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2019年には3,000万人に到達か、拡大する世界のクルーズ旅行市場
海外旅行といえば空の旅が一般的だが、このところクルーズ船による船旅を楽しみたいという需要も増えているようだ。
2017年の世界のクルーズ旅行者数は約2,600万人。2011〜2016年の5年間でおよそ20%増加している。ドイツメディアDWによると、この数は2018年には2,850万人となり、依然拡大トレンドを続けている。
日本でもクルーズ人口が増加傾向にある。国土交通省によると、2018年日本人クルーズ人口は32万1,000人と、2年連続で30万人を超え、過去最多を更新。また日本の港湾へのクルーズ船寄港回数も過去最多となる2,930回を記録した。
世界的にクルーズ船の規模が大きくなっていることに加え、その数が増えており、旅行者1人あたりの費用も以前に比べ低く抑えられることなどが要因になっているようだ。
たとえば、最大級のクルーズ船ともなればその全長は360メートル、重さは22万トン、最大乗船人数は6,500人以上という規模になる。その巨大さからよく「海に浮かぶ都市」と呼ばれてる。このような巨大クルーズ船が数百隻も世界の海を毎日を航行しているのだ。
「海に浮かぶ都市」巨大クルーズ船
クルーズ船で世界一周などというと定年後の夫婦向けというイメージが強いが、最近では各クルーズ会社のイメージ戦略でカジュアル性が増し、若い世代の利用も増えているといわれている。
クルーズ旅行で人気の寄港地は、フランス・カンヌ、イタリア・ベネチア、スペイン・マヨルカ島など。こうした人気寄港地に寄りつつ、ゆったりと優雅に旅行している姿を想像すると、旅欲がかきたてられるかもしれない。
しかし、選択を誤ると優雅な旅も最悪な体験になってしまうこともあり得る。いま、こうしたクルーズ旅行で人気の寄港地で「反クルーズ船」の動きが活発化しているからだ。最近話題となってる「観光公害」を悪化させ、さらにはSDGsの達成を阻害する要因などと非難を受けているのだ。
この問題は日本ではあまり報じられていないが、ファイナンシャル・タイムズ、フォーブス、ガーディアン、CNN、ロイターなど世界的に強い影響力を持つ英語メディアがこぞって報じており、クルーズ船への風当たりはますます強くなっている。
クルーズ船をめぐって何が起こっているのか。各国メディアの報道から、クルーズ船が非難される理由を探ってみたい。
フランス・カンヌが汚染クルーズ船の寄港を禁止・乗船客を拒否する理由
「フランス・カンヌで汚染クルーズ船の寄港禁止へ」。2019年9月24日、ロイター通信(英語版)が伝えたニュースだ。
「カンヌ映画祭」で知られる人気のリゾート地カンヌ。フランスで4番目の規模を誇るクルーズ船の寄港地でもある。
カンヌに停泊する巨大クルーズ船
このカンヌで2020年から燃料の硫黄物質含有量が0.1%を超えるクルーズ船について寄港を禁止するとともに、そのような汚染クルーズ船に乗船する旅行客が街に足を踏み入れることを阻止する措置が導入されるというのだ。
カンヌ市長デイビット・リスナール氏はロイターテレビの取材に対し、この動きは「クルーズ旅行に反対」するものではなく「汚染に反対」するものだと強調している。
ドイツの汚染専門家アクセル・フリードリヒ氏によると、クルーズ船が使用している燃料は、通常のディーゼル燃料に比べ「硫黄酸化物」が2,000倍も多く含まれている。
ヘルシンキ大学の研究者らが2018年2月に発表したレポートでは、クルーズ船などが排出する硫黄酸化物を多く含んだ排気ガスで、年間40万人もの人々が肺がんや心肺系疾患により命を落とし、1,400万人の子どもたちが喘息にかかっていると推計。
この数字はさまざまなメディアで引用され多くの人々の関心を高めることになった。
また2019年1月には、米ジョンホプキンス大学の研究者らが発表したレポートも多くのメディアが報じ話題を呼んだ。
同レポートによると、クルーズ船デッキの空気汚染レベルが深刻で、スモッグ問題がひどいといわれる北京などと並ぶ汚染度だと指摘しているのだ。特に船尾における汚染物質の集中度合いが高かったという。
硫黄酸化物を多く含んだ排気ガスを排出するクルーズ船
2019年6月に公開されたTransport & Environmentによる調査報告書も衝撃的な結果を示している。それによると、2017年世界最大のクルーズ会社カーニバル・コーポレーション1社が排出する硫黄酸化物の量が欧州全体の自動車2億6,000万台が排出するそれより10倍も高い数値になったというのだ。
また世界2位のクルーズ会社ロイヤル・カリビアン・クルーズ単体では欧州全体の自動車数の4倍高い硫黄酸化物を排出していたという。
クルーズ船による硫黄酸化物汚染が深刻な国として、スペイン、イタリア、ギリシャ、フランス、ノルウェーが挙げられている。都市別では、バルセロナ、マヨルカ島パルマ、ベネチア、サウサンプトン、チビタベッキア(ローマ)の順で汚染が深刻だという。
フランス・カンヌが汚染クルーズ船の締め出しに乗り出したように、これらの都市でもクルーズ船の寄港数を制限するなどの対策が進められている。
汚水垂れ流し問題に観光公害も、求められる「responsible tourism」志向
クルーズ船が各都市で嫌われる理由は硫黄酸化物の排出だけではない。汚水の垂れ流しや観光公害問題などさまざまな理由が指摘されている。
英語メディアFastCompanyによると、Transport & Environmentのレポートでもっとも硫黄酸化物を排出していると指摘されたカーニバル・コーポレーションは過去数回にわたり汚水やゴミを海に垂れ流し、その行為に対して数十億円規模の罰金が科されている。
1993年に遡るとされる汚染行為、2016年には4,000万ドルの罰金と5年の執行猶予が言い渡された。一方、執行猶予中における違反が発覚、奇しくもTransport & Environmentのレポートが発表される数日前に追加で2,000万ドルの罰金が言い渡される事態となった。
観光公害問題についてもさまざまな問題が報じられている。人口が少ない港町に、1隻数千人も乗船するクルーズ船が何隻も寄港した場合何が起こるのか想像するのは難しくないだろう。
ほとんどの場合、人気観光地に寄港することになる。すでに観光客でごった返す観光地、そこに何千人、何万人もの乗船客が押し寄せることになる。
また地元経済への寄与という点でも、クルーズ船は歓迎されていない。観光客が増えると、地元ホテルやレストランの客が増え、地元経済は潤うはずだが、クルーズ船の場合、宿泊はクルーズ船の中、食事もほとんどがクルーズ船の中。
乗船客は寄港地で数時間滞在するだけで、ほとんど地元にお金を落とさず、ごみだけ残し帰っていくと非難されているのだ。
小さな港町に停泊する巨大クルーズ船
このほかクルーズ船内の労働環境の劣悪さが報じられるなど、ネガティブな情報には事欠かない状況となっている。
オーストラリアの大手メディアABCが2019年7月に公開した「旅行を変革した巨大クルーズ船、その暗黒面」と題する記事では、巨大クルーズ船が引き起こす諸問題に触れつつ、旅行者の選択肢が問題を解決する手段の1つになるだろうと締めくくっている。
クルーズ旅行を選ぶ際は、特に2つの点に関して調査すべきと指摘。クルーズ会社が寄港地に対して責任ある関係を構築できているかという点、そして持続可能なポリシーを持ちそこに行動がともなっているかという点だ。
2019年には3000万人を超えると予想されるクルーズ旅行市場。寄港地の反発ではなく、「ウェルカムムード」を得るにはどうすればよいのか。クルーズ会社だけでなく旅行者にも「responsible tourism」の考えと行動が求められる時代だといえるだろう。
文:細谷元(Livit)