物流クライシスを消滅させる。名古屋大学発の精鋭集団OPTIMINDが起こす日本の配送改革

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日本でもようやくECが普及し、幅広い世代がオンラインショッピングを楽しむ時代になった。

しかし、利便性が向上した裏側で、問題が急増しているのが配送業界だ。もとより人材不足が進んでいたなかで配送量が急激に増加し、深刻なリソース不足に直面している。

そういった問題を解決し、日本の配送業界を変革するべく奮闘する、名古屋大学発のスタートアップOPTIMIND。AIで配送ルートを最適化し、配送の無駄を排除するシステム「Loogia(ルージア)」を提供している。

日本郵便をはじめ、大手配送業者に導入され、満足度も高いようだ。10月には、トヨタ自動車をリードインベスターに、総額約10億円の資金調達を実施した。

代表取締役社長を務める松下健氏は、もとは名古屋大学で組合せ最適化アルゴリズムを専攻する研究者で、「世界トップクラスの組合せ最適化アルゴリズムを保有している」と自負する。

なぜ、彼らは配送業界に着目したのか。未経験の領域にも関わらず、なぜ急成長できているのか。代表取締役社長 松下 健氏(以下敬称略)、取締役CTO 高田 陽介氏(以下、敬称略)にその秘密について語っていただいた。

優れた技術があるのに、実社会で活用されないのはもったいない

──OPTIMINDは、どのようなきっかけで立ち上がったのでしょうか。

松下:組合せ最適化の研究を重ねていくなかで、そこにとてつもない可能性を感じていました。ただ、実社会では組合せ最適化がそれほど活用されていなかった。そこから、学術と社会の橋渡しをすべく、OPTIMINDを設立しました。

高田:私も元々は組合せ最適化の研究者として、松下と同じ研究室に所属していて。松下の考えに共感して参画を決めました。

──現在、どのようなバックグラウンドを持つメンバーが集まっているのでしょうか。

松下:みんなバラバラで、組合せ最適化や統計解析などを研究してきた人もいれば、宇宙や素粒子、都市計画の研究に従事した人もいます。もちろん研究者だけでなく、Webエンジニアやインフラエンジニアも所属しています。それぞれの専門性を持ち寄り、より良いサービスにするためのディスカッションが日々絶えない環境です。

みんな異なるバックグラウンを持ってはいますが、共通しているのは、全員テクノロジーが大好きだというところですね。

──コーポレートサイトにも書かれている、「世界トップクラスの技術力」とは具体的にはどのようなレベルのものなのでしょうか。

高田:松下と私は、名古屋大学の柳浦研究室に在籍しています。柳浦研究室では、実用性の高い「組合せ最適化アルゴリズム」(※多数の選択肢から、ベストな組み合わせを算出するアルゴリズム)研究の分野に強みを持っていて、国際学会での発表や論文投稿などを行っています。

私自身、新たなアルゴリズムを提案し、国際論文に出ている既存の研究結果を上回る結果を出しました。

他にも、弊社には博士課程で国際論文誌への投稿をしているような研究者が所属しており、世界トップクラスの技術力と言っても過言ではないと自負しています。

──なぜ、組合せ最適化技術を、配送ルートの最適化に活かそうと考えたのでしょうか。

松下:OPTIMIND設立後は、業種・業界を問わず、様々な企業へのヒアリングを行い、どこがマッチしそうか検討していました。その中で、最も属人的な作業が残っていたのが物流業界だったんです。
タイミング的に、物流クライシス(EC普及により、配送業の業務過多や人材不足などの問題が多発している状態)が深刻化し、業界自体が大きく変わらなければいけない時期に差し掛かっていました。

そこで、配送計画の研究を進めていた高田を誘い、配送業界に切り込もうと決めたんです。

──最適化アルゴリズムを使って、具体的にはどのように配送業界の問題を解決していくのでしょうか。

松下:私たちの主力サービス「Loogia」は、配送ドライバーの業務を効率化するサービスです。ドライバーの方は毎日の配送業務にあたり、移動にかかる時間や道路の走りやすさ、配送先の時間指定、駐車場の入場位置など複数の条件を考慮しながら効率的に配送できるルートを考えなければいけません。

かなり複雑な計算が要求される作業で、ただでさえ忙しいドライバーの皆さんの時間を奪ってしまっている。Loogiaは、それら条件を取り込み、組合せ最適化アルゴリズムを用いて自動的に最適なルートを提示、ドライバーの業務効率化を実現しています。

現場ファーストな、OPTIMIND流カスタマーサクセス

──実際に配送を担当するドライバーの方々は、必ずしもテクノロジーに明るくないと思います。彼らにツールを使いこなしてもらえるためのポイントはどこにあるのでしょうか。

松下:徹底的にドライバーに寄り添い、彼らの意見を吸い上げて製品に反映していくことですね。ただ、まだまだ発展途上で、私達も試行錯誤しながら進めているところです。

まだサービスが発展途上にあるなかで、現在ご利用頂いているお客様はとても大事な存在です。今のサービスに対してどう感じているのか、解決できていない課題は何なのか、不満に思うポイントはどこなのかなどを詳しくヒアリングし、製品に反映していく。ここ最近でようやく改善サイクルがうまく回り始めたと思っています。

ドライバーの方のお話を聞いていると、「画面がわかりづらくて使いにくい」というような意見をもらうことがあります。でも、よくよく話を聞いてみると実は入力の手間が面倒だったり、提案するルートが良いものではないため単に使いたくなかったりと、基本的な性能が原因だったことも多々あります。あるいは、以前に同様のツールを導入したときの印象が残っているのかもしれません。表層的な意見に惑わされず、お客様の真意に辿り着くことを日々意識しています。

──ドライバーの方々に直接お話を聞きに行かれているんですね。

松下:そうです。やはり、アンケートだけでは温度感や真意が見えない場合が多い。なので、クライアントへ直接訪問して、できるかぎり直接ヒアリングしています。
サービスの定着度合いにもよりますが、各社1週間〜1カ月に1度くらい訪問していますね。

──日本郵便など大手の導入実績を持たれていますが、新規獲得に向けてどのようなマーケティング、セールスをおこなっているのでしょうか。

松下:大手企業の新規獲得のマーケ施策としては、ピッチコンテストへの参加やメディア露出などが挙げられます。

日本郵便様のPOST LOGITECH INNOVATION PROGRAMでの最優秀賞がきっかけとなり、現在計22の郵便局の一部地域でゆうパックの配達業務にLoogiaを試行導入いただいています。

セールスサイドとしては、主に株主やその関連会社から取引企業をご紹介いただくことが多いですね。

今後は、導入事例やホワイトペーパーをサービスサイト内に設置したり、大小展示会への出展を計画していたりと、オンライン・オフライン双方でリードを獲得していきたいと考えています。

また、これまではSaaSを中心に事業を展開していましたが、コア機能をAPIとして切り出し、PaaS事業の立上げを計画しているところで、特に大手企業への展開を狙っています。

マイクロソフトとのシナジーで、より成長が加速

──日本郵便のイベント以外にも、これまで参加したピッチコンテストの中で出て良かったと感じるものはありますか。

高田:たくさんありますが、特に良かったなと思うのは昨年行われた、ICCサミット KYOTO 2018「スタートアップ・カタパルト」ですね。グランプリの商品としてマイクロソフトの商品を頂けて嬉しかったし、マイクロソフトの社員さんと直接お話しする機会も得られました。その時に、マイクロソフトが推進するスタートアップ支援プログラムの存在を教えていただいて、参画することにしたんです。

松下:スタートアップの支援プログラム自体にあまり馴染みがなかったため、「なんて良い制度があるんだ!」とすごく驚いたことを覚えています。Microsoft Azureの無料枠をいただけたことは純粋に助かりますし、嬉しかったですね。

高田:ビッグデータ解析には大量のコンピュートリソースが必要です。利益が出るかどうかわからない検証に対して、気兼ねなくリソースを使えるという点は非常に助かっており、試行錯誤のスピードは確実に上がっています。

松下:Microsoft Azureの無料枠だけでなく、エンジニアをアサインしていただき、技術的なフォローをしていただけるのも助かっています。技術に強い人材が揃っていると言ってもまだまだ人手不足ですし、Azureを使いこなすという面ではやはり中の人には敵わないので。

──Microsoft Azureを使って、具体的にどのような変化が起こったのでしょうか。

高田:以前は車両の走行データから地図情報をアップデートするための解析に自前のシステムを動かしていたのですが、現在はMicrosoft AzureのAzure Databricksを利用しています。細々とした作業はすべてAzure Databricksが管理してくれているため、解析にあてる時間が明らかに増えましたね。

あとはやはり、ヒト・モノ・カネの問題が一気に解決できました。ビッグデータ解析が可能なインフラを整備しようとすると、サーバーやネットワーク機器の購入費用や、環境構築や維持管理に必要な人材など、かなりのコストとリソースを費やさなければいけません。でもMicrosoft Azureさえ使えれば、すべて解決する。人材は足りてないけどスピーディに開発を進めなければいけないスタートアップにとっては、本当にありがたい存在です。

「ルート最適化」に意識が向かない世界を目指す

──海外展開も視野に入れていると拝見しました。海外に進出するうえで、解決しなければいけない課題はなんでしょうか。

高田:現時点で最もネックだと感じているのが、現地の道路事情や配送業界事情の考慮です。
現在のLoogiaでは、道路が狭い場所では路上駐車した後に逆向きに出発しないようなルートを出したり、交通量が多い道路で右折入場しないようなルートを出したりしています。

しかし国によっては、道路が広いため出発向きの考慮がいらないような場合もあるかもしれません。中には、無理やり右折入場できるから、最短の経路を出してほしいと言われる地域があるかもしれません。さらに現在考えが及ばないような別の要望があるかもしれません。そのような、細かい問題を1つ1つ解決できるようにアルゴリズムを改良していく必要があります。

あとはマーケティングも難しいですね。当然、英語でAPIのドキュメントを公開しただけでは利用者が増えることはないでしょう。海外流のビジネスの進め方なども試行錯誤を進める必要があると思います。

──最後に、OPTIMINDが描く理想の世界を教えて下さい。

松下:「ルート最適化」という言葉がなくなる世界を目指したいですね。

ルート最適化が生活に組み込まれており、わざわざ「一番良いルートはどこかな」と考える必要が一切なくなる世界です。そうなると、自由に使える時間を増やせますよね。ルートを考えるのは圧倒的に機械の方が得意です。

ルート最適化は機械に丸投げして、人間は好きなことにより時間を使える。そんな世界を実現するために、サービスを成長させていきたいですね。

※この記事は日本マイクロソフトからの寄稿記事です

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