男性もメイクが当たり前の時代に。メンズコスメブランド「BULK HOMME」が辿ってきた成長の軌跡

スキンケア用品、メイクアップ用品、脱毛用品ーーこれまで長年、“女性のモノ”として扱われてきた美容アイテムたち。

だが最近では男性も身だしなみを整える一環として、これらのアイテムを使用するようになってきた。「念入りにスキンケアをする」「肌の悩みを隠すためにファンデーションを塗る」など、こういった光景は珍しくない。

メンズコスメの普及が進むなか、特に認知を拡大するのは、株式会社バルクオムが展開するメンズスキンケアブランド「BULK HOMME(バルクオム)」だ。「メンズスキンケアに関する市場調査(2018年度)」通販部門のハイクラスカテゴリーを見ると、ブランド別売上・シェアランキングにおいて、1位を獲得している(TPCマーケティングリサーチ株式会社の調査より)。

2013年からブランドを展開してきたバルクオムは、成長し続けるメンズコスメ業界をどのように見ているのだろうか。また、バルクオムがメンズコスメを通して目指す未来とは。同社代表取締役 CEOの野口 卓也氏(以下、野口)に伺った。

20代後半からの男性の悩みをサポートする「BULK HOMME」

「メンズスキンケアブランド世界シェアNo.1」というビジョンを掲げ、アイテムを展開する「BULK HOMME(バルクオム)」。2013年のブランド展開当初は、洗顔料・化粧水・乳液という3ステップのスキンケア用品を販売した。以降、年に1〜2回のペースでアイテムを新しくリリースし、製品ラインアップを拡大している。

バルクオムの製品は、全国の小売店や美容サロン、ECサイトで販売されている。特に多いのは、SNSに掲載された口コミや広告をきっかけにして、ECサイトで購入されるパターンだ。写真が重要視されるSNSのなかで、シンプルで洗練された製品パッケージは、「お風呂場や洗面台に置いても絵になる」と好評を集めている。


バルクオムが展開するスキンケア製品

そんなバルクオム製品のメイン購買層は、20代後半から30代前半にかけての男性だ。

野口「購買層が若い理由は、年齢による肌の変化が関係しています。28歳くらいになると、男性も肌が衰えてきたことを感じやすくなるんです。仕事に打ち込むなか、ある日鏡を見たら『あれ? ちょっと老けてきたかもしれない』と。こうして肌に問題意識が芽生えて、バルクオムを使っていただくことが多いですね」

当たり前じゃなかったことを日常に。少しずつ変化をするメンズコスメ業界

小売店にメンズスキンケアのコーナーが設置され、大手コスメブランドもメンズラインを展開し、YouTubeにメイク動画をアップロードする男性が続々と登場。そんな世の中の流れを見ていると、メンズコスメ業界はここ数年で急激に伸びているように感じる。

しかし、野口氏によると、あくまでもジワジワと成長してきた業界なのだという。

野口「バルクオムがスタートしてから今年で7年目ですが、当時から『メンズコスメ業界は伸びていますよね。追い風じゃないですか』と言われるんですよね。でも、僕は毎回『そうかな?』と思っているんです(笑)。メンズコスメブランドや製品が増えてきて、選べるバリエーションも増え、少しずつ着実に伸び続けている業界なんですよね。決して爆発的な流行に乗ったわけではないんです」

まぐれでのヒットではなく、確実にユーザーを増やしてきたバルクオム。なぜ、成長できたのだろうか。

野口「さまざまな要因があると思いますが、女性の社会進出が大きなカギになっていると思います。社会において女性の居場所が大きくなり、男性は女性の目を気にする機会が増えた。そして、『クマが濃い』『髪がボサボサ』のような見た目に関するコミュニケーションを日常的にとる機会も増えました。そのため、見た目を整えたい、というニーズが出てきたのだと感じます」

確かに、女性の目を気にして見た目を整える、という男性も多いだろう。では、一気にメンズコスメが普及しない理由とは何だろうか。野口氏は、こう答えてくれた。

野口「20年間、30年間生きてきたなかで、それぞれがお決まりのライフスタイルを構築しています。そこに何かを新しく習慣づけるのは、なかなか難しいことです。今までスキンケアについてあまり気にしていなかった男性が、スキンケアに時間をかけて、乳液まで塗って……と新しいルーティン作業を取り入れるのは、そう簡単ではないのです。

そのため新しく市場に登場したアイテムは、すぐに普及するというよりも、少しずつ生活に浸透していきます。こうしてメンズコスメは、ゆっくりと男性の美容に関する課題をサポートしてきました」

習慣になっていない新しい行動をいきなり自分の生活に取り入れることは、誰にとってもおっくうなことだろう。ランニングや毎日の読書も三日坊主にしてきた筆者にとって、その難しさは痛いほどわかる。

そんなユーザーたちに向き合い、製品の魅力をアピールし、使用後の世界をイメージさせながら、メンズコスメ業界は少しずつ成長を遂げてきた。

「永遠に試行錯誤することのみ」バルクオムの製品戦略とは

2019年9月30日には、シリーズ累計出荷数が350万本、国内累計取扱店舗が1,000店舗を突破したバルクオムの製品。ジワジワと伸び続けるメンズコスメ業界において、野口氏は「業界を引っ張ってきた自負があります」と語る。

野口「この業界で起業するきっかけになったのは、『メンズコスメといったらこのブランド』という絶対的なポジションが空いていたから。ブランドを開始した2013年当初、デジタルマーケティングに力を入れているメンズコスメブランドはほぼありませんでした」

ブランドを立ち上げると決めてからは、女性用や海外ブランドも含め、約100万円分のスキンケア製品を購入したという野口氏。デパートや薬局、ECサイトなどから買い集め、「店舗での製品の置かれ方」「販売員の説明の仕方」「イチオシ製品かサブ製品か」「梱包方法」「使い心地と口コミの比較」といった仮説を検証した。徹底的にユーザーの感覚をインストールしたのだ。

製品を発売してからは、正直2年間は全く売れなかったという。口コミが集まる仕組みを作ったり、インフルエンサーに協力してもらったり、さまざまな戦略を打っても鳴かず飛ばず。

しかし、諦めそうになりながらも、「まだやるべきアクションは残っている」とできる施策をやり続けた。

野口「少しずつ軌道修正しながら長い道のりを歩んできました。試行錯誤するなかで、しんどいと思ったことは数え切れないくらいあるけど、地道にやってきましたね。バルクオムの強みは、永遠に試行錯誤していることなんです。『このパターンが成功するだろう』と決めつけず、とにかく全パターンを試してみる。

僕、自分の感性でやらないことを大切にしていて。自分の感覚が大多数にヒットするという考えは的外れだと思っているので、リサーチも戦略立ても徹底的にやりました」

多くの消費者に製品を届けたくば自分の感性は捨て、できることをやりきるのみ。これがバルクオム流ビジネスの原点だ。

男性もメイクで理想を叶えられる世の中を目指す

「将来的にはメンズコスメラインも展開したい」と語る野口氏。バルクオムのメンズコスメは、どのような体験をユーザーに提供するのだろうか。

野口「美意識が高い日本人男性は、肩身が狭いんです。筋トレしてマッチョになったらナルシストだと言われるし、プチ整形をしたらコソコソ言われるし、メイクをしたらおちょくられる。だから、美容に関して何か一歩を踏み出そうと思ったとき、『変な目で見られないだろうか』とナイーブになってしまいます。

一方で、韓国ではエンタメ文化に力を入れて韓流スターを育て、男性がメイクをする文化を構築し、韓国人の男性が世界でモテるようになりました。だから、長い目で見たときに、日本人男性もメイクをしてかっこよくなっていたらいいなと。そんな文化を作るために、メンズコスメラインを展開したいと考えています。

美意識が高い男性が過ごしにくい世の中は、突破しなければならない。時間をかけてでも、実現するべき未来だと思います。『きれいになりたい』と思う男性が、メイクで“理想の自分”を叶えられるよう、バルクオムが背中を押していきたいです」

ここ数年、美容に目を向け、スキンケアにお金をかける男性が増えた。そして今、ジェンダーレス男子という言葉が登場し、メイクをする男性が増えている。しかし、まだ少数派なのが現状だ。

心のどこかで「きれいな自分でいたい」と思っている男性が、それを叶える手段のひとつとして、メイクを選びやすい世の中を作ること。これこそ、自由に生きやすい時代を切り拓くきっかけになるのではないだろうか。

取材・文:柏木まなみ
写真:西村克也

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