経済の複雑性ランキングNo.1の常連・日本

人口増やデジタルテクノロジーの普及によって人間の経済活動の規模とスピードは急速に高まっている。これにともない「経済の複雑性」もかつて無いほどに増大している。

どの国がどのような製品・サービスをつくり、どこに輸出しているのか。複雑性が高いため、タイムリーにこの状況を詳細に把握することはほとんど不可能となっている。

ハーバード大学グロースラボが作成している「経済の複雑性・世界ランキング」は、この複雑性を理解し、世界各国の経済状況を俯瞰する上で役立つかもしれない。

同ランキングは、世界各国の輸出データをまとめ、産業ごとの複雑性を評価し、総合複雑性を順位付けしたもの。複雑性が高いほど高付加価値産業を有し、産業の多様化が進んでいることを示している。

このほど2017年の輸出データをまとめた最新版が発表されたばかりだ。

どの国の経済がもっとも複雑なのか。

1位だったのは日本。複雑性指数は2.28だった。2〜10位は、2位スイス、3位韓国、4位ドイツ、5位シンガポール、6位チェコ、7位オーストリア、8位フィンランド、9位スウェーデン、10位ハンガリーという結果になった。

実は同ランキングが開始されたのは1990年代半ばで、それ以来毎年順位が公表されているが、日本は毎回1位にランクイン。最新版でも堂々の1位という結果になったのだ。

同ランキングから見える日本の強みは複雑性が高い産業を多数有していること。下のグラフは、産業分野ごとの複雑性を色で分けたもの。濃い緑になるほど複雑性が高いことを示しているが、ほとんどが緑色となっている。


日本、輸出の複雑性(2017年)

さまざまな分野で高付加価値の製品・サービスを輸出できていることを示しているが、これは同時に貿易戦争関連のリスクを下げたり、特定市場の低迷による影響を他の分野でカバーできる能力の高さを示す指標としても見ることができる。

この日本の特徴は、他の国と比較するとより鮮明になる。

たとえばオーストリア。同国の輸出は天然資源に大きく依存しているだけでなく、貿易相手国に関しても3分の1を中国に依存しており、産業と貿易相手国の両面においてリスクヘッジができていないことが如実に示されている。

複雑性指数は−0.60とランキング対象となった世界133カ国中93位という結果。オーストラリアは複雑性指数においては、ウガンダ(−0.55)やセネガル(−0.56)と同等とみなされている。


オーストラリア、輸出の複雑性(2017年)

オーストラリアの中央銀行RBAが2019年6月に公表した分析レポートは、同国経済の中国依存は非常に高く、中国経済の減速はオーストラリア経済にも多大な影響を与えると指摘。中国GDPが5%下がった場合、オーストラリアGDPは2.5%縮小する可能性があるという。


オーストラリアの輸出先(2017年)

中国経済、過去20年の大変化

中国経済の複雑性も気になるところだ。

中国経済の複雑性指数は1.30で、ランキングでは17位のアイルランド、18位のイスラエルに次ぐ19位だ。


中国、輸出の複雑性(2017年)

かつて「世界の工場」と呼ばれ、繊維製品を大量に輸出していた中国。1997年のデータを見ると、繊維が全輸出の25%を占め、最大の輸出分野であったことが分かる。


中国の輸出構造(1997年)

一方、2017年には輸出トップは電子機器に取って代わられ、繊維は15%に縮小。複雑性グラフでも緑の部分が半分以上を占めており、この20年で経済構造が大きく変化したことが見て取れる。


中国の輸出構造(2017年)

中国の輸出先に関してもこの20年間で多様化が進んでいる。

1997年中国の最大の輸出先は香港で、その比率は28.31%だった。次いで米国22.52%、日本13.43%と、トップ3が全輸出の3分の2を占める状況だった。


中国の輸出先(1997年)

一方2017年には香港の比率が11.85%に、米国が18.75%、日本が5.79%に縮小。同時に他の国の比率が増加し、輸出先の多様化が進んだことが示されている。


中国の輸出先(2017年)

ルワンダとエストニアの経済構造

ハーバード大グロースラボのデータは、近年急速な変化を遂げる国々の変化を可視化したいときにも大いに役立つ。

たとえばアフリカのテックハブとして存在感を高めるルワンダ。1994年の大虐殺の悲劇を乗り越え急速に発展している。その経済構造はコーヒーに80%以上を依存する脆弱なものであったが、現在コーヒーの輸出は3%まで下がり、代わりに観光とICTが同国貿易の柱となっている。


ルワンダの輸出構造(1997年)


ルワンダの輸出構造(2017年)

マウンテンゴリラツアーやラグジュアリーロッジなどで人気を集めるルワンダ観光。輸出に占める割合は28.27%で最大。ICTも22.13%とかなり高い値になっている。


2010年頃から観光・ICTを含むサービス輸出(紫部分)が急速に拡大するルワンダ

電子国家として知られるエストニアの経済もこの20年で大きく変化している。1996年同国の輸出で最大だったのは観光(12.94%)。ICTは6.11%にとどまるものだった。

しかし現在は逆転し、ICTが13.55%で最大となり、観光は7.29%に下がった。エストニアの複雑性指数は1.03、ランキングでは25位のタイ、26位のオランダに次ぐ27位となっている。


エストニア、輸出の複雑性(2017年)

複雑性が低いことは必ずしも悪いとは言えないが、天然資源に依存しすぎている場合、資源価格の乱高下や資源需要の低迷によって大きな影響を受けることになる。ベネズエラやアフリカ諸国の多くが該当する状況だ。

一方、中東諸国の多くは脱石油依存を掲げ、テクノロジーを取り入れ経済構造を変化させる取り組みを促進しており、今後中東諸国では複雑性が高まることが見込まれる。各国経済のダイナミズムを捉える複雑性という視点、この先さらに重要性が高まりそうだ。

文:細谷元(Livit