要請、両国間の外交関係が悪化したと伝えられている。
フィリピンに続きマレーシアも違法ごみコンテナを輸出国に返送。2019年4月には、スペインに5台のコンテナを返送している。CNNによると、マレーシア当局は3,000トンに上る有害廃棄物を輸出国に送り返す計画だという。
またガーディアン紙は、マレーシア政府がオーストラリアに対し100トンの「うじ虫だらけのペットボトル」を送り返すことも検討していると伝えている。直近では2019年11月に、マレーシアから英国に42台のコンテナが返還された。
AP通信によると、マレーシアのマハティール首相は2019年5月に日本を訪れた際、ごみ貿易問題に触れ「grossly unfair(非常に公正を欠いたもの)」と強い表現で批判を展開したとという。
マレーシア・クアラルンプールの埋め立て地(2019年6月)
卵に安全基準の70倍のダイオキシン、「世界のゴミ捨て場」になりつつあるインドネシアの現状
東南アジアのごみ問題に注目が集まるなか、2019年11月にはインドネシアにおけるごみ問題の悪化と食品汚染の現状を分析したレポート「Plastic Waste Poisons Indonesia’s Food Chain」が発表され、一層多くの関心が寄せられている。
同レポートによると、中国のごみ輸入禁止によって、インドネシアのプラスチックごみ輸入量は2018年に前年比2倍増となる32万トンに拡大。
インドネシアへのごみ輸出国トップ5は、オーストラリア、ドイツ、マーシャル諸島、オランダ、米国。インドネシアは国内のごみ処理ですでに手一杯になっているが、それに追い打ちをかけている状況という。
インドネシア中部ジャワのごみ埋め立て地(2019年12月)
インドネシアにプラスチックごみが持ち込まれる理由の1つは規制がないこと。世界銀行の調査によると、インドネシアでは廃棄物処理に関する法規制は実質存在しておらず、リサイクルのほとんどをインフォーマルセクターが負担しているという。フォーマルセクターによるリサイクルは、排出されるごみ全体の5%未満にとどまる。
ごみを適切に処理する法規制と施設が足りておらず、ごみの多くはインフォーマルな形で埋め立て処理されるか焼却処理されているのが現状となっている。
しかし、埋め立て処理場からごみが河川に流出、海に流れ出し海洋汚染につながっているほか、焼却処理によって発生した有毒ガスが地元の環境や食品を汚染するといった問題を引き起こしている。
同レポートがフォーカスしているのは、この環境・食品の汚染問題だ。東ジャワ州のTropodoという村で調査を行ったところ、卵から欧州の食品安全基準の70倍高い濃度のダイオキシンが検出されたという。
インドネシア、ごみによる食品汚染の図(「Plastic Waste Poisons Indonesia’s Food Chain」より)
その要因として疑われるのが東ジャワ州で操業する紙リサイクル業者に供給されている輸入廃棄紙だ。紙のみをリサイクルする場合、問題はないが、紙の中にプラスチックが混入するケースが増加し、リサイクル過程で有毒ガスが発生し、地元環境を汚染しているというのだ。
かつて廃棄紙に混入するプラスチックの量は2〜10%ほどだったのが、最近では60〜70%に増加。
同レポートは、プラスチック廃棄を隠すために、廃棄紙が使われている可能性を指摘。このような廃棄物を輸出している主な国として、オーストラリア、カナダ、アイルランド、イタリア、ニュージーランド、英国、米国を名指ししている。
インドネシアでは「世界のごみ捨て場にされている」との危機感が高まり、国内では輸入規制を強化する動きが強まっている。
1950年以来、世界中で生産されたプラスチックは90億トンに上るが、そのうちリサイクルされたのはほんの9%。ほとんどが埋め立てられるか河川や海に流出。海に流出するプラスチックの量は年間1,300万トン、海洋生態系を破壊し、その経済損失額は130億ドル(約1兆4,000億円)に達するといわれる。
このペースでいくと、現時点から2050年までに新たに260億トンものプラスチックが生産されるとの試算もある。
プラスチックに汚染されたディストピアな未来になるのか、それを食い止めることができるのか。リサイクル技術の向上、プラスチック過剰消費の抑制、プラスチック代替物質の開発などさまざまなアプローチが必要だ。
文:細谷元(Livit)