“男性の育児休業”が当たり前の未来を。内閣府と企業が共創するコンソーシアムで語られる現状と展望

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女性82.2%、男性6.16%。

男女に大きな開きがあるこの数字は、2018年度の育児休業の取得率だ。(※出典:平成30年度雇用均等基本調査(速報))

育児休業を取得する男性はまだまだ少数派と言えるが、急速な少子高齢化が進む日本では、母親だけでなく、父親や家族、職場を含む社会全体で子育てを支えていくことの大切さが見直され始めている。

この6.16%は、まだまだ低い水準ではあるが、1.89%だった2012年度以降、男性の育児休業取得率はじわじわと上昇を続けている。

政府が目指すのは、男性が育児休業を取得するのが当たり前な社会の実現だ。

企業、団体、政府のコンソーシアム

男性が育児休業を取得する前段として政府が進めているのは、配偶者が出産してから2カ月以内に半日、または1日以上の何らかの休みを取得する「さんきゅうパパプロジェクト」だ。さらに、国が率先して休みやすい風土をつくるため、男性公務員の育児休業取得を促す施策の検討も進んでいる。

内閣府が進める取り組みの一つに「子育て応援コンソーシアム」がある。

さまざまな団体・企業が参加して、2018年7月にコンソーシアムを設立。これまでに公共交通機関、農林水産業など各分野における子育て支援の取り組みについて情報や意見の交換を重ねてきた。

中小企業でも可能な取り組みとは

「いい育児の日」にあたる2019年11月12日、「子育て応援コンソーシアム」の5回目の会合が東京都内で開かれた。

育児休業取得を促すうえで、難しい課題を抱えているのが中小企業だ。大企業と比べて、従業員が少ない企業では社員1人が長い休みに入ると、サポート体制を構築しにくい課題がある。

こうした課題を乗り越えるため、この日は、中小企業や創業から間もない企業による、男性の育児休業を推進する先進的な取り組みが紹介された。

内閣府の渡邉清・官房総括審議官は会合の冒頭で、「子育てに優しい社会の実現のためには、地域や家庭における子育ての担い手を増やしていく、いわゆるワンオペ育児を解消することが不可欠ですが、本日の発表は、従業員数の少ない企業であっても可能な育児休暇取得の取り組み、先進的な取り組みが含まれています」と述べた。

上司含む三者面談で育休促す

愛知県刈谷市のケーブルテレビ局キャッチネットワークは、男性社員の育児休業取得を100%にすることを含め、6年ほど前から社内の働き方改革に取り組んできた。

同社は正社員135人、契約社員58人(2019年4月現在)。男性社員の育児休業取得が100%に達している。

「男性の社員は、育休を取れない理由や取らない理由をよく口にします。休職すると給料が減ってしまうとか、自分の仕事が止まってしまうとか。そもそも育児で会社を休むなんて、と罪悪感を感じている人もいます。上司も部下に育休を取ってほしくないと思っていた面もあります」

コンソーシアムで取り組みを発表した松永光司社長は、同社で過去に育児休業の取得が広がらなかった要因のひとつに、男性社員の意識があると指摘した。こうした男性社員に対して育児休業の促進を図るため、キャッチネットワークは三者面談に力を入れている。

参加するのは、育児休業取得の対象者とその上司、総務課長。面談では、仕事を休んでいる間の業務のカバー態勢をどう構築するか、収入がどう変動するかなどを丁寧に話し合う。

休業中の収入減に対して同社は、失効した有給休暇を最大20日間積み立てておき、育児や介護で必要なときに有給休暇が取れる「思いやり休暇」を制度化している。

また、子育て中の社員が勤務時間を短くする際には、法律上は3歳の誕生日の前日までが対象だが、同社では、小学校就学前までの時短勤務が可能な制度を導入している。

松永氏は「育児休業が取れない理由を並べるのではなく、どうしたら育休が取れるのか、どうしたら企業が背中を押せるのか、いっしょに考えることが重要です」と話した。

脱属人化が休みやすさを促進する

フリーマーケットアプリを運営するメルカリは、創業6年。男性社員の81%が育児休業を取得し、平均の取得期間も58日に達している。

日本を代表するスタートアップ企業の一つとして、設立5年目で新規株式公開(IPO)を達成した同社は最近、子育てがしやすい企業としても注目を集めている。

今回のコンソーシアムで取り組みを発表したのは、「People Experience」チームでマネージャーを務める望月達矢氏だ。

「社員がいつから育児休業に入るのかということは前もって分かるものなので、あらかじめ計画することができます。チームの中で休める状態をつくれば、企業の大小を問わず、IT企業でもそうでない企業でも、育児休業の取得は可能なことだと思っています」
そう話す望月氏自身も、1歳半の娘を子育て中で、1カ月半の育児休業を取ったという。

創業からまもないベンチャーやスタートアップは、長時間労働や社内制度の未整備が指摘されることもあるが、同社はなぜ、こうした制度を確立できたのだろうか。

男性の育休取得が難しい背景には、収入、情報、業務の3つの不安があると望月氏は指摘する。

  1. 収入が減ってしまう不安
  2. 復職時に「浦島太郎状態」にならないか
  3. 業務が属人化して休めない

減収に対しては、復職時の一時金を支給したり、認可保育園に入れなかった社員に対して、認可外保育園と認可保育園の保育料の差額を企業が補助するなど、金銭面で支援する。

「浦島太郎状態」を防ぐには、ビジネス向けのチャットサービスを活用する。休職中も時々、チャットを確認することで、企業で何が起きているかは把握できる。

とくに重点を置いているのは、業務の「属人化」の解消だ。特定の人にしかできない仕事が増えれば、その人は、休みが取りづらくなる。

このため、育児休業に入る前に、チーム内で業務の進め方を見直し、どうすれば業務をシェアできるか、部下を持つ役職者であれば、その権限は他のメンバーに移譲できないかなどを話し合う。

望月氏は発表の中で、「『優秀な人であればあるほど、計画的にきっちり休む傾向があるよ』ということを、全体の定例会議でも話をしている」と話している。

トップダウンが育児休業取得の鍵

男性の育児休業取得を促すうえで、内閣府の渡邉清・官房総括審議官が必要性を指摘したのは、トップダウンによる社内の改革だ。

5回目の子育て応援コンソーシアムの会合で、渡邉氏は「ぜひとも経営トップの方による上からの改革として、男性の育児休暇取得の推進を進めていただきたいと思っています」と述べている。

新潟県長岡市のサカタ製作所は、工場や体育館のような大型の建物の建設に必要な金具を製造している従業員数151人の企業だ。

社長の坂田匠氏は会合で「休むことによる不安は当社にもあったが、大きなきっかけになったのは、トップダウン。トップの強い意思だった」と述べている。

2016年には3人の男性社員が育休取得の対象だったが、1人も育児休業を取らなかった。

そこで坂田社長は、社員に対して「働き方改革で業績で落ちても構わない」「育休取得を推進した管理職を高く評価する」というメッセージを強く推し出した。

「上からの改革」の結果、サカタ製作所は2018年、2019年と2年連続で男性社員の育児休業取得100%を達成している。
メルカリでは2017年秋、小泉文明会長らが2カ月間の育児休業を取り、話題を呼んだ。これも、「上からの改革」の一つの形と見ることができる。

一方で、企業ごとにさまざまなカルチャーがあり、最近ではフラットな組織を目指す企業も多い。メルカリの望月氏は「われわれは、並列な企業を目指しているので、トップからの発言ではなくても、何度も繰り返して話すこと大事だ」と指摘する。

「働きやすい」のその先に

男性の育児休業を含め、社員たちの働き方の改革を目指す企業は少しずつ広がっている。しかし、この改革は「働きやすい職場」がゴールではない。

キャッチネットワークの松永社長は「働きやすい企業にはなってきましたが、これからは
仕事がチャレンジングでわくわくするとか、達成感や成長を感じられる、そんな働きがいのある企業を目指していきたい」と述べている。

必要なときにきちんと休むことで、生産性を高める。よりクリエイティブな仕事に集中できる環境を整える――。

この数年、内閣府や各自治体による、子育てをする人たちを支える制度の整備が急速に進んできた。
こうした流れの中で、子育て支援をめぐり、「働きやすい」のその先を見据えた組織づくりに取り組む企業が現れ始めている。

取材・文:AMP編集部
写真:佐野 和樹

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