プラスチックごみがうれしいモノに変身。アプローチ法を変えてプラスチック汚染に対抗

地球温暖化と並び、現代に生きる私たちが抱える大きな環境問題がプラスチック汚染だ。

生活上便利なために、水や石油といった貴重な資源を大量に使い、年に3億トンものプラスチック製品が生産されている。しかし、分解に百年単位の時間を要するために、廃棄時の問題は深刻だ。

世界的にみて、ごみ処理場に持ち込まれたり、海をはじめとする自然環境に流れ出すプラスチックごみは79%を占め、リサイクルされるのはわずか9%。各国でさまざまなプラスチック汚染対策が進められているものの、らちが明かない。

そこで、市民にリサイクルに協力してもらうための目先の変わったアプローチが行われ、注目を浴びている。ペットボトルなどの使用済みのプラスチック製品と引き換えに、協力者に即刻、目に見える形でメリットが生じるというものだ。


イタリア、ローマの地下鉄駅にある+レチクリ+ヴィアジのペットボトル回収機
© Ambiente Mare Italia

ごみが増加する観光シーズンにペットボトル回収機登場

今年7月にイタリアはローマで試験的に始まったのが、ペットボトルと引き換えに、地下鉄運賃の割り引きが受けられる「+レチクリ+ヴィアジ」だ。

ペットボトル回収機を3駅に3台ずつ設置。スマートフォンにダウンロードした、専用アプリなどのバーコードを回収機がスキャンし、利用者はボトルを所定のスロットに入れるだけだ。チケットや定期券でも利用できる。

1本リサイクルすると、0.05ユーロ(約6円)。例えば、1.50ユーロ(約180円)のチケットであれば、ボトル30本分ということになる。次の乗車ですぐその0.05ユーロを使っても、アプリやチケット内に貯めてもいい。

設置後約1カ月の間に、+レチクリ+ヴィアジを通して35万本のボトルの回収に成功した。2017年調査の欧州ボトルウォーター連合の発表によると、イタリアで1年間に消費されるボトル入りの水の量はEU諸国で一番。

1人あたり188リットルに上るそうだ。回収機がすえつけられた7月は多くの観光客が訪れるシーズンだ。おまけに熱波にも襲われ、ボトル入りの水の消費量もごみの量も、特に増えたことは想像に難くない。

交通機関の運賃と交換してプラスチックごみを抑制

ペットボトルのリサイクルと、公共交通機関の乗車代を交換するシステムはほかの国でも取り入れられている。

例えば、トルコのイスタンブール。回収機は「スマート・モバイル・ウェイスト・トランスファー・センター」と名づけられ、昨年末までに市内25カ所に100台がすえ付けられた。

ボトルのサイズや材質によって、得られる金額は違い、『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、乗車代金を無料にするためには、通常サイズのボトル24本以上が必要だそうだ。多くの場合、交通パスに貯めてから利用されている。

回収機の設置は、整備がまだ行き届かないリサイクルのシステムを補填したり、リサイクル意識があまり高くない人々を啓発したりといった意味がある。

またEU加盟がお預けとなり、国内の政治・経済状況が悪化した情勢下で、人々はペットボトルなど廃棄物のリサイクルを通して得られるのであれば、少額でも無駄にしたくないという心理が働いても不思議はないだろう。

一方、海洋におけるプラスチック汚染源第2位の国、インドネシアでも、昨年プラスチックごみのリサイクルと引き換えにバスの乗車券を入手できるスキームが始まっている。国内第2の都市スラバヤでは、プラスチックカップ10個、もしくはペットボトル5本で、バスに2時間乗ることができる。

使用済みプラスチックをバスターミナルに持参し、チケットを受け取るか、バスに乗り込んだ際にお金の代わりに運転手に渡すかする。

1台のバスで1日に250キロ、1カ月で7.5トンのプラスチックのリサイクルができるそうだ。回収したプラスチックはリサイクル会社で競売にかけられる。そこで得られた資金は、バスの運行や市内の緑化に役立てられている。


英国リーズのメリオン・センターの駐車場入口
© CitiPark

駐車場代やスーパーのポイント、現金にも

英国北部の都市、リーズにあるショッピングセンター、メリオン・センターでは、昨年に引き続き、今年も1カ月限定ながら、10月にペットボトルで駐車料金を支払うことができる、「ペイ・フォー・パーキング・ウィズ・プラスチック」リサイクリング・スキームが行われた。駐車場を管理するシティパークの主催だ。

昨年は500ミリリットル以上のボトルが、今年は使い捨てレジ袋が対象となった。ペットボトルの場合、1本あたり20ペンス(約28円)分の駐車料金になる。

駐車場の係員に直接手渡すと、割引バウチャーが発行される仕組みだ。回収されたプラスチックの使途は、昨年にはさまざまな製品の原材料として、今年は地元の学校の教材として有効に利用されている。

また、スーパーマーケットでも同様のシステムが取り入れられている。テスコでは、「デポジット・リターン・スキーム」を採用。

店舗に設置した回収機にボトルを入れると、1本あたり10ペンス(約14円)の現金を返してくれる。アイスランドでは買い物バウチャー、モリソンズではポイントプログラムのポイントとして、還元されている。


インドはアッサム州にあるアクシャー・ファンデーション・スクールの子どもたち。使用済みプラスチックを持参した
© Akshar Foundation

環境問題、貧困問題の両方に役に立つ

プラスチックごみの回収・リサイクルが行き届かない国や都市の多くは貧困問題も抱えている。この両方の問題を一度に緩和しようというアプローチも登場した。

インド北東部に位置するアッサム州のパモヒにあるアクシャー・ファウンデーション・スクールでは、学費の代わりと称し、週に25個以上の使用済みプラスチック製品を生徒に持ってきてもらっている。

実際は、慈善団体運営の学校なので、学費は学校側が負担しているが、プラスチックを持参することで、親に学校に貢献しているという意識が生まれ、コミュニティの結束に役立っているという。

生徒から提供されたプラスチック製品は、リサイクルやアップサイクルの方法などを学ぶ際の教材の一部となる。

児童労働が習慣化し、教育が後回しになる傾向が強い貧困家庭でも、使用済みプラスチック製品であれば、学校に貢献できる。学校で教える内容は実社会に根ざしており、卒業後より多くの収入を得るのに役立つため、親も子どもを同校に通わせるそうだ。

このシステム導入時の2016年にはわずか20人しかいなかった生徒が、現在では100人以上に増えた。首都、デリーへも進出することが決まっている。

また、同国中部にあるチャッティスガール州アンビカーブルで、つい先だって始まったのが、「ガーベージ・カフェ」だ。

1キロのプラスチックごみを持ち込むと、カレーと白飯、レンズ豆とパパダムといった食事、500グラムであれば、サモサやレンズ豆のドーナツ、もしくは具入りのフラットブレッドといった朝食と交換してくれる。これらプラスチック製品は路面舗装に再利用される。

一方、フィリピンはマニラ首都圏内にあるモンティンルパ市のバヤナン村では、2キロのプラスチックごみを、1キロの米と引き換えることができる。

フィリピンでは国民食といえる米1キロの価格は30~40ペソ(約60~80円)。貧困層の人々にとっては高い買い物だ。回収されたプラスチックは、政府所定のリサイクル施設でリサイクルされる。

使用済みプラスチック製品は、捨ててしまえば、ただのごみに過ぎない。しかし、リサイクルすることで、単なるごみではなく、価値あるものに変わり得る。公共交通機関のチケット代や、駐車場代、米、そして現金になるのだ。

プラスチックと物品やサービスの交換というアプローチを通せば、どんな人にもそのことがわかりやすい。そして何より、プラスチックが回収され、再利用されれば、ごみが減る。地球がきれいになるということは、「価値ある」以上の意味がある。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit

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