観光や語学需要で盛り上がる「音声翻訳機」市場、スマホにはない魅力も

訪日外国人が増加の一途を辿る中で、「音声翻訳機」市場が盛り上がっている。手のひらサイズの端末で言葉の壁を越えられる夢のデバイスとして、旅行や語学学習、接客における需要が急増している。今後どこまで拡大するのか。


ソースネクストの音声翻訳機「ポケトーク S」

音声認識と翻訳にはクラウドサービスを利用

国内の音声翻訳機市場でトップを独走しているのが、ソースネクストの「ポケトーク」シリーズだ。2019年1月から10月の販売台数シェアは、実に94.9%を占めるという(BCN調べ)。


音声翻訳機といえばポケトーク、という状況が続いている

MM総研が2019年12月に発表した音声翻訳機の市場調査では、2019年12月までの出荷台数は230万台。2021年末には520万台規模にまで拡大する見通しとなっている。

インバウンド需要の拡大により、接客の現場など企業での導入も進んでいる。英語以外にも多様な言語を話す訪日客が増えており、店員個人の語学力では対応できない場面が増えている。そこで翻訳機の出番というわけだ。

翻訳機の使い方は簡単だ。端末のマイクに向かって日本語で話しかけると、英語に翻訳された合成音声が端末のスピーカーから返ってくる。端末を相手に手渡し、英語で話してもらうと日本語へと翻訳され、会話が成立する。

その裏で動いているのは、音声認識や自然言語処理、翻訳など高度なソフトウェアだ。実はこれらの機能はAIを得意とするグーグルやマイクロソフトがクラウドサービスとして提供しており、翻訳機はそれを呼び出しているに過ぎない。

そのため翻訳機を差別化するポイントは、マイクやスピーカーの性能、画面の大きさや見やすさ、レストランのメニューなどを翻訳できるカメラの有無、国内外に対応した通信機能といったハードウェア面になる。

ソースネクストは「ドラえもん」とのコラボモデルを発表。同作品に出てくる「ほんやくコンニャク」を現実化したことをアピールした。ドラえもんはアジアでの人気が高く、海外市場でもシェアを伸ばす勢いだ。


ポケトークの「ドラえもん」コラボモデル。コンニャク色のケースも用意した

語学需要も増加、スマホにはない専用機の魅力も

翻訳機はどのような用途で使われているのだろうか。ソースネクストの調査によれば、トップは海外旅行だが、その次には語学学習が来るほど、学習の需要も高まっているのだという。


ポケトークの用途は旅行に次いで語学学習が多い

極論を言えば、十分に高い性能の翻訳機があれば一切の学習は不要になる時代が来るかもしれない。だが翻訳機によって外国人と交流するようになると「自分でも話してみたい」と思うようになり、学習意欲が高まる効果もありそうだ。

また、語学学習には恥ずかしさもあるとソースネクストは分析する。語学は話さなければ上達しないが、人前で話すのは恥ずかしい人も多い。だが機械が相手なら、肩の力を抜いていくらでも練習できるというわけだ。

ポケトークの最新モデルでは会話のシミュレーション機能を搭載。誰もが海外旅行で緊張する入国審査など、実際の海外旅行のシーンを想定した英会話を練習できるようになった。

他にも国内では富士通コネクテッドテクノロジーズ、格安スマホのFREETEL創業者が興したブランド「KAZUNA」、事務用品大手の「キングジム」、中国から日本参入を果たした「Langogo」などが翻訳機を展開。ソースネクストが独占する市場に割り込みを図っている。


KAZUNA eTalk 5


Langogo Genesis

KAZUNAは金融や法務など専門分野の翻訳を手がけるロゼッタと提携し、QR決済機能も加えるなど、ビジネス向けの機能を強化。Langogoは言語ごとに最も相性の良い音声認識と翻訳のサービスを組み合わせて利用することで、精度を高めている。

ライバルとしてよく挙げられるのは、スマホの翻訳機能だ。コアとなる音声認識や翻訳機能にクラウドサービスを利用している場合、スマホと翻訳専用機では大差ない結果を得られることになる。

だが、翻訳専用機のメリットもある。旅行先で相手に手渡して話してもらうような場面では、個人情報の詰まったスマホを使うのは不安がある。1日に何十回も利用する業務用途では、いちいちアプリを立ち上げる必要があるスマホは現実的ではない。

自宅での語学学習のようにスマホで代用できる場面はたしかにあるものの、専用機にもたしかな需要がある。スマホに食われないという意味でも、翻訳機市場には安定した成長を期待できそうだ。

文:山口健太

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