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世界では現在、相次いで大麻の合法化が進んでいる
「ダメ。ゼッタイ。」という言葉とともに、日本では大麻が厳しく規制されている。2019年も多くの有名人が大麻を使用したとして、多くのメディアが取り上げた。
だがその一方、現在では多くの国が大麻の合法化に踏み切っている。アメリカのハフィントン・ポストは、世界における合法的な大麻市場は急速に拡大しており、そのペースはスマートフォン市場が急成長した速度を上回っている、と述べた。
通常、大麻の利用法は(1)娯楽用(2)医療用(3)産業用に分類される。自分の楽しみのために大麻を利用するのが娯楽用、大麻を使うことで鎮痛や沈静、催眠などの効能を期待するのが医療用、そして、衣服や縄、食品などの用途で用いるのが産業用だ。
同じ「大麻」であっても、用途によって成分や栽培方法はまったく異なり、医療用と産業用については人道的、あるいは経済的な見地から、合法をよしとする向が強い。そのため、多くの国が「大麻を合法化する」といっても、医療用あるいは産業用に留まっている。
だが、近年では娯楽用大麻の合法化を検討したり、実際に踏み切ったりする国も現れ始めた。
その代表が、カナダである。2018年10月、カナダは娯楽目的の大麻使用を完全に合法化した。世界的には、ウルグアイに続く2カ国目であり、これにより、カナダの成人は連邦政府により認可された生産者から大麻を購入したり、実際に使用したりすることが可能になった。
多くの国が大麻合法化を検討している背景としては、いくつかのことが挙げられる。
まず、すでに取り締まることができないほど、大麻が社会に蔓延してしまったという実情がある。大麻を使用できる年齢や所持できる量などのルールを明確に規定したうえで合法化した方が、適切に管理できる。
また、ヤミ市場から日の当たる場所へ大麻を引きずり出せば、大麻取引から資金を得ていた犯罪組織は弱体化する。さらに、タバコや酒のように大麻に対して課税すれば、経済的に自治体が潤うだろう。
その他、「タバコやアルコールなどに比べて、大麻ははるかに無害なものである」ということが国際的に周知の事実となってきたことも見逃せない。大麻はタバコやアルコールに比べて依存性が低く、健康被害が少ないことが、近年の研究により、明らかになっているのだ。
こうしたことから、現在、多くの国や州が医療用・産業用のみならず、嗜好用大麻の合法化を検討している。
日本での大麻取り締まり事情
それでは、我が国における“大麻事情”はどうだろうか。
現在日本において、大麻の使用は「大麻取締法」によって厳しく制限されている。嗜好用大麻と医療用大麻は違法であり、唯一、産業用大麻はTHCが少ない「成熟した茎と種子」に限り、合法とされている。
そんななか、日本ではいま、医療用大麻の合法化を求める声が高まっている。
実際、大麻には鎮痛作用、沈静作用、催眠作用、食欲増進作用、抗癌作用、眼圧の緩和、嘔吐の抑制などがあるとされている。アメリカでは、小児期に発症する難治性のてんかんであるレノックス・ガストー症候群や、乳幼児期に発症する同じく難治性てんかんのドラベ症候群の治療に、大麻の成分から作られた薬品が用いられており、高い効果をあげている。
そのほか、HIV/AIDS患者の食欲不振等の治療や、がん化学療法による吐き気や嘔吐の治療、神経の痛み(神経障害性疼痛)の治療等にも、医療用大麻は活躍中だ。
このように、大麻が医療の分野で大きな効果を発揮することは、多くの科学者がエビデンスを確立しているが、日本の製薬会社や研究者たちが医療用大麻の効能を研究し、製薬につなげようと思っても、日本では大麻栽培や研究には都道府県知事の許可が必要であり、しかも、現在その許可はほとんどのケースでおりていない。
つまり、医療用大麻の可能性を探ろうと思っても、日本にはそのチャンスがほとんど残されていないのである。
アメリカでは、すでに12の州とワシントンDCが嗜好用大麻を合法化しており、医療用大麻についてはアイダホ州やネブラスカ州など、ごく少数を除いてほとんどが合法としている。
アメリカがなぜ、これだけ“大麻先進国”となりえたのかといえば、医療用大麻の合法化を求める運動において、違法とされる大麻草を自分の治療に使い、何度も何度も逮捕投獄されながらも、実体験によってその効果を確認し、世間の支持を集めた情熱的な研究家や医師らがいたからだ。
しかし、日本ではこうした実例はほとんど皆無である。なぜなら先述したように、大麻の医療効果について研究を行うにも栽培の許可がほとんどおりないのだ。
日本が医療用大麻を合法化する必要条件
しかし、日本が医療用大麻を合法化する可能性はおおいにある、と見る専門家も多い。
日本が医療用大麻を合法化するための条件は、「WHOが定める大麻草のスケジュール(取り締まり基準)が見直されること」それから、「アメリカ連邦法のスケジュールが見直されること」だ。日本の厚労省が定める法律はWHOのものに準拠しているうえ、日本は常にアメリカに追随する立場を固辞しているからだ。
そして現在、この条件が実現する可能性は高い。2019年1月、WHO事務局長のAntonio Guterresは、国連事務総長宛ての手紙のなかで、国際薬物条約内で提案されているスケジュール変更について国連に通知した。その勧告を受け、2020年3月には国連麻薬委員会(CDN)で53か国による投票採決が行われる予定だ。
もしここで大麻に関する統制の基準が見直されれば、日本はそれに従うことになる。そうすれば、いずれ日本でも医療用大麻が合法化される可能性が高まるだろう。
そして、医療用大麻が日本でも合法化されれば、多くの“大麻先進国”がそうであったように、次は嗜好用大麻の合法化に焦点が当たる。そこまで進むかどうかは定かではないが、いずれにしても日本でも大麻解禁に向けて社会の目が大きく集まることは間違いない。
大麻テック、大麻産業……。大麻解禁がもたらす効果とは
それでは、日本で大麻が合法化されれば、一体どのように社会は変革するのだろうか。
アメリカの事例をあげてみると、まず、大幅な税収アップがあげられる。タバコやアルコールのように課税をして、自治体の税収に加えるためで、増えた税収は多くの場合、公共学校の設備改善やインフラ整備などに使われる。
また、アングラの世界で取引されていた大麻をおおやけの場所へ引き出したことで、大麻関連の逮捕件数は大幅に減少するケースも多く、さらに、大麻が解禁されれば大麻栽培や収穫、調剤、流通、販売などに関わる雇用が一気に増える。
そのため、当初は「大麻を解禁したら治安が悪化するのでは」と大麻解禁に懐疑的だった人たちも、治安の改善や税収増、さらにインフラの整備や雇用の増加などの現状を目の当たりにし、緩やかに大麻賛成に変化していくことが多いという。
もう一点、注目したいのが「大麻テック」といわれる業界の動きだ。大麻に関する世界の動きは、現在、テクノロジーの業界にも変化をもたらしている。
たとえば、ラスベガスで毎年開催される世界最大規模の家電見本市では、2018年、Vapium Medicalがスマートホーム部門に出展した。同社は、ベイプと呼ばれる加熱式の吸引ガジェットを開発するスタートアップだ。
同社が出展したベイプは、吸引量を測ったり、アプリで回復状況をトラッキングすることができるスマートデバイス仕様であり、家電業界の檜舞台ともおいえるこの見本市に、大麻の関連品が堂々と登場したことは、まさに、世界が大麻を受け入れる方向へ舵を切ったことの象徴だろう。
アメリカを筆頭に大麻消費の一般化がさらに進めば、今後もこうした“大麻テック”の進化が加速する。それに伴い、世界の投資家たちはそうした大麻テック事業に関心を寄せるのは間違いない。
世界のメインストリームが大麻合法化に向かっているとはいえ、決して間違ってはならないのは、安易に大麻合法化を求めるべきではないということだ。アメリカをはじめ、カナダやイスラエルなど世界各国で大麻ビジネスが本格化している現在、その波は日本にも早晩やってくる。
それは、いうなれば江戸末期、黒船が日本へやってきたときの状況に例えられる。異国に対して無知でいつづければ、たちまち日本には玉石混合の大麻ビジネスが沸き起こり、社会は混乱の渦に巻き込まれる。手放しに大麻を受け入れる姿勢には反対だが、かといって、闇雲に大麻を拒絶し、理解を拒む動きにも疑問が残る。
日本で医療用大麻が解禁されるとしたら、それは少なくともあと数年後のことだろう。いまのうちに正しい知識を身につけ、いつ大麻がやってきても良いように準備をしておくことが、日本の正しいあり方なのかもしれない。
文:鈴木博子