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このほどロイター通信がまとめた「世界の革新的な大学ランキング」が発表された。特許や論文引用数に見るこのランキングは今年で5年目になる。
ランキングトップは米国の常連校
このランキングは科学の先端にあり、新しい技術を発明、新しい市場や産業を活性化させる革新的な教育機関、すなわちイノベーティブな大学のランキングであるとしている。今回も1位はスタンフォード大学で継続的にイノベーションの流れを生み出している。5年連続の首位となった。
革新的な大学ランキング2019 ©Reuters.
今年のランキングで順位を固持したのはスタンフォード大学だけでなく、2位のマサチューセッツ工科大学、3位のハーバード大学もこの5年間順位の変動がない。さらにトップ10のうちの8校は圏内での順位を維持、トップ20で見ると実に18校が圏内にとどまった。
この結果が示しているのは、発明者本人は「因習打破主義者」とみなされ、とにかく新しい考え方が求められている一方で、イノベーションそのものは因習の典型ともいえる強力な権力を持つ機関に大いに頼っているということ。
つまりは、新しいアイディアを思いつくだけでは成功に至らず、特許や出版、生産、市場といったバックアップが必須であるということがより明らかになった。
ベルギーのルーヴァン・カトリック大学。高品質の研究への投資額(財源)が潤沢だ。
アメリカの大学を除いて高順位にランクインしたのは第7位、ベルギーのルーヴァン・カトリック大学だ。およそ600年近い歴史ある同大学は、世界最大級の独立したリサーチ&ディベロップメント組織を有し、産学連携の実現に素晴らしい成果を上げている。
年々増加している大学の資金は研究費として有効活用され、特に経済の活性化につながる斬新な研究を重視、社会経済への還元を目指している。
またアジアで最高ランクは第12位の韓国浦項工科大学。韓国最大の鉄鋼メーカーPOSCOが1986年に創設した大学で、同社との独特な関係性が特徴だ。
国別ランクイン数に見る特徴
トップ100校を国別にみるとアメリカの大学が大半の46校を占め、次いでドイツ9校、フランス8校の順。日本はイギリス、韓国とともに6校がランクイン、中国は4校のランクインとアジア勢が完全に後塵を拝する形となった。
なおトップ100校にアフリカ、南米、オセアニアの大学は1校もランクインしていない。
ここで注目したいのがフランスの躍進と日本の後退だ。フランスではこの数年間、小規模校を合併させるなどの、高等教育機関の再構築を広範囲にわたって実施したことが功を奏し世界で最も躍進した国となった。
新たにランクインしたソルボンヌ大学(56位)、エクス・マルセイユ大学(96位)をはじめ圏内のフランスの大学全校が大きくランクアップした。
2012年に3つの大学を統合し創設された南フランスのエクス・マルセイユ大学
他方で今年のランキングで3校が圏外に脱落した日本。状況は深刻で、圏内にとどまった大学もそれぞれ順位を平均で16落としている。
日本はこれまでずっと、アジア太平洋地域の強大な研究の要としての地位を誇っていたが、資金源を政府支出に大きく頼っていることと、10年にも及ぶデフレや経済停滞の結果、研究に費やすことのできる資金が減少したことに伴ってイノベーションの数が減ったとみられている。
なお日本の大学の順位は、東京大学が26位、大阪大学35位、京都大学43位、九州大学57位などとなった。
ユニークな評価基準
タイムズ(Times Higher Education)などの世界大学ランキングで上位に入り、アジア最高と評価されるシンガポール国立大や南洋工科大学がそれぞれ58位、67位にとどまったこのロイター通信によるランキングの構成要素、詳細はどうなっているのか。
同レポートではWIPO(世界知的所有機関)への特許申請数と受理率で大学の研究結果の商業的価値を測り、他の特許への引用数と引用率で教育機関の大小に拠らない平均値を算出。その他に産学連携論文のパーセントを見ることによって、研究や論文の将来性の指針とし、数値化したとしている。
1位のスタンフォード大学と26位の東京大学との指標を比べてみると、特許申請数はスタンフォード大学が728件に対して東京大学が971件と大きくリード。特許申請成功率は40.8%に対して52.6%とまずまずの数字である。
しかしながら、経済的なインパクト指数は平均値40.5に対してスタンフォード大学の75.2に対して東京大学は32. 5と大きく低迷し足を引っ張った。
この指数は、大学が取得した特許や研究論文の引用によって、民間企業などに商業的影響を与えたかどうか、経済的インパクトの有無で判断されている。世界経済に影響のある、商業的価値のあるイノベーションがより高く評価された結果だ。
他の世界大学ランキング
今回ロイター通信が発表したこのランキングはイノベーションに注目したランキングだが、大学ランキングでは前述のタイムズによるものが世界的にもよく知られている。
教育力、研究力、研究の影響力、国際性、企業からの出資額など13項目を点数化し決定するタイムズのランキングでは今年、イギリスのオックスフォード大学が第1位、続いてカリフォルニア工科大学、ケンブリッジ大学そしてスタンフォード大学は第4位にランクインした。
アジア勢は中国の清華大学、北京大学がそれぞれ23位と24位、次いでシンガポール国立大学が25位、東京大学は36位、京都大学は65位となっている。
日本の教育機関は世界的に見ても高レベル、高評価であるにもかかわらず、論文や経済に好影響を及ぼす特許の数が少ないことで世界から取り残されつつある。
今なお停滞する国内経済、加速的に進む少子化が世界的な大学ランキングに影響を及ぼしている現状に鑑みて、国家レベルでの対策が急がれる。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)