マイクロソフト×LIG×KREDO。海外を舞台に活躍する4名が語る「テック系グローバルキャリア」のリアルとは

人口減により労働力不足が浮き彫りとなった日本では、外国人労働者の数が増加している。厚生労働省が発表した数字によれば、2018年10月末時点での外国人労働者は1,460,463人(前年同期比14.2%増)と、2007年に届け出が義務化されて以降、過去最高の数値を記録している。

また、国内のマーケットがシュリンクすることから、本格的にグローバル展開に注力する企業も増えているだろう。

となれば、外国人人材のマネージメントスキルやグローバルを舞台に活躍できる人材がより一層求められるはずだ。

そんな背景から企画されたイベントが「Tech系グローバルキャリアの最前線を語る」。世界へ向けてビジネスを仕掛ける以下3名が登壇し、体験談に紐づくリアルなパネルディスカッションを展開した。

横田 猛夫(よこた たけお)
KREDO IT ABROAD INC. CEO
2012年 国費にてアフリカの大学院へ留学。その後、2013年にセブ島留学を経験し、現地の語学学校でマネージャーを3年間務める。2014年同社で「IT留学」を立ち上げ。2016年8月セブ島IT留学の「KREDO」を開校。これまでに1,000名以上の日本人卒業生を輩出し、国内、さらには海外IT企業への就職を支援してきた。現在日本人、フィリピン人を合わせ、160名体制で学校運営を行っている。
Kredo IT留学 公式サイト:https//:kredo.jp/
堀口 誠人(ほりぐち せいと)
LIG Philippines inc. President
2012年、LIGに入社し、デザイナー、エンジニア、PMを経て2015年に海外支社のLIG Phillipines Inc.を立ち上げ、代表に就任。10歳の頃にプログラミングを始める。現在は「人事採用・チームマネジメント・提案営業」の領域で戦略の策定や実施に従事している。
山本 築(やまもと きずく)
日本マイクロソフト株式会社 Microsoft 365ビジネス本部 プロダクトマーケティングマネージャー / MINDSコミュニティリーダー
2015年日本マイクロソフトへ新卒入社、日本企業に対してWindows10やセキュリティなどMicrosoftの製品提案を行う。2018年より日本マイクロソフトの働き方改革推進担当に着任、社内外問わず働き方改革NEXTを推し進める。ミレニアル世代主導の働き方改革推進組織「MINDS」を発足、コミュニティリーダーを務める。2019年からはマイクロソフトのセキュリティ製品の製品プロダクトマーケティングマネージャーも担当する。

今回は、この3名のディスカッション内容に加えて、当初イベントに登壇する予定であった、日本マイクロソフト株式会社に所属する”ちょまど”こと「千代田まどか」氏のコメントも交えてお送りしたい。

千代田まどか(ちよだ まどか・ちょまど)
マイクロソフト社 Cloud Developer Advocate
ITエンジニア兼マンガ家。100 人以上いるなかで日本人は4人だけという、マイクロソフト本社のインターナショナルな部署に勤務。私立女子大の文系を卒業し、新卒入社した会社を 3ヶ月で辞めて、スタートアップ企業に転職、その後 マイクロソフト社へ。ツイッターのフォロワー数は約7万人で、インフルエンサーとしても高い人気を誇る。漫画家としての代表作は『はしれ!コード学園』と『マンガでわかる外国人との働き方』(アメリカ人のロッシェルさんとの共著)。

日本人IT人材がグローバルキャリアを歩むメリット


KREDO IT ABROAD INC. CEO 横田 猛夫氏

横田氏がファシリテーターとなり行われたパネルディスカッションは、3つのトピックで進行された。最初のトピックは、「日本人IT人材がグローバルキャリアを歩むメリット」。

堀口 誠人氏(以下、堀口):僕はシンプルに「スキルの掛け合わせによって選択肢が増えること」だと考えます。

例えば、コードが書けるだけだとエンジニアとその延長線上のキャリア形成になると思いますが、グローバルでの経験値があれば、上位レイヤーからプロジェクトに関わるようなレアなポジションも狙うことができるはず。

日本では情報通信業に携わる外国人労働者が、ここ10年ほどで約3倍に増えたと厚生労働省が発表していて、そのデータを見ても今後のプロジェクトマネージャーやリーダーには、グローバルでの経験が求められるでしょう。

現状は国内でIT人材不足が叫ばれていて、エンジニアは引く手あまたかもしれませんが、一方で「2030年には、10万人のIT人材が余る」とも言われています(2019年4月23日に経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査」より)。

ここで言うIT人材とは「従来型ITシステムの受託開発、保守・運用サービス等に従事する人」。そうなったときに、もし英語力があれば大きな武器になりますよね。


LIG Philippines inc. President 堀口 誠人氏(写真右)、日本マイクロソフト株式会社 Microsoft 365ビジネス本部 プロダクトマーケティングマネージャー / MINDSコミュニティリーダー 山本 築氏

山本 築氏(以下、山本):僕はメリット……というより、自分自身への戒めも込めて「英語ができないとスタートラインに立てない」というお話をさせていただければと思います。でも、決して流暢に話せなければダメということではなく、“話そうとしているファイティングポーズ”があればOK。

というのも大学院生のときに留学したマンチェスター大学で「英語は根性だな」と学んだから。そこには、めちゃくちゃな文法でバンバン発言しまくる外国人が大勢いて、そのとき「それでいいんだ」って思いました。

マイクロソフトの就職面接でも「英語ができるかどうか」ではなく、「英語に取り組む姿勢」が見られます。実際、同僚とのやり取りならベースになる中学英語とGoogle翻訳があれば問題ないですよ。

だから今は英語が得意じゃなくても取り組む姿勢さえあれば、グローバルキャリアを歩むチャンスはあるし、その先に英語でスムーズな意思疎通ができれば、当然キャリア形成において、強みになりますよね。

横田 猛夫氏(以下、横田):僕もみなさんと似ているんですが、「近未来の先取り」がメリットになるかなと。さっき国内で働く外国人のIT人材が増えているというお話がありましたが、外国人労働者はコンビニや建築現場等、あらゆる産業で増えていて、そうなると彼らと一緒に働き、彼らをマネージメントしなきゃならない。

今からグローバル環境に飛び込むことで、5年10年先の近未来の日本を体験することができるので、国内でもキャリアとして活きてくると思います。


日本マイクロソフト株式会社 千代田まどか氏(写真:左下)

千代田まどか氏(以下、千代田): 国内では得られないような機会を手にできることがメリットだと私は思います。私の場合は、 Microsoft アメリカ本社の製品チームや海外のエバンジェリストなど第一線で活躍している人たちと会話ができて、毎回大きな刺激を受けています。

また、日本や日本語だけのインプットでは日本のローカライズされた情報だけにとどまってしまって、もったいないと思います。良いアウトプットは良いインプットからくるので。

(千代田注:今回私は現地に行けなかったので、コメントのみの参加となっております。読者のみなさま、心のレンダリングでパネリスト集合の写真に私を足してください)

グローバルIT企業で働く苦労とは?

横田:続いてのトピックは、「グローバルIT企業で働く苦労」です。まさにグローバルの最前線に身を置いているみなさんだからこそのお話が伺えればと思います。

堀口:僕が思う苦労は、「物理的距離の遠さと文化の違い」です。僕の場合、フィリピン・日本間でやり取りをする場面が多いんですが、リモート環境が整ってきているとはいえ、やはり対面に比べると圧倒的に情報量は限られます。

そこに言語の違いが加わるわけなので、コミュニケーションコストは相当高い。僕らは、なるべく英語に頼らなくても円滑に意思疎通ができるように、スクリーンショットを貼る、わかりやすく見出しを付ける等を実施しています。

また、文化的背景を理解するための研修も行っています。フィリピンでは日本よりもかなり上下関係に厳しく、例えば肩書のある人から注意されたりすると、フィリピン人スタッフは恐縮してしまうんですよ。そういった細かいことも研修で伝えています。

横田:確かに文化的背景を理解したうえで仕事をすると、結果がまったく違ってきますよね。フィリピン人は、ほとんどの人が家族にプライオリティを置いていて家族をないがしろにするハードワークなんてありえないと考えますが、日本はまだまだ仕事第一の人も多いし。

宗教観を含めた歴史を勉強するなど、彼らの性質を理解するためのコストはどうしても必要ですよね。

山本:私もみなさんと同様で「コミュニケーションコストの高さ」です。事前学習や準備のコストもあるし、相手が流暢な英語で話してくると、「もう1回言って」と聞き返すようなコストもある。加えて、物理的な距離から生まれるコストも。

ITだから「リモートで何でもやっちゃうんでしょ」って誤解されるんですけど、フェイス・トゥ・フェイスで話すのってまだまだ大事で、1度会った人とそうでない人とのコミュニケーションの密度の深さは全然違う。そこに文化の違いが現れてきますね。

弊社ではそういったダイバーシティの中でどうやってインクルージョンしていくのかに注力していて、年に一度「アンコンシャスバイアス」というトレーニングをしています。

これは無意識の偏見を取り除くもので、例えば、男性に「女の子の走り方を真似してください」というと、手を横に振ってよちよち走るんですが、実際の女の子はそんな走り方はしないんです。こういった諸々のコストがグローバル企業特有の苦労かなと。

千代田:私が一番感じている苦労は、時差と地理的な遠さからくるコミュニケーションへのストレスだと思います。

例えば、私の上司はアメリカの Microsoft 本社にいるので、会話はすべて Microsoft Teams ミーティング (オンラインビデオ会議) になるのですが、東京からシアトルまでは時差が 17 時間もあり、両者に都合の良いタイミングを探すだけでも大変です。

また、母国語ではない英語での会話になるため、細かいニュアンスが伝えられないときに悔しい思いをすることも。

これからの日本のIT人材に求められるスキルとは

横田:最後のトピックとして、「これからの日本のIT人材に求められるスキルは?」を挙げさせていただきました。みなさんのリアルな経験とこれからの日本の状況を踏まえて、お答えいただければと思います。

堀口:僕は、「リーダーシップ」を挙げたいと思います。何十人ものスタッフをまとめあげるスキルというよりは、自分の得意を発揮できる分野に積極的に関わっていこう、率先して課題を解決していこうというマインドがある人。

課題解決のソリューションの1つはテクノロジーだと思いますが、プラスアルファでリーダーシップや提案力があると、難題なことでも実現していけるだろうなって。

じゃあ、そのリーダーシップをどう身につけるかというと、心地いい状態から脱して、ちょっと怖いと思うことをやってみること。その積み重ねでスキルが伸びていくと思います。

山本:僕は「発信力とビジネススキル」を挙げました。例えば、答えがないことに対して自分で効果測定ができるKPIを設定して取り組むような仕事って、人はストレスに感じるんですが、マイクロソフトの仕事はそんなことばかりなんです。

そんなとき、ストレスをワーッと発散する人とストレスを飲み込んだうえで、誰かに相談して巻き込む人と二極化している印象があって。後者の人が持っているのが、まさしく発信力。「困ってます」とか「わかりません」と伝えられるのも発信力があってこそ。

もう1つは、立場の違う人とも交渉ができるようなビジネススキル。マイクロソフトでは、大企業の社長さんが「バグがあるから修正しろ」と言ったとして、それをエンジニアに伝えても相手にしてもらえない。

誰が言ったかではなく、数値に落とし込み、どのくらいのビジネスインパクトが生まれるかを踏まえて交渉しなければ誰も動いてくれません。こういったビジネススキルは、IT業界で活きると感じますね。

横田:僕は、あえてみなさんと異なる方向性として「哲学マインドや共感意識感覚」としました。この真意としては、テクノロジーが発展して貧困や疫病等、さまざまな課題が解決しているにもかかわらず、世界規模で見ると自殺率が上昇していて、人々の幸福度は上がっていない。

そんな背景から、経済合理性やテクノロジーよりも、人間の感覚とか意識とかに目を向けて、相手の理解できないところを理解できるように処理したうえで、お互いがハッピーになるタッチポイントを見つけ出すとか、スキルとかけ合わせたハートの部分を大切にできる人がめちゃくちゃ強い存在になるんじゃないかなって。

マイクロソフトの創設者であり、現在は会長を務めているビル・ゲイツさんも、合理性を突き詰めた先に、慈善寄付団体のビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立し、病気や貧困で苦しむ人々のサポートをされていますよね。

千代田:横田さんのコメントに便乗しますが、マイクロソフトを引退してから、ずっと世界最大規模の慈善団体を運営しているビル・ゲイツは、本当に素晴らしい人だと思います。

「これからの日本の IT 人材」について語れるほどスゴスゴエンジニアではないので、お話しするのは恐縮なのですが、あえて言うならば「 知的好奇心」「 情熱」「英語 」の3つだと考えています。

情報技術は日進月歩の世界で、1 年前に流行っていた技術が今はもうビハインドであることなどざらにあります。そのため、IT エンジニアは日々新しい技術を学び続けることが大切かなと。

それを「楽しくできる」ことが一番の素質だと私は思います。そのエンジンとなるのが「知的好奇心」と「情熱」であり、その2つがエンジニアを成長させます。

また、情報技術は日本だけでなく世界で成長しているものであり、英語力があれば世界中から情報がインプットできますし、そもそも大体の技術ドキュメントは英語で書かれています。その点で英語は「必須スキル」とも言えると思います。

取材/文/写真:小林 香織

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