「音声が新たな価値を生み出す」Voicyが見据える音声ビジネスの“未来”とは

音声市場が世界的にHOTな市場だということをご存じだろうか。

近年テレビCMなどで見かけるスマートスピーカー。日本では約6%にも満たない普及率だが、アメリカでは成人人口の1/4強が所有している。作業中や移動中に“ながら”でコンテンツを消費する人も増えてきた。音声コンテンツの数も増加傾向にある。

スマートスピーカーの普及率を見てもわかるように、音声ビジネスは日本ではあまり浸透していない市場だ。しかし、世界から見るとこれから伸びてくることが期待できる。

この市場にいち早く目をつけ、サービスを提供している日本企業がある。株式会社Voicyだ。同社が運営するボイスメディア『Voicy』は、サービスから開始から3年で数十万人のリスナーを抱えるサービスに成長している。先日2019年10月にはCI(コーポレート・アイデンティティ)をリニューアルし、話題を呼んだ。

そんな同社の代表取締役CEOである緒方憲太郎 氏に、音声ビジネスに力を入れる理由と、音声市場の未来、そしてCI変更したVoicyの今後について伺った。

パーソナリティの“そのまま”を届けるボイスメディア『Voicy』

株式会社Voicyのメイン事業となるボイスメディア『Voicy』は、各業界で活躍するパーソナリティがスマホ一つで音声コンテンツの放送ができ、リスナーはそれを無料で聴取(リスニング)できる。


VoicyのWEBサイト

専門家やその道のプロ、ミュージシャンや著名人などのパーソナリティによる、“声のブログ”やニュースをラジオのように聴けるサービスだ。放送されているコンテンツはすべて無料で聴取が可能となっている。

緒方「Voicyは人を届けるメディアです。本人が思ったままの言葉、抱いたままの感情を尊重することで、思想が理解できたり、聞けば聞くほどファンになったりできる。雑音が入っても構わない、話している途中で躓いたっていい。パーソナリティの個性をそのまま届けるメディア、という世界観を持っています」

キングコングの西野さんや転職アンテナのmotoさんなどの著名人もパーソナリティとして利用している。現在、Voicyのチャンネル数は250を超えており、20~30代を中心に性別問わず利用者数を伸ばしているメディアだ。

音声コンテンツがまだ見ぬ才能を誕生される

Voicyはサービス開始から3年間で320万ユーザーにまで成長している事業だ。「社会に音声の面白さを提案したい」そんな想いから始まっている。

緒方「世界の市場から見て、将来確実に音声の時代が来ると思っていました。しかし、当時はまだ音声に注目されていなかった。そこで、まずは多くの人に音声の面白さを届けたいと考えました。中でも特に、“トーク”に重点を置けば、面白いコンテンツが沢山つくれると思いました。

というのも、人が何かしらの情報を発する上で、どんな方法を一番多く使っているか。おそらく多くの人は声を使って発しているでしょう。ところが、今の日本は文字(SNS)か映像(動画)コンテンツで情報を発信している人ばかりがもてはやされています」

人が情報を発する方法は2つしかない。手でつくる、口でつくる、この2つだ。

手(文字や映像など)では、情報を発する本人でなくてもつくれてしまうことがある。他の人が代筆したり、つくったものに編集を入れたりできる。そのため、手でつくった情報を多くの人へ届ける場合、発する人そのものの魅力ではなく、見せ方の魅力が重要だ。

では、口(トーク)はどうだろうか?台本などを使わない限り、情報を発する本人でないと、言葉はつくりだせないはずだ。口でつくったものを多くの人へ届ける場合、発する人そのものの魅力が重要になる。

緒方「文字を書く、映像をつくる…これらの時間より、声を使って話している時間の方が確実に多いはずです。つまり、単純に考えて口で情報をつくることに慣れている人の方が多い。にも関わらず、その力を活用できるマーケットがほとんどなかった。

手でつくることはできないけど、口でつくることならできる人はきっと世の中に沢山います。そういう人たちを、コンテンツマーケットに引っ張り出すことで、音声の面白いコンテンツを沢山生むことができる、そう考えたんです」

市場の開拓の鍵は「価値の置き場所をつくること」

しかし、日本の音声市場は未だに開かれていない。その一方で、冒頭に記載したように世界の音声市場は大きな盛り上がりを見せている。

特にアメリカの音声市場は右肩上がりだ。Apple社の音声サービス『Podcast』を活用して情報発信する“Podcaster”には年収1億円以上稼ぐ人が何人もいるほど。アメリカの大手新聞社もPodcastを活用して音声サービスを出している。大手IT企業も社内で音声配信をしているという。

緒方氏曰く「今世界で一番HOTなマーケット」。レッドオーシャンであり、誰もが入り込みたい市場なのだ。

ところが、日本では前述した通り、まだまだ市場は開けていない。世界的に見れば大きな市場かもしれないが、日本でサービスを進める以上、開拓されていない市場に参入することはリスクともいえる。しかし、緒方氏は違った。「音声市場をつくりたいと思って始めたんです」というのだ。
市場をつくるため、世の中に価値を感じてもらうにはどのような方法があるのだろうか。その方法は3つあると話す。

●ペインを解消する
「手間を減らす」「コストを減らす」「不安事項を減らす」これらは目に見えて価値を感じてもらいやすい。

●もともと価値あるものを世の中に認知させる
「効能を伝える」「美味しさを伝える」「機能性を伝える」価値を上手く伝えることができればブームになるという。

●誰も価値があると思っていないものを生み出して当たり前にすること
インターネットやスマートフォンように、何もないところから創造する。難しいことではあるが、最初はまやかしだと思われていたものが価値として気づいてもらえた時、とても大きな市場が生まれる。

緒方「僕らがやろうとしているのは、2つ目と3つ目の間です。話すことが好きな人、面白い話を聞きたい人は世の中に沢山います。話すこと(音声)の価値はすでにあるわけです。なのに、話すことを評価し合える場所が今までなかったし、そんな場所が必要なのか考えてもいなかったと思うんです。

なので、今すでに見えている価値を最大化して、そういう場所が必要なんだと世の中に気づかせる。この方法で音声市場をつくろうと考えました」

音声市場の未来は明るいのか

Voicyは現在、創業4年目。この3年間の中で「音声は人々の生活を変えられる」そう確信を持つことができたという。さらに「音声市場は驚くほど伸びる」と述べた。

緒方「スマートスピーカーが普及していく流れと、インターネットやスマートフォンが普及していく流れがとても似ています。昔は情報を得るためにテレビやラジオが主流でした。インターネットが初めて出てきたとき、誰も使わないと思っていた。ところが、今ではテレビやラジオより、圧倒的にインターネットに情報がある。

今ではみんながインターネットを使います。
携帯電話(ガラケー)がスマートフォンに変化したのも同様です。ガラケーよりスマホの方が便利な機能が増えた。よって、大半の人がスマホを使う。

インターフェースが近づけば近づくほど、人は便利さを感じます。スマートスピーカーというのは、スマホよりもインターフェースが近いんです。声をかけるだけで目覚ましを設定してくれる、天気を教えてくれる、ニュースや音楽を流してくれる。わざわざアプリを開く手間がない。

スマートスピーカーが持ち運べるようになったり、利用できるアプリケーションが増えたりして、今以上に便利になれば、一気に普及が進むはずなんです」

朝起きて出社するまでの時間、スマホなどの画面を見ずに必要な情報が得られたら、面白いコンテンツに触れられたら、おそらく多くの人が利用するだろう。音声コンテンツがムーブメントを引き起こす未来は、そう遠くはないのかもしれない。

音声市場のリーディングカンパニーとして成長するフェーズ

音声コンテンツの明るい未来が見えてくる中、先日2019年10月にVoicyはCIの変更を発表した。「時代の変化に伴い、Voicyも音声市場のリーディングカンパニーとして成長するフェーズに来た」と語る。


Voicyの新CI

緒方「これまでは誰に価値を感じてもらえるか分からないけど、とにかく世の中に認知してもらいたいとサービスを打ち出していて。声の持つ温かさからサービスの価値を感じてもらいたい、そんな想いを以前のCIには込めました。

有難いことに、その価値を感じてもらえるようになってきた。より価値を世の中に浸透させたい、音声が社会のインフラとしての価値を持っていることを伝える企業にしたい。

僕たちのアイデンティティ(存在意義)を世の中に伝えて、しっかり行動に移せるように。そんな覚悟を持って、CIの変更を行いました


新旧ロゴ比較。上が旧ロゴ、下が新ロゴ

CIの変更に際し、ロゴの変更も行った。コンセプトは『Love Tap Voice/声に手を添えよう』。
音声サービスのロゴは、波形や口のマークが多い。音声を発する側のみをターゲットにしているように感じられる。

しかし、Voicyは、発する人と同時に聞く人にも音声の価値を感じてもらいたいという想いを持っている。

緒方「誰かに大事な話をするとき、たくさんの人へ話を届けるとき、口に手を添える。そして、声を逃さずに聞こうとするときも、耳に手を添える。話す側、聞く側、どちらの魅力を最大級にするために添える手のような存在になりたいと考えました。

そして、温かいサービスであり続ける、世界中に音声の文化を根付かせたい、この想いから、ハートにも芽にも見えるようなイメージのロゴにしました」

そして、CIとロゴの変更に対して、緒方さんはこんな考えも持っていたと話した。

緒方「変化のないことほど不安定なことはない。時代の変化に合わせて、会社も変化させていく。変化した中で、全力で挑戦する。その経験で培われたスキルや感性は、どんな場所に行っても武器として役に立ちます。

どんな時代になっても生きていけるような会社にしたいし、どんな会社になっても生きていける人であってほしい。そんな会社になれれば、音声コンテンツの時代をつくり上げるために、常に面白いものを生み出していけると思うんです」

音声で人を豊かにするマーケットを目指して

そんなVoicyは、今後どのような想いを持って、どのような景色を見せてくれるのだろうか。緒方さんが力強く語ったのは「人を豊かにするマーケットをつくりたい」という想いだ。

緒方「人の中毒性に刺すサービスが多いように思っています。アイドル、声優、アプリなど一部のターゲットに重課金させるマーケットが増えている。これらの市場って、現実逃避のためにお金を使っていて、実生活が豊かになっているかと考えると正直分かりません。

そんな時代だからこそ、お金を出せば同等の、もしくはそれ以上に心が豊かになるようなサービスをつくりたい。サービスに触れることで世の中を知れる、仕事に活かせる、生活が豊かになる、そんな市場を音声コンテンツを通じてつくっていきたいと考えています。

そして、その市場の中で活躍できる人を増やしていきたい。そのための場、コンテンツをとにかく開発したいと思っています」

簡単な道のりではないだろう。しかし、変化する覚悟を持っているVoicyだからこそ、新しい市場を生む企業に、時代を変える企業になるのではと期待してしまう。

緒方Voicyがあった時となかった時の世の中の差が大きくなるような会社にしたいです。その道のりには、苦しいことも辛いことも絶望を感じることもあるでしょう。

でも、失敗しても諦めずに乗り越えたら、会社も働くメンバーもたくましく育つ。強くなったとき、思いもしなかった良いものがつくれると信じています。良いものがどんどん生まれていけば、社会にワクワクを生み出せるはず。

そんな音声市場をリーディングする会社を目指します。きっと、喜んでくれる人はいるんじゃないですかね」

取材・文:阿部裕華
写真:西村克也

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