ハワイが直面する海面上昇問題と世界への示唆

毎年多くの日本人が訪れるハワイ。その代表的な観光名所の1つワイキキビーチが15〜20年後には海に沈むかもしれない。ハワイ気候変動委員会が2017年11月に発表したレポートで明らかにした驚がくの予測だ。

米国ではこのレポートがきっかけとなり、ハワイの沿岸保護に関する法案が提出され、このほど上下両院で可決された。

日本だけなく世界中の観光客を魅了するハワイのビーチ。その代表といえるワイキキビーチを失った場合、年間20億ドル(約2,200億円)の観光収入を失うことになる。また、浸水や洪水の頻度が高まることになり、400億ドル(約4兆4,000億)の経済損失が発生する可能性もあるという。

このような海面上昇の危機に直面しているのはハワイだけではない。世界中の沿岸都市や島国も同様の危機にさらされている。


ハワイ・ワイキキビーチ

ハワイと並び高い人気を誇るモルディブも例外ではない。環礁地帯にある小さな島国であり、海面上昇や自然災害に対する脆弱性はハワイより大きいといえる。またモルディブでは観光が主要産業であることから、経済的な脆弱性も大きい。

こうした危機的状況にあるモルディブの観光産業ではいま、持続可能な観光を促進する動きが加速し、広がりを見せている。どのような取り組みが行われているのか、モルディブで起こる「サスティナブル・ムーブメント」の最新動向をお伝えしたい。

イスラム教国家モルディブ、脱中国依存と今後の方向性

日本人にも人気の観光先モルディブだが、ラグジュアリー・リゾートのイメージが先行し、同国の文化や歴史はあまり知られていない。

インドとスリランカの南西に位置する島国で、面積は300平方キロメートルと北海道富良野市の約半分の大きさ。人口は約40万人。首都マレに人口は集中しているが、同国にある1200ともいわれる島々、そのうち180ほどの島でも住民が暮らしている。


モルディブ首都マレ

定説では西暦500年代にスリランカから仏教徒が移住。その後1153年にアラブ人がイスラム教を伝え、それ以降モルディブはイスラム教国家となる。

ポルトガルによる占領、オランダや英国の保護国になるなど大国の影響を大きく受けつつ、1965年にスルタンを元首とする君主国として独立。1968年に国民投票によって共和制に移行した。

その後、1988年のクーデター、2008年の大統領暗殺事件など不安定な国際政治の時期が続いたが、現在のところ比較的安定しているようだ。

直近でニュースになったのは、2018年9月に実施されたモルディブ大統領選挙だ。

2013年に就任したヤミーン大統領と野党統一党のイブラヒム・ソリ氏による一騎打ち。親中派と知られるヤミーン氏と脱中国路線を掲げるソリ氏による争いだ。

結果、当時増大していた中国への債務問題と依存への警戒から、ソリ氏に票が集まった。また中国国内におけるイスラム教徒迫害問題がイスラム教国家モルディブの国民感情を刺激した可能性も考えられる。

ソリ首相の就任式にはインドからモディ首相がかけつけ、中国に代わってインフラ整備支援を約束するなど、対インド関係が再び強化される方向を向いている。

日本との関係について。モルディブと日本の国交はモルディブ独立2年後の1967年に樹立。在日本モルディブ大使館は2007年に開設。一方、在モルディブ大使館は在スリランカ日本大使館が長らく兼務していたが、2016年に首都マレに在モルディブ日本大使館が開設された。

日本から対モルディブでは過去数回に渡りODAによる護岸堤建設が実施され、津波や高波による被害が軽減されたとの報告がなされている。一方、2011年東日本大震災の際には、モルディブからツナ缶や市民が持ち寄った義援金が送られるなど、政府・市民間のつながりは良好であるといえるだろう。

高級リゾートを筆頭にエコ化するモルディブの観光産業

GDPの3分の1(約28%)を占めるといわれる観光業は文字通りモルディブにとって主要産業だ。そのモルディブの観光は、海洋エコシステムに大きく依存するものでもある。


モルディブの海

多様な海洋生物、透き通った海、きれいな砂浜、これらは健全なサンゴ礁があって初めて成り立つもの。しかし近年多発するエルニーニョ(海水温度の上昇)によって、コーラルブリーチ(coral breach:サンゴ礁の死滅)が発生、同国海域に生息する多くのサンゴ礁を失うという危機を招いている。

1998年に大規模なコーラルブリーチが発生し、3分の2のサンゴ礁が死滅したといわれてる。さらに2016年にも発生し、このときは95%ものサンゴ礁を失った。


コーラルブリーチが発生した海域

こうした事態に直面し危機感を覚えたモルディブの観光産業プレーヤーらは、持続可能性を高める取り組みを加速させている。

けん引するのは高級リゾート「Soneva」だ。モルディブ内に2つのプライベートアイランド「Soneva Fushi」と「Soneva Jani」を運営。15年前すでに海水淡水化システムを導入し、ペットボトルウォーターの使用を廃止した。

現在、プラスチックごみを現地でリサイクルする仕組みを導入、さらには近隣の島々からもごみを回収し、アート作品に変え地元住民に還元する取り組みなどを開始している。

同リゾート内に設置された「エコ・センター」ではごみの90%がリサイクルされており、近いうちに100%の達成を目指している。

エコ・センターではガラスや発泡スチロールから建材としてつかえるブロックを製造したり、有機廃棄物から肥料を生成。現在は、使用済み発泡スチロールをサーフボードに加工し、地元の島々に配布するなど、これまでにない方法での持続可能性を模索しているところだ。

一方、別の高級リゾート「Gili Lankanfushi」は環境NGO「Parley」と提携しリゾート島内で発生するプラスチックごみをすべてなくそうという取り組みを開始している。

最近アディダスが海洋プラスチックをリサイクルしスニーカーを製造したというニュースが話題になったが、このプロジェクトにおけるアディダスの提携先がParleyだ。

このほか「Crown&Champa」や「Four Seasons」などの高級リゾートや地元NGOなども海洋環境保全に向けた取り組みを活発化。

モルディブの前大統領であるヤミーン氏。その前任だったナシード氏は2020年までにモルディブを「カーボンニュートラル」にすると宣言し、その環境意識の高さから「Green President(環境大統領)」と称されたほど。

同じ政党に属するソリ現大統領がその意思を実現できるのか。世界の関心が「ブルーエコノミー」に注がれるにともない、モルディブの取り組みに対する注目も高まっていくことになるだろう。

文:細谷元(Livit