ペット産業好調の要因は「家族化」

日本において、ペット産業は好調に推移している。

株式会社矢野経済研究所は、国内のペットビジネス市場を調査し、セグメント別の動向、参入企業別動向、将来展望を明らかにしている。

それによると、2017年度のペット関連総市場規模は、小売金額(末端金額)ベースで前年度比101.4%の1兆5,193億円、2018年度は同101.5%の1兆5,422億円と計算されている。

さらに、2019年度は1兆5,629億円、2020年度は1兆5,833億円と、微増ながら上昇傾向が続くだろうと見込まれている。


出所:株式会社矢野経済研究所調べ(小売金額(末端金額)ベース、2018年度は見込値、2019年度以降は予測値)

一般社団法人ペットフード協会によると、過去5年間においてペットの飼育頭数は減少傾向にあるという。特に犬の飼育頭数はかなりのペースで減少を続けており、調査開始以来、ずっと犬が猫を上回る数だったが、2017年から2年連続で犬が猫を下回る数となっている。

しかし一方で、緩やかなペースではあるが、市場規模は成長を続けている。

オーガニックを訴求するフードや、健康寿命の延伸を目的としたプレミアムフード、高齢ペットが食べやすいソフトタイプのフード・スナックなど、商品がどんどん多様化していくことで市場の拡大傾向が続いているのだ。

この背景には、少子高齢化に伴って、人生を共にする「家族」としてペットを飼育する傾向が高まっていることが考えられる。そのため、一匹あたりにかける手間が手厚くなり、費用が高騰しているのだ。

そうしたなか、「ペットテック」に関心が高まっている。

ペットテックとは、ペット関連ビジネスに、AIやIoTなどのテクノロジーを掛け合わせたビジネスのこと。

特に、ペットの健康を守るため、さまざまな商品に先端テクノロジーが搭載されている。
このペットテックが日本で盛り上がり始めたのは、2018年。現在ではさまざまなサービスがリリースされ、市場も盛り上がりを見せている。その一例を見てみよう。

●Furbo

ペットの様子を外出先から確認できる見守りカメラの代表格。

Webカメラで留守番中の愛犬の様子を見たり、話しかけたりする以外にも、愛犬の動きの変化や鳴き声をセンサーで感知して撮影し、飼い主に通知する機能もある。

特にユーザーに好評なのは、「スマートドッグ通知」と呼ばれる、AIを使用した自動通知サービスだ。留守番中の愛犬の様子を見逃さず、たとえば、留守番している犬が起きたり、吠えたりしたら、いち早く完治してスマホに通知を飛ばすことができる。

そもそも、このFurboは愛犬のためを想って開発されたドッグカメラだ。獣医師やドッグトレーナーなど、犬の専門家たちの協力のもとで開発されたため、愛犬を監視するだけではなく、離れている時でもコミュニケーションを取るための機能がたくさんついているのだ。現在では世界中で30万人以上の愛犬家に活用されている。

●Plus Cycle

日本動物高度医療センターが開発した動物用の活動量計。

2019年2月に発売され、同年8月時点で1万弱のユーザーを抱えるまでに成長した。これは、犬や猫の首輪やハーネスなどに装着することで、1日の活動量やジャンプ回数を可視化できるツールだ。

飼い主は、ブルートゥースで製品と接続したスマートフォンのアプリで活動量のグラフを確認することができ、活動量などが過去1週間の平均に対してて2日連続で20%以上を下回ると、アプリに警告が表示される。

犬や猫の活動量は、健康状態を測定するための、大きな目安だ。発熱や下痢、貧血などで体調を崩せばおのずと活動量は減り、睡眠時間が増えるようになる。

反対に、夜間の睡眠時間が減少していれば、「関節痛などで十分、眠ることができないのではないか」と疑うことができる。

このように、活動量の変化から犬や猫の体調変化を即座に察知するのが、このPlus Cycleの目的だ。「飼い主が異変に早く気づく仕組みで獣医療の機器としても使える製品を作りたかった」。

日本動物高度医療センター事業開発部の山本誠課長は製品開発の動機について、こう説明している。

●Whistle

犬の健康管理ツール。2013年にアメリカで発売され、現在は日本にも上陸している。ペットの首輪に装着する軽量コイン型のウェアラブルデバイスで、愛犬の睡眠パターンや心拍数、歩数や活動量などをデータ化する。そのデータを、飼い主はアプリを通して確認できるという仕組みだ。

Whistleは3軸加速度センサーが取得したデータを分析し、愛犬が1日に歩いた時間や、遊んだ時間、眠っていた時間などを表示する機能も搭載。ユーザーは、愛犬がどのようにして毎日過ごしているか、生活パターンを把握することができるうえ、アプリ側でもこうしたパターンを解析し、行動サイクルの変化があったら獣医の診察を促す機能も付与されている。

また、ユーザーはアプリ上のデータをそのまま獣医に共有することができるため、万が一、愛犬が病気になった場合でも、情報の伝え漏れを防ぎ、迅速に対応してもらえるのもメリットだ。

そのほかにも、健康管理とは少し観点が違うが、「Dog Huggy」とうサービスもある。これは、登録してあるデータから、愛犬を預けたい飼い主とペットシッターをマッチングするサービスであり、ウエブ上でペットを預けたい日や場所、愛犬の情報を入力すると、条件に合ったペットシッターが見つけられる。

ペットシッターが見つかったら飼い主とペットシッターが事前面談をして、ウエブサイトから予約リクエストを送り、ペットシッターがリクエストを承認すると予約成立。いわば、ペット向けのAirbnb(民泊)のようなサービスだ。

また、ペットに関するユニークな取り組みとしては、リクルートテクノロジーズ、日本IBM、糸井重里氏が社長を務める株式会社ほぼ日、ペット情報メディアを運営する株式会社シロップが協働して、「鼻紋プロジェクト」を進めている。

これは、スマホアプリで撮影した犬の鼻紋(つまり、鼻のシワ)の画像をAIで認証し、個体を識別するサービス。いわば、ペット向けのマイナンバーのようなもので、実現すれば鼻紋を照合認証することにより、さまざまな情報が一元的に管理され、活用されるという仕組みだ。

鼻紋を使って個体認証できれば、迷子犬が今よりも減るだろうし、その結果、殺処分される犬の減少にもつながるだろう。

このように、ペットテックは動物の健康管理という観点だけでなく、動物保護という面からの貢献も期待されているのだ。

ペットの寿命延伸が産業に与える影響

視野を世界へ広げてみれば、日本以上にペットブームが熱い国がある。それは、アメリカだ。
現在、日本での飼育犬数は約1,000万頭とされている。

一方アメリカでは、APPA(American Pet Products Association)の調査によれば、アメリカの約8,500万世帯が犬を飼っており、アメリカ国内のペット産業消費額は、2018年には725.6億ドルで、2019年は753.8億ドルと予想されている。

アメリカと日本の人口の差は約3倍であるが、飼育犬数は約 8〜9倍の差があるのだ。
この事実だけでも、アメリカがペット大国であることがわかるだろう。

そんなアメリカでは、日本に先行してペットテックが盛んだ。

日本では、まだ「ペットテック」という言葉自体、それほど馴染みはないが、アメリカではすでに当たり前の言葉として用いられている。

一般に、ペットテックのサービスはGPSやWebカメラを利用した「見守り系」と、自動的にエサを与える「給餌系」の2つに大きく分類される。

日本同様、「ペットの家族化」が進行しているアメリカでは、すでに無数のサービスがローンチされているが、このうち、今後ますます伸びると予測されるのは、「見守り系」のサービスだ。なぜなら、ペットが「家族化」する傾向は今後もますます強くなれば、ペットの健康管理は飼い主にとって、重要度の高いテーマになるからだ。

今後、日本におけるペットの健康管理ビジネスを考える際、キーワードになるのが「ペットの高齢化・長寿化」だ。現在、ペットも人間と同じく長寿化が進んでいる。


一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」、及び、「簡易生命表」(厚生労働省)をもとにアイペット損保にて作成した図(図中の値は各グループの2010年値を100とした時の平均寿命の相対値を表す)

これは、犬と猫の平均寿命の推移を示したものだ。
特に下のグラフを見ると、犬・猫ともに人間の平均寿命上昇率を大きく上回っていることがわかる。

また、このグラフを見ると、とくにペットのなかでも、超小型犬の平均寿命の上昇率が特に高いことがわかる。

一般社団法人ペットフード協会の資料によれば、1983年の独自調査では、犬の平均寿命は7.5歳だったという。それが2017年には14.2歳だ。つまり、この34年間で2倍近くまで飼い犬の寿命が伸びているのだ。

ペットの高齢化の背景には、「餌の品質向上」「飼育の質の向上」「動物医療の発達」「環境の改善」が関係しているとされる。

こうした高齢化は、確実に今後も続く。そうなれば、ペットの「家族化」が顕著に進んでいる傾向も追い風となり、AIやIoTなどを活用したペットの健康管理サービスは今後も確実に伸びてくるだろう。

アメリカでも、多くのスタートアップ企業がペットテックに乗り出しており、また、投資家たちもこの産業に目を光らせている。そのブームが日本にも遠くないうち、訪れることは間違いない。

文:鈴木博子