IPO、米国の警戒…中国アプリ「TikTok」の2020年を占う7つのトレンド

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ショートビデオアプリ「TikTok」(中国名:抖音)を運営するバイトダンス(ByteDance、字節跳動)は6日に公表した「2019年抖音データレポート」で、TikTokの中国バージョン「抖音」の日間アクティブユーザー(DAU)が1年前から1億5,000万人増え、4億人に達したと明らかにした。

グローバルでも勢いが止まらないバイトダンスは2020年中のIPOが有力視される一方、米国との関係がリスクとして徐々に浮上している。レポートや2019年の報道から、TikTokとバイトダンスの2020年を予測する上で参考になりそうな7つのトピックを紹介する。

日間アクティブユーザー、1年で1億5,000万人増加

抖音は2016年にリリースされたショートビデオアプリで、15秒から1分の動画を簡単に編集して投稿できる。レポートによると抖音のDAUは4億人。2019年は成長の鈍化が指摘されることもあったが、積極的な海外進出でユーザーは増え続けている。

バイトダンスは、他にも「西瓜視頻」(3分)「火山小視頻」(15秒)を加えた3つのショートビデオアプリを運営している。グローバルではTikTokが突出して有名だが、他の2つのアプリも月間アクティブユーザーは1億人を超える。

中国人ユーザーは複数のショートビデオアプリ併用

中国でショートビデオアプリは参入者が多い激戦市場となっている。抖音のリリース前は、美顔アプリ「美図」が2014年にローンチした「美拍(Meipai)」がトップシェアだったが、2年遅れの抖音が瞬く間に抜き去った。

TikTokのライバルと言われるのは「快手」(海外版は「kwai」)で、2019年6月のDAUは2億人。同社は2020年春節前にDAUを3億人に増やす目標を立てており、TikTokに負けじと海外進出を急いでいる。

両社が激しく競り合う一方、抖音と快手の両方を使っているユーザーは1億6,000万人いると言われる。市場にはテンセント(騰訊)やバイドゥ(百度)などIT大手も参入しており、ショートアプリユーザーの多くが、複数のアプリを併用している。

海外展開の重点は米国、日本、インド

2019年9月の報道によると、バイトダンスはTikTokのグローバル戦略を見直し、重点国を「米国、日本、英国、インド」からの「米国、日本、インド」に変更した。

TikTokはユーザーから得られる平均収入によって国をランク分けしており、調整前はSランクが米国、日本、英国。Aランクがインド、韓国、欧州、ドイツ、フランス。Bランクが中東、東欧、南米だった。

インドは売り上げが少ないものの成長が速く、2019年はDAUが5,000万近く増えたことからランクをSに上げた。この時にブラジルもBランクからAランクに変更している。

ちなみにインドと南米はライバルの快手も進出し、激しい競争が繰り広げられている。特に南米では快手の勢いが強くTikTokは劣勢であることが、ブラジルのランク引き上げの理由とみられる。

海外撮影都市ランキング、日本が3、4位占める

レポートによると、動画の撮影が行われた海外都市ランキングで首位はバンコク、2位がソウルだった。3位は東京、4位に大阪、5位にシンガポールが入った。

中国人の人気旅行先が上位を占めており、東京オリンピックの前後には日本からの発信がさらに増えると期待される。

公共に尽くす人に「いいね!」

2019年に「いいね」が多くついた動画を職業別に分類すると、トップ5は教師、看護師、消防士、交通警察、医師だった。人を助けたり、公共に尽くす人々の姿が共感を呼び、拡散される傾向が読み取れる。

TikTokは日本ではダンス・音楽アプリという印象が強いが、中国ではより広い使われ方をされており、「ミニ学習コンテンツ」も数多くある。2019年は「料理」「語学」「学校の教科」を学べるコンテンツが人気の上位に入った。

バイトダンスは2020年にIPOの公算

TikTokを運営するバイトダンスは1983年生まれの張一鳴(Zhang Yiming)氏が2012年に創業した。

同社は人工知能(AI)を使ったニュース・プラットフォーム「頭条」が大ヒット。頭条もTikTokもAIを駆使したリコメンド機能でユーザーの滞在時間を増やしたことが成功の要因になった。

2018年6月時点の評価額は2,000億元(約3兆2,000億円)だったが、短期間に大型の資金調達を連発し、同年10月には評価額約750億ドル(約8兆円)を突破。世界最大のユニコーンとなり、世界的に注目されるようになった。

同社は2019年から度々IPOの噂が流れ、2020年のIPOが有力視されている。

バイトダンスはTikTokのヒット前は、ニュースアプリ「頭条」の運営会社として知られていた。

TikTokを分社し海外に本社移転か

英フィナンシャル・タイムズは2019年10月に、バイトダンスが2020年3月にも香港でIPOすると報じたが、バイトダンスは「具体的なスケジュールは決まっていない」と否定した。中国のメディアからは「バイトダンスのIPOは2020年後半になるのでは」と見られている。

その理由は、バイトダンスがIPOより海外展開を優先していることと、米中貿易摩擦の影響だ。米国の規制当局や議会は、TikTokが国家安全保障を脅かすことを懸念しており、2019年12月には米海軍がサイバーセキュリティ上の懸念を理由に、政府支給のスマートフォンで中国製アプリ「TikTok」を使用することを禁じたと報じられた。

2019年4月にインド政府がTikTokの締め出しに動いたときも、米国の圧力が背後にあるとささやかれた。

CFOが拘束され、トランプ政権から敵視されるファーウェイ(華為技術)の二の舞になるのを回避するため、バイトダンスはTikTokを分社して、シンガポールなど国外に本社を置いて「中国色」を弱めることを検討しているとも伝えられた。

2020年の世界は米国とイランの対立で幕を開けた。国際情勢が緊迫する中、TikTokもまた、米国との関係が試練となる1年になるかもしれない。

文:浦上早苗

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