ヨガ人口は毎年100万人増。ヨガはすでにブームの域を超えている
呼吸に合わせ、体を動かすヨガ。
日本ではすでにブームという域を超越し、ヨガは文化や習慣のひとつに数えられるようになった。しかし、現代風のヨガが日本でブームになったのは2005年ごろと、それほど昔のことではない。2003年、アメリカではマドンナをはじめとして、ハリウッドセレブたちが美と健康のためにヨガをスタート。それが世界規模で爆発的に広がり、日本にも1〜2年遅れた頃にヨガブームがやってきたのだ。その後、2010年代になると日本のヨガ人口は100万人を突破。
2017年3月に発表された数字では、日本のヨガ人口は約770万人だが、毎年新たに始める人が100万人のペースで増えており、2020年には1,000万人を超えると言われている。
一方、元祖ヨガ大国のアメリカを見てみれば、すでに国民の8〜9人がヨガをはじめているとされており、インドから長く伝わるトラディショナルなスタイルのヨガに加え、もっとフィジカル的要素を追求したヨガや、特殊な器具を使用するヨガなど、個性豊かなヨガもアメリカから発信されている。
一般的に、「日本のフィットネスカルチャーはアメリカから数年遅れている」と言われるが、ヨガについても日本は間違いなくアメリカの後を追い、今後、ますます多くの日本人がヨガを始めるだろう。
マイボイスコム株式会社が2018年10月に行った、習い事に関するインターネット調査によれば、直近1年間に趣味の習い事をした人(全体の15.9%)のうち、「ヨガ、ピラティス、体操」が20.1%、「スポーツ(テニス、ゴルフ、スイミングなど)」「フィットネス、エクササイズ」「英語・英会話」などが各10%台だった。
習い事の目的は「健康維持」「ストレス発散・気分転換」「身体を鍛える、体力づくり」などが上位だったという。このことからも、日本人がヨガをする目的は「健康管理」や「ストレス発散」がキーワードになることがわかる。
約4500年もの歴史を持つヨガと「xR」技術が出会う
だが、そんなヨガにも近年、新しい動きが見られている。それは、VRやAIなど、最先端テクノロジーを搭載した指導プログラムやアプリなどの登場だ。いくつか例を挙げてみよう。
(1)自宅に仮想インストラクターが登場「WEBGYM」
会員制総合フィットネスクラブを運営する株式会社東急スポーツオアシスは、2017年、ストレッチ、マッサージ、トレーニング、スイミング、ランニングなどの動画レッスンを搭載したアプリ「WEBGYM(ウェブジム)」をリリースした。
その後、2019年5月にフィットネスインストラクターをAR(拡張現実)コンテンツ化したプログラムをリリース。
これは、フィットネスインストラクターの3DモデルをAR空間に表示することで、ヨガのフォームをさまざまな角度から確認できるもので、画面に登場した3Dモデルのインストラクターを、2本指で拡大縮小したり、指でインストラクターの方向を360°動かしたりすることができる。
同社は、「第一弾ではヨガの基本ポーズでもある太陽礼拝の一連のポーズをARにしました。実際にプロのヨガインストラクターの周りを複数台のカメラで囲み、全ての角度からポーズの細かな部分を撮影しました」と述べている。
自宅などで練習すると、フォームが崩れていることに気づかなかったり、つい自己流になったりしがちだが、ユーザーはインストラクターの正しい動きと見比べることで、簡単に修正することができる。
しかも、紙面や動画など一般的な2Dでは確認できない部分も、AR機能を利用することで360°、自分の好きな角度から確認することができるのだ。
同社は、「今後はヨガのコンテンツだけでなく、筋力トレーニングやダンスなど、よりフォームチェックの需要が高いコンテンツの開発をして参ります。またARに限らず、VR(仮想現実)やMR(複合現実)などさまざまな「xR技術」にチャレンジし、IFCT(ICT×Fitness)を活用してユーザー様に新たなフィットネス体験価値を提供して参ります」と語っている。
(2)世界初、ヨガ好きのためのスマートウォッチ「Jeevah」
最先端の人工知能技術で構築されたJeevahは、年齢、体重、病歴に基づいてユーザーのヨガトレーニングをカスタマイズしている。ライブラリには、100以上のウェルネスビデオヨガが保存されていて、ユーザーはいつでもアクセス可能。まさに世界初、ヨガ好きのために作られたスマートウォッチなのだ。
特徴的なのは、ユーザーがストレスを感じた際に「Jeevah」から通知が配信される仕組みで、たとえば、「深い呼吸をしなさい」など、体調に合わせたアドバイスをもらうことができる。ヨガは日常的に行うことで、その人の心身に大きな効果をもたらす。そうした習慣化を助け、ヨガをさらに価値あるものにするのに、このスマートウォオッチは大きく貢献するだろう。
ヨガには大きく分けて「アーサナ」という体を動かす分野と、「瞑想(メディテーション)」という心を落ち着け、自分を静かに内観する分野がある。
これまではどちらかというと、「アーサナ」の分野でテクノロジーが用いられ、ヨガをする人たちに指導するサービスが提供されてきたが、最近では、「瞑想(メディテーション)」の分野にも先端テクノロジーを用いる動きが出始めている。
その一例が、「VR瞑想」だ。
これは、日本におけるアシュタンガヨガ(=ヨガの流派のひとつ)の第一人者であるケンハラクマ氏の監修のもと、開発されたもの。ユーザーがVRゴーグルをつけると、目の前にさまざまな映像が現れ、言葉によるガイダンスが聞こえてくる。
その映像とガイダンスにより、ユーザーは意識をコントロールすることを学び、瞑想を深めやすくするという仕組みだ。一番の特徴は、ゴーグルを装着することによる圧倒的な没入感。「独学で瞑想をやっているけれど、気が散ってしまい、どうしても深まらない」という人には最適かもしれない。
ヨガ×テクノロジー。その恩恵を受けるのは一体誰か?
そもそも、ヨガとテクノロジーは相反する物のように思われがちだが、実は非常に相性がいい。本来、ヨガは時間や場所を問わず、どこでもひとりでも練習できる、非常に身軽で簡単なものだ。加えて、特別な器具やマシンを使用する筋トレや、広いスペースを必要とするエアロビクスやダンスなどのプログラムと違って、ヨガはマット1枚敷くスペースがあれば、すぐに練習することができる。
つまり、基本スタンスがシンプルであり、身軽であるがゆえに、さまざまな部分でテクノロジーを組み合わせ、価値を増幅させることが可能なのだ。
仮想インストラクターが正しいフォームを指導したり、精神や肉体の状態に応じて最適なポーズを通知したりする既存のサービスだけでなく、今後はもっとさまざまな観点からヨガとテクノロジーの組み合わせが考案され、そのパターンは無限大といってもいいだろう。
現在、世界的にヘルステックが伸長を続けているが、今後は「ヨガ×テクノロジー」、つまり、「ヨガテック」の分野でも新しいサービスが登場したり、スタートアップが立ち上がったりして、ますます活気づくのは間違いない。
特に、ヨガ発祥の地であるインドは、インドの名を高め、国力をあげるためのコンテンツとして、現在、ヨガを重要視している。
インドといえば、言わずとしれた最先端IT国家だ。今後はインドから、ヨガを題材にしたVRやARアプリなどのサービスが登場し、新たなヨガブームの波を引き起こすかもしれない。
だが、そうした「ヨガテック」が人々の健康を増進し、精神のストレスを解放するのに大きく貢献することは疑いようのない事実だとしても、その一方、サービスの開発側にとっては、「本来ヨガとはなんのために行うのか」という本質を見失わないことが大切だ。
ヨガとはそもそも、呼吸、姿勢、瞑想を組み合わせて、心身の緊張をほぐし、心の安定とやすらぎを得るものだ。そうした本質を見失い、「ゲーム性が強く、面白いもの」「ファッション性が高く、目新しいもの」を追求すれば、はじめは消費者もサービスに飛びつくかもしれないが、いずれは飽きが訪れ、業界全体がサビついてしまうだろう。
人はなぜ、ヨガをするのか。人はヨガに何を求めるのか。
そこにある種のストーリー性を作り、ユーザーをそのストーリーの中に取り込みながら、あくまでもヨガを中心軸に据えてAIやVRの機能を利用するという立場を持ち続けることが、サービスの提供側に求められる。
文:鈴木博子