カーボンニュートラルへ動き出した世界の高等教育機関。しかし、日本の参画団体はゼロ

世界中で何百万人もの学生が参加し、拡大の一途をたどる環境問題に対するスクール・ストライキ。若い世代の環境問題意識と危機感の大きさを示す事象といえる。

そして学生たちの意識変化を受け、教育機関も変化を迫られているようだ。世界中1万6000以上に上る大学・高等教育機関を含むネットワークが気候変動緊急事態を宣言し、2050年までにカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出と吸収を同量にすること)を目指す合意に署名している。

今回は抗議する学生たちの意識に触れつつ、大学・高等教育機関がどのような変化を遂げようとしているのか、ケンブリッジ大学の事例を交え、その傾向をお伝えする。

「地球がなければ学校もない」スクール・ストライキ、その発端と経緯

2018年8月、当時15歳の気候活動家グレタ・テューンベリ氏がスウェーデン国会の外で1人でストライキを始め、政府に気候変動への真剣な対処を要求して以来、環境改革を推進するためにストライキする学生の動きが加速している。

「スクール・ストライキ」「気候ための若者のストライキ」「未来の為の金曜日(Fridays for Future :FFF)」などとも呼ばれるこの活動は、授業を休んでデモをする学生の活動のことを指す。参加する学生の要求は、さらなる地球温暖化と気候変動を防ぐための、教育機関や政府団体の具体的な行動だ。


Global Climate Strikeウェブサイト

グレタ氏の有名な発言として、「英国首相はストライキをやっている学生は授業時間をムダにしていると発言している。それはそうかも知れない。しかし政治家は必要な行動を取らずに30年をムダにしてきたのではないか。そしてその方がもっと悪いのではないか」がある。

その他、多くの学生が「地球がなければ学校もない」「私たちの未来を溶かさないで」「気候変動を阻止するにあたって私は政治家よりもサンタを信じる」「気候変動は危機として扱われなければならない。気候変動は最も重要な選挙問題だ」など皮肉を交えたメッセージが込もったプラカードを持ってデモとして行進した。


今年9月にサンフランシスコで行われたデモの様子

2019年3月15日のグローバル・ストライキでは、世界中125か国で約2200回のデモが行われた。総勢100万人以上の抗議者が参加したことになる。2019年5月24日には2回目のグローバル・ストライキが行われ、150か国で1600件のイベントが数十万人の人々を集めた。

これらの活動を受けて、国連環境計画の2019年7月の発表では、2050年までにカーボンニュートラルを目指す合意が結ばれ、56機関・27ネットワーク団体によって署名された。その数は現在も増え続けており、2019年12月時点では247機関・57ネットワークに拡大した。この署名によって、各大学・教育機関は、早ければ2030年、遅くとも2050年までにカーボンニュートラルを達成することが求められる。

カーボンニュートラル実現に向けて:ケンブリッジ大学の例

では、署名した世界の大学は、どのようにしてカーボンニュートラルを実現するのだろうか。ここでは、2015年にパリ協定で定められた平均気温上昇「1.5度未満」を目指す目標を世界で初めて大学機関として発表した、ケンブリッジ大学の取り組みを紹介する。

ケンブリッジ大学は2019年11月、「Cambridge Zero」と呼ばれる独自のイニシアティブを発行した。同大学の目標は2038年までに大学をカーボンニュートラルにすることである。これは、科学を基盤する現実的な世界目標である2048年より10年早い見通しだ。


ケンブリッジ大学のホームページより

地元の新聞社Cambridge Independenceによると、同大学は現在、所有または管理された根源からの直接排出されるスコープ1の排出と、購入エネルギーの生成からの間接的な排出に当たるスコープ2の排出の削減に焦点を当てている。

コミットメントの大元は、教育と研究活動を直接行う建物と建造物を意味し、そこからの排出削減が重要課題だ。それと同時に、同大学は今後3年間で、より広範な建物と活動のための科学ベースの目標を開発してすでに以下のような作業を開始している。

●空間と温水に使用するガスの量を大幅に削減する選択肢の検討
●大学構内で太陽光ファームを開発する可能性の検討
●二酸化炭素の排出をしないで電力源を確保する方法の模索
●建物全体でのエネルギー効率改善の実施

同大学はまた、職員と学生が実施できるような、エネルギー使用と二酸化炭素排出に関するより良いデータを学部に提供する方法を模索している。

さらに、スコープ3にあたるサプライチェーンや出張などからの間接的な炭素排出量を削減するための目標とイニシアチブの開発にも取り組んでいる。これらの政策のモデルは、 国連世界協定、WWFなどによって作成されているイニシアティブであるScience Based Targetsの指針に基づいている。

同大学のカーボンニュートラル研究ダイレクターであるEmily Shuckburghは、「コミットメントを達成することは難しいことに違いないが、これは私たちが達成する義務がある挑戦である。他の大学や教育機関が、同様のコミットメントを採用することを勧める」と語っている。

カーボンニュートラルを目指す合意 参加団体の状況

2019年12月時点で、約460万‬の学生数を率いる約247の高等教育機関および高等教育機関と、8つの学生組合、57のネットワーク団体が合意に署名している。


署名した団体はSDG合意のウェブサイトで、順次リストにアップデートされていく

現247の団体の中にはイギリス、フランス、アメリカなどの先進国だけでなく、アフガニスタン、チリ、ケニアなど世界各国の教育期間や団体がリストに挙がっている。また、隣国中国や台湾からの団体も見られる。日本からの団体は現状0だ。

持続的開発の記事を発信するウェブメディア「Eco-Business」でも、同意が発行された7月当初、気候緊急書簡に署名した56団体の内、アジアからは中国のTongji大学、インドのTERI School of Advanced Studies、インドネシアのUNTAG大学の3つの機関のみだけだったことを指摘し、「機関のリストに欠けているのは、アジアのトップ大学だ」とタイトルで指摘している。

SDG Accordのウェブサイトでは、署名する教育機関、団体、ネットワークを随時募集していることが記載されている。基本的には各機関の会長または代表が、機関を代表しウェブサイトからコミットメントにサインする。ただし該当機関が以前の合意ですでにコミットしている場合、機関の教員またはスタッフがサインすることも可能だ。

国連の世界開発目標であるSDG 4(教育)と13(気候変動)の達成に向けたコミットメントを示すためにも、SDG Accordのウェブサイトでは、できるだけ多くのネットワークと機関を参加させることを急務としている。発行から5カ月、日本の大学や研究機関の名前はまだ見当たらない。

スクール・ストライキから始まった若い年代の気候変動阻止への希求。これは21世紀をこれから生きていく彼らの権利主張ともいえる。そして学生という大きな利害関係者を抱える高等教育機関は、それに応じ動かざるを得ない状態ともいえる。

逆を言えば、この多くの利害関係者の声に耳を傾け、真摯に改善に移行する大学・高等教育機関だけが、21世紀に生き残り、存在感を表していくことも考えられるだろう。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit

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