売上10兆円・従業員70万人以上、インド最大の企業グループ「タタ・グループ」の影響力

インドGDPの10分の1、3大財閥の影響力

インド最大級のECサイトFlipkartやSnapdeal、配車サービスOlaなどこのところインド発ユニコーン企業への注目が高まっている。

アップル、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、アマゾンなどの米テック大手がこぞって投資を拡大しており、インドのテクノロジー市場はさらに活況する公算が大きい。

こうした動きがメディアでよく取り上げられることから、インドのスタートアップの動向はかなり広く知られるようになったといえるだろう。

一方、スタートアップではない既存企業についてはあまり語られていない印象がある。

しかし、インドでは強い影響力を持つ企業グループがいくつか存在しており、これら企業の動向知らずして、インド経済へのインサイトを深めることは難しいといえるかもしれない。

特に財閥の動向は無視できないものだ。インドでは3大財閥が幅を利かせている。1つは「アディティア・ビルラー・グループ」。

1857年創設、現在世界34カ国で事業を展開し、12万人以上の従業員を抱えている。鉄鋼、アパレル、海運、金融、通信などを手掛け、2019年売上高は483億ドル(約5兆2,000億円)と推計されている。売上高で見ると、3大財閥のなかでは3番目に位置している。

ビルラーに次いで規模が大きいのが「リライアンス・グループ」。石油化学、小売、インフラ、バイオテクノロジーなどを手掛けており、2019年の売上高は900億ドル(約9兆7,000億円)を計上。従業員数は19万4,000人。

3大財閥で最大とされるのがタタ・グループ。日本でもその名をしばしば聞くことがあるのではないだろうか。売上高(2018年)は1,107億ドル(約12兆円)、従業員数は70万人以上。

その中核を成すのは、ソフトウェア開発やITコンサルティングサービスを提供するタタ・コンサルタンシーだ。インドの技術立国化の取り組みにおいて非常に重要な役割を果たしている。

インドのGDPは2兆6,000億ドル(約280兆円)。3大財閥の売上高は、GDPの10%近い割合を占めることになる。また、従業員数も3大財閥合計では100万人を超える。こうした数字から、インド経済における3大財閥の影響力を感じることができるはずだ。

以下では、インド最大の財閥タタ・グループの詳細に迫ってみたい。

スタートアップ時代のタタ、創業者は29歳の若者

日本でもインド関連のニュースにおいて「タタ」という言葉はしばしば登場することがある。おそらく自動車関連ニュースで「タタ・モーターズ」という名前がよく登場しているのではないだろうか。

タタ・モーターズはタタ・グループ傘下の自動車会社。時価総額で見るとタタ・グループのなかでは3番目に位置している。このほかタタ・グループは、鉄鋼、化学、ホテル、飲料、情報通信などに特化した企業を傘下におさめている。

当たり前のことだが、この巨大企業グループも設立当初は小さなスタートアップだった。

タタ・グループが創設されたのは1868年。当時29歳だったジャムシェトジー・タタ(1939〜1904年)がムンバイで始めた貿易会社が起源となる。

1869年、彼は破産した製油工場を買い取り、2年後にコットン工場として売却、利益を得ることに成功。その後、内陸部のナーグプルで本格的なコットン事業開始。


切手に描かれているジャムシェトジー・タタの肖像

当時、ナーグプルはムンバイに比べ発展が大きく遅れており、タタの投資はうまくいかないだろうと揶揄されていたという。しかし、安い土地などコストを大幅に下げることができたタタは、ナーグプルでのコットン事業で大きな成功を収めた。

コットン事業が成功したタタは、人生における4つの目標を掲げ、それを実現するために邁進することになる。4つの目標とは、鉄鋼会社の設立、世界レベルの教育機関の創設、ホテルの創設、水力発電所の建設。

結果、タタの生前に実現したのはホテルの創設のみとなった。1903年にムンバイで開業した高級ホテル「タージ・マハール・ホテル」がそれだ。


タージ・マハール・ホテル

タタの目標は彼の死後、息子たちに引き継がれ実現されていく。鉄鋼会社に関しては、1907年に設立されたタタ・スティールによって実現。

1909年にはタタ・グループの支援によってインド理科大学院(IISc)が創設された。これに続く1910年には水力発電事業を行う「タタ・水力発電パワーサプライ」が設立され、彼が掲げた4つの目標はすべて達成された。

タタ・グループは創設以来、歴代8人のリーダーが企業を率いてきた。この歴史のなかでもっとも急速に規模が拡大したのは、4代目JRDタタの時代(1938〜1991年)だったと思われる。

ジャムシェトジー・タタの甥の息子にあたるJRDタタ。彼の任期、タタ・グループの規模は1億ドルから50億ドルに拡大。タタ航空サービスやタタ・モーターズ、さらにはタタ・コンサルタンシーが設立された。

タタ・グループの中核「タタ・コンサルタンシー」

さまざまな事業を手掛け、多くの企業を傘下に持つタタ・グループ。財閥というと重工業のイメージが先行するが、タタ・グループの中核を占めるのはデジタルテクノロジー分野のサービスを手掛けるタタ・コンサルタンシーだ。

2019年の売上高は209億ドル(約2兆2,500億円)。従業員は43万人以上。インド国内だけでなく、海外にも積極的に展開。46カ国で285カ所にオフィスを構え、21カ国で147カ所のデリバリーセンターを運営している。

2014年には三菱商事グループと提携し、日本タタ・コンサルタンシーを設立し、日本での新卒採用を開始した。


タタ・コンサルタンシー(カナダ・オタワオフィス)

タタ・コンサルタンシーの主要事業は、アプリの開発・保守メンテ、企業向けソリューション、BPO、ITインフラサービスなど。

最近はAIにも力を入れており、地元メディアによると同社のAIプラットフォーム「Ignio」の売上高はこのほど6,000万ドルに達したとのこと。年内には1億ドルに達する可能性もあるという。

インドはこれまで欧米テック企業のオフショア開発拠点として発展してきたが、このところ上流工程における力をつけているといわている。

インド発のグローバルイノベーションが起こる素地が整いつつあるということだが、この点においてインド最大のIT企業タタ・コンサルタンシーが重要な役割を果たすことになるのは間違いないといえるだろう。

米中貿易戦争の激化にともない世界の関心度が高まるインド。Flipkartなどのスタートアップに加え、タタ・グループなどの大企業がどのようにインド経済を盛り上げていくのか、その動向に注目していきたい。

文:細谷元(Livit

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