想像以上に深刻な海洋プラスチック問題、モナコやオランダなど環境先進国が見せる本気

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夏の海水浴シーズン、きれいな海を楽しみにいざ砂浜に行ってみるとゴミだらけでがっかりしたという経験はないだろうか。

一説では、毎年800万トンのプラスチックゴミが海に流出していると推計されている。

正確な流出量を測るのはかなり難しいとされており、この数字がどれほど正確なのかは分からないが、日本人にもおなじみのバリ島のゴミ問題などを見てみると、プラスチック汚染によって海洋環境が危機的状況にあるであろうということは容易に察しが付くのではないだろか。

地球の70%を覆う海。海洋環境の悪化は、沿岸・内陸関係なく、地球規模の変化につながることが考えられる。海洋環境は非常に敏感で、プラスチックだけでなく、気温・海水温の変化や水中の二酸化炭素濃度などさまざまな要因によってダメージを受けている。

世界各国ではこうした危機感が醸成されており、海洋環境保護に向けた動きが活発化している。今回は海洋保護をめぐる海外最新動向をお伝えしたい。


インドネシア・バリのプラスチックゴミ問題(2018年12月)

海洋汚染の現状、タバコのフィルターや中国商船からのポイ捨て問題

まず最近発表されたいくつかの調査レポートから、海の汚染状況がどのようになっているのかを紹介しておきたい。

米ワシントンの環境保護団体Ocean Conservancyが2019年9月に発表した世界海岸清掃プロジェクトに関するレポートでは、各国の砂浜でどのようなゴミが多いのかが明らかになった。

同プロジェクトは1986年から毎年世界各国の砂浜で実施される清掃プロジェクト。最新レポートでは2018年の取り組みに関する報告がなされている。

2018年122カ国で実施され、100万人以上のボランティアが参加した同プロジェクト。集められたゴミの重さは計1万トン以上となった。

収集されたゴミのなかで、どのようなものが多かったのか。ペットボトルやビニール袋が多いと予想するかもしれない。もちろんこれらはトップ10に入るゴミではあるが、それ以上に多かったのがタバコの吸い殻、食品包装、プラスチックストロー、フォーク・スプーンなどだ。

タバコの吸い殻は収集されたゴミのなかで最多となった。およそ571万本の吸い殻が収集された。海岸でのポイ捨てに加え、街なか・河川で捨てられた吸い殻が海に流出したと見られている。

ほとんどの吸い殻にはフィルターが含まれている。このフィルター、アセチルセルロースと呼ばれるプラスチックでつくられており、生分解するのに10年かかるといわれている。

クジラやウミガメなど海洋生物がプラスチックを飲み込み命を落とす問題が多発している。吸い殻が海洋環境を脅かす脅威であることは間違いないといえる。

吸い殻は水中だけでなく、地上においても自然界に悪影響を与える可能性がある。

英アングリア・ラスキン大学が2019年7月に発表した研究によると、タバコ・フィルターの成分が土壌に浸透すると、植物の発芽プロセスを阻害することが観察されたのだ。

茎の長さが30%近く短くなり、根の分量は60%近く減少したという。また吸い殻だけでなく吸う前のタバコであっても同じ影響が出ることが確認された。ポイ捨てされるタバコの数は毎年4兆5000億本に上るともいわれており、その影響が懸念されるところだ。

2019年10月に南アフリカの研究者らが発表した論文も海洋ゴミ問題の危機的状況をあぶり出している。

同研究者らが取り組んだのは、南大西洋における海洋ゴミ問題の実態調査だ。アフリカ大陸と南米の間に位置する南大西洋だが、最近アジア圏で製造されたとみられるペットボトルなどのプラスチックゴミが増えており、その原因を分析した。

南大西洋にある離島では漂着ゴミが年々増加している。そのなかでもペットボトルゴミの増加が顕著であるという。このペットボトルゴミのうち75%がアジア圏、特に中国で製造されたものであるというのだ。

当初、アジア圏で捨てられたゴミが海流にのってこの海域に流されてきた可能性が考えられたが、ゴミの製造年月日を分析すると、その可能性は棄却された。もし海流にのって流されてきた場合、5年以上の歳月がかかる。

しかし、ゴミのほとんどは2年以内に製造されたものであることが判明したのだ。こうした状況から研究者らが導き出したのは、この海域を航行する中国商船から投げ捨てられたゴミが原因であるとする結論だ。

商船やクルーズ船の不法投棄による海洋汚染はいま世界各国で批判が殺到している問題。今後さらにこうした事実があぶり出されてくることが考えられる。

環境立国モナコ、サウジアラビアの超高級リゾートと提携

このように海洋環境問題に無関心な人々がいる一方で、これを差し迫る危機と認識し行動を起こす人々が増えている。

環境保全活動に熱心なモナコ公国。同国元首の名を冠する「アルベール2世大公財団」とサウジアラビアの超高級リゾート企業AMAALAの提携は、民間企業がどのように利益と環境保全のバランスを取っていくのか、その道筋を示す1つの事例となるかもしれない。


AMAALAウェブサイト

この提携は2019年10月8日に発表されたもの。

AMAALAは現在、サウジアラビア紅海沿岸でリゾート開発を行っているが、この開発で海洋環境にどのような影響が出るのかを分析し、またその影響を最小化するとともに持続可能性を最大化し、生物多様性を維持するための方策をモナコ公国との提携によって模索するという。

AMAALAは、アルベール2世大公財団のほか、モナコ科学センターと海洋研究所とも提携契約を締結。相互連携によって、サンゴ礁の管理、海洋生物の保護、海洋保護区政策の施行、プラスチック汚染対策の4分野で取り組みを進めていく計画だ。

現在は環境保護団体だけでなく、一般市民の間でも環境意識の高まりが見られ、汚染企業に対する監視の目と批判の声は大きくなるばかり。また、Z世代においては「スクールストライキ」に見られるように、すでに環境問題に対して非常に高い意識を持っている。

SDGsの文脈も手伝い、この先のブランディングを考える際、各企業にとって自然・海洋保全のイメージづくりは必須になってくるはずだ。AMAALAとアルベール2世大公財団の提携は、その先駆けといえるのではないだろうか。

2040年までに海洋プラスチックを90%削減、オランダ発の大胆プロジェクト

オランダ発の大規模プロジェクト「The Ocean Cleanup」も注目すべき取り組みだ。

2040年までに世界中の海に浮かぶゴミの90%を削減しようという大胆なプロジェクト。2013年に当時18歳だったBoyan Slat氏が創設。いまではエンジニア、研究者、コンピュータモデラーなど80人以上の専門家が参加するグローバルプロジェクトに拡大している。

The Ocean Cleanupとデロイトによる共同調査によると、海洋プラスチックゴミ問題によって、各国は経済損失を被っている。ゴミ問題のよる観光、漁業・養殖業への悪影響、また政府の清掃コストなどによる損失だ。さらに600種以上の海洋生物に悪影響が及び、生態系を脅かしている。

The Ocean Cleanupがまず注力するのが「Great Pacific Garbage Patch(太平洋ゴミベルト)」と呼ばれる海域でのゴミ収集だ。

ハワイとカリフォルニアの間に位置する海域で、海流によって海洋プラスチックゴミが集積する場所になっている。その面積は160万平方キロメートルに及び、推定される重量は8万トン。1兆6000億個に上るプラスチックゴミで形成されている。


The Ocean Cleanupウェブサイト

このほど同海域においてThe Ocean Cleanupが開発したゴミ収集デバイスの試験運用が実施され、想定通りゴミ収集に成功したとの報告がなされている。今後本格運用を開始し、5年以内に太平洋ゴミベルトの規模を半減させることを目指す。

テクノロジーが発展したといわれる現代であるが、人類が知り得る海の情報はいまだ5%ほどといわれている。海に関しては依然分からないことだらけ。

人間が想像する以上の恩恵をもたらしていることも考えられるだろう。皮肉ではあるが、今後ゴミ問題をきっかけとして海への関心やその重要性への意識が高まっていくのかもしれない。

文:細谷元(Livit

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