近年、金融・不動産・製造業などの長年アップデートがされてこなかった、いわゆる「レガシー業界」が急速に変化している。テクノロジーを活用し、業界の構造を変えようとするスタートアップが急増しているのだ。
レガシー業界のなかでも特に社会的意義が強く、かつ参入、アップデートともに難易度の高い分野がある。それは、医療だ。
様々な法規制が設けられており、かつ人の命に直結する分野のため、生半可な気持ちでの参入はかなり難しい。病院や医療機器メーカーなど、既存プレイヤーとの関係性構築にもそれなりの労力が必要になってくる。
そんなハードルの高すぎる医療業界に挑むスタートアップは、どのような勝ち筋を描いているのか、そして、それを実現する体制を提供しているマイクロソフトとの関係性とはどんなものなのか。
医療系スタートアップとして急成長中のT-ICU 代表取締役社長/医師 中西智之氏(以下敬称略)、TXP Medical 代表取締役 園生智弘氏(以下敬称略)、きりんカルテシステム 代表取締役社長 山口太一氏(以下敬称略)の3者を招き、参入の動機と事業戦略について語ってもらった。
なぜ、難易度の高い医療スタートアップに挑むのか
――各社の事業内容と、起業に至った背景を教えてください。
山口:きりんカルテシステムは、クラウド型の電子カルテを無料で提供しています。特に診療所の領域ではまだまだ電子カルテが導入されておらず、普及率は4割程度に留まっています。普及が進まない要因は様々ありますが、大きな要因としてはコストが挙げられます。
電子カルテは高額で、小規模の診療所ではなかなか導入が難しいんです。紙のカルテのよさもありますが、過去のカルテを閲覧参照したり、物理的に管理することは紙だと大変です。また、病院間や診療所間で患者情報を共有することが今後さらに進んで行くと思いますが、その時も紙だとかなり難しい。
電子カルテを導入すればそれらの問題を解消できるため、規模に関係なく電子カルテがあたり前、となった方が良いと考え、それなら、いっそ無料で提供すればいいのではないか。そう考えたのが始まりです。
――山口さん自身も、創業者である永用 万人氏も、他業界から医療に挑戦されていますよね。お二人のように、他業界からで飛び込むような起業家が増えている感覚はあるでしょうか。
山口:増えていると思います。特に若い世代には、どれだけ社会に貢献できるかを基準に職を選ぶ方が増えていると感じていて。実際、当社のエンジニアの多くが「自分のスキルを社会課題の解決に活かしたい」と高い志を持って入社してくれています。
T-ICU 代表取締役社長/医師 中西智之氏
中西:T-ICUは、遠隔で集中治療ができるサービスを提供しています。遠隔でICU専門医を配置し、現場にいる医師たちから提供された患者の情報をもとにアドバイスを実施します。現場の医師や看護師の負担軽減を実現するサービスです。
僕自身、ICUの専門医として様々な現場を見てきましたが、日本はICU(集中治療室)の数に対し、専門医が圧倒的に不足しているんです。
以前に比べれば大手病院では徐々に人材が充実してきたのですが、小規模の病院では依然人材が不足しています。
その課題を解消するためには、遠隔治療の導入がベストだと考えました。アメリカでは、20年前から遠隔集中治療が導入されており、かなり普及しています。アメリカの遠隔ICUでは、ドクターと1名と3~4名のナースでチームを形成し、1チームで平均200ベット程度をカバーします。日本の小規模の病院は大体6ベッドほど保有しているところが多いので、30院分のICUをドクター1名でカバーできることになります。
もちろんアメリカと日本では医療事情が異なるので、そのまま横展開できるわけではありません。しかし、遠隔ICUを導入することで、現場の状況は確実に改善できるため、この事業に取り組んでいます。
園生:TXPメディカルは、国内の大規模救命センター向けに救急外来に特化した、患者情報記録・管理システムを提供しています。このシステムによって、患者情報の記録、スタッフ間の情報共有、研究用データ蓄積の効率性向上を実現し、ITを用いた患者・医師・病院の三方良しの新しい救急医療体制を提案しています。
救急外来というと、医療の中ではすごく特殊で、狭い範囲とイメージされている方が多いかもしれませんが、実態は真逆です。
入院患者の約3分の1は、救急外来を経由して入院しているんです。救急車やドクターヘリで運ばれる方だけでなく、風邪で病院に来たとか、じんましんが出たから病院にかかったとか、そのようなケースも救急外来の範疇です。救急外来は病院の外と中をつなぐハブであり、医療のもっともベーシックな部分を担っています。
ただ、ベーシックな部分であるにも関わらず、仕組みが洗練されていない。膨大な事務作業に負われ、現場従事者はみな疲弊しています。
患者に関する書類の処理や記録作成に追われているケースがほとんどなのですが、そもそもほぼ全ての患者さんが初診なので、来院された方が以前どのような薬を処方されたのかなど、重要な情報が把握しづらい構造になっているんですね。
救急医として働く中で問題意識を強く感じた救急外来の現場における非効率性を解消すれば、医療全体の質を上げていけるはず、そう信じて現在の事業を立ち上げました。
――お二人のように、業界を変えるために起業したり、スタートアップに移ろうと考える医師は増えてきているのでしょうか。
中西:増えている印象はあります。私と同年代の40代前後の医師だとあまりそのような考えを持っている人は見かけないのですが、園生先生と同じ30代か、もっと若い医師は、医療を変えていこうと志す方が多い印象です。
園生:若い医師や医学生は、AIによって医師の仕事がどう変わっていくかをある程度推測し、その先にやるべきことを考えているんですよね。今までと同じようなやり方だけでは食いっぱぐれる可能性もある、視野を広げるためにベンチャーやスタートアップで働いてみよう、となるわけです。
当社には東大医学部のインターンが5名ほど在籍していて、データ解析やシステム開発を担当しています。一昔前の医学生であれば塾や家庭教師のアルバイトが主流でしたが、今は医療系のデータ解析に関する仕事はイケてるバイトと捉えられているようです。
医療現場で、各社が経験したHARD THINGS
――事業を推進する中で、特に困難だと感じたことはなんでしょうか。
TXP Medical 代表取締役 園生智弘氏
園生:1つは、病院にモノを売ることの難しさですね。あまり知られていませんが、病院の平均利益率って1%程度なんですよ。消費税が2%上がってからはさらに苦しくなるでしょう。病院経営って、実はこれほどギリギリのところで行われているんです。
私たちのサービスは比較的安価で提供していますが、そのような経営状態で、さらに収益の多くが全国統一価格の保険診療報酬に依存する急性期病院に対してモノを売り込んでいくのはかなり難しい。
なので、単なる「システム屋」ではなく、現場の非効率性の解決、病院の収益改善の支援にまで入り込んでいかなければいけないと考えています。
山口:当社はT-ICUさん、TXP Medicalさんと違って、社内に医療従事者がいません。だからこそ業界の慣習に囚われず、問題解決に向き合えた面もあるし、逆に苦労した面もあります。
創業期、一番課題に感じたのは、やはり信頼性ですね。電子カルテを無料で提供するのは、それまでの医療業界からすれば考えられないことです。しかも医師が立ち上げたわけでもないので、最初はものすごく疑われましたね(笑)
収益性を懸念される場合も多く、「1年後もサービスが続いていれば契約するよ」と言われるケースもありました。
今でもまれに疑われることはありますが、導入数が伸び始めてからはそういうことは徐々に少なくなっていきました。
――ちなみに、きりんカルテシステムは電子カルテを無料で提供されていますが、どのようにマネタイズされているのでしょうか。
きりんカルテシステム 代表取締役社長 山口太一氏
山口:電子カルテとは別の領域で収益を得ています。たとえば、クリニック経営支援サービス「カルテFRM」があります。
医療費は、窓口で患者さんから支払われるのが1~3割程度、残りは社会保険や国民保険などから、大体2カ月後に支払われます。特に新規開業の場合など、開業資金もたくさんかかるため資金繰りが大変です。そこで、保険から支払われる医療費を当月締め、当月払いにできるようにし、その分の手数料をいただいています。
これまではサポートも含めて全て無料で提供してきましたが、一部機能を有料で提供することと合わせて、全国のサポートベンダーに有料サポートをしてもらうかたちに変更しようとしています。
中西:当社も、主力事業ではなく、周辺領域でのマネタイズを考えています。実は、各方面からお話をいただいていて。
例えば、海外の医療後進国に対し、日本から遠隔医療の実施や、その国での遠隔医療導入のサポートを相談されたり、治療や手術、検診など、医療を目的した「メディカルツーリズム」を依頼されたりしています。あとは、飛行中の航空機や航海中の船内など、医療アクセスが悪い環境への遠隔ICUのノウハウを提供することもあります。
――中西さんが事業推進するなかで直面した課題はどんなものでしょうか。
中西:一番の課題は、診療報酬制度への働きかけです。
遠隔治療は、遠隔地にいるICU専門医と、現場にいる医師が連携して進めます。その場合の診療報酬はどうなるのか、そういった医療制度がまだ整備できていないんです。
医療制度の変更は時間が掛かるし、エビデンスも必要になってきます。これは過去のものではなく、今も取り組み続けているところです。
――制度変更に取り組まれているということは、医療業界に働きかけることのできるメンバーが揃っているということでしょうか。
中西:はい。当社の強みは専門医を複数抱えている点にあると思います。最初は3人のICU専門医で集まってスタートし、それぞれが信頼できる仲間を呼び、だんだんチームが大きくなっていきました。
専門医が揃っているからか、約6,000名の医師が在籍するICU専門の学会「日本集中治療医学会」で企業紹介をしても怪しまれることなく受け入れてもらえています。
特に、大学教授やベテランの先生方に理解してもらえるか不安だったのですが、「絶対推進した方がいい、頑張ってほしい」と応援してもらえるケースが圧倒的に多いんです。これは予想外でしたね。
――学会に入り込み、医師からの信頼を獲得するのは医療スタートアップを推進するうえで非常に重要な要素なのですね。その他に、医療業界に切り込んでいくにあたり、おさえておくべきポイントはあるのでしょうか。
園生:「金の匂いをさせない」ことですね。医者って、営業さんが醸し出すお金の匂いが好きじゃない人が多いんです。企業が儲けたいだけか、それとも真に医療を良くしようとしているかにものすごく敏感です。私たちは医療のより良い未来を鮮やかに語って理解してもらえるよう心がけています。
医療業界は非常に狭い村社会なので、一度「あの会社は金のために変な方向に行った」と思われてしまうと、一気に悪評が広がってしまいます。とはいえ、ビジネスとしてやっているので当然収益は上げなければいけない。そのバランス、見せ方は非常に難しいですね。
――儲けようとする空気を感じさせない、クリーンな企業と見てもらえるかが鍵だと。
中西:あとは、やはりセキュリティ問題ですね。患者の情報が漏洩するような事態はあってはならないので、病院側が最もセンシティブになる部分だと思います。
園生:医療業界特有の「クラウドアレルギー」も存在していますよね。
――クラウドアレルギーとは、医師がクラウドを嫌っているということでしょうか。
園生:いえ、病院の管理部門の方々が、クラウドに消極的な場合が多いんです。大病院の医療情報は院内に専用サーバーを立て、医療情報部が管理しているわけです。
ただ、災害対策、開発管理コストなど鑑みても今後は安全性の高いクラウドサーバーに移行していく必要があるのですが、なかなか動きは起こってきません。名も無いベンチャー企業が病院に営業し、「クラウドを使用します」と言ってしまうと、その時点で出禁になってしまいます。そのような状況を招かないよう、データ取り扱いの明確化、病院との丁寧な会話が重要です。
――逆に、医師はクラウドに対してそれほど抵抗がないのでしょうか。
園生:そうなんです。クラウドのコストメリット、開発メリット、をロジカルに話せば、ほとんどの医師は納得します。商談中、当社の事業内容に懐疑的な医療情報部の方を、医師が説得することもよくあるんですよ。
後ろ盾のない状態からの医療業界変革
――各社、どのように困難を乗り越えてきたのかを教えていただきたいです。園生さんの場合、経営が厳しく、新規サービスの導入に慎重にならざるを得ない病院に対しどのように切り込んでいったのでしょうか。
園生:前例をつくってしまうということが効果的でした。医療業界はとても狭い世界なので、3カ所ほどの大病院に導入されれば他の病院からの見られ方が変わります。「あの大学病院が導入しているのであれば、システムとしてはいいものなのかな」と思ってもらえるんです。
――最初の3院を獲得するためにどのような戦略をとられたのでしょうか。
園生:当社サービスの良さを理解してくれて、導入に向けて強烈な熱意で動いてくれた現場の医師のおかげです。「TXPメディカルのサービスはとんでもなく良い。前例主義とか言ってないで、入れないと当院の救急に未来はありませんよ。導入しないなら辞める。」くらいの勢いで院内にプレゼンしてくれた先生方無しには現在のTXPはありませんでした。
――そのような熱意ある医師に巡り合うためには、とにかく病院に足を運び、営業し続けるしかないのでしょうか。
園生:いえ、私たちはむしろ“ものづくり”を重視しました。どこに出しても恥ずかしくない、どんな救急医でも絶対に欲しがるようなシステムに仕上がるよう注力しました。なので、いわゆるマスマーケティング的な活動は、やっていないんです。
かなり特殊なのですが、アカデミアから攻める手法が効いています。
僕らは学会発表や論文発表に結構力を入れていて、自社のシステムを活用した研究を学会で発表するんです。発表後「こんな研究やりたいんだけど、のデータはどうやってとったのか?」と聞かれ、NEXT Stage ERの名前を出して、一度話を聞かせて欲しいという運びになるわけです。
現在の導入病院のほとんどが、学会経由でのコンタクトからスタートしています。
――なるほど。きりんカルテシステムの場合は、医療関係者が社内にいないなかでどのような戦略をとったのでしょうか。
山口:実は、当初はほとんどプロモーション的なことはやっていませんでした。「無料」というインパクトがそれなりにあるので、そこで気になられた方から問い合わせをいただき、実際に試しに使ってみていただいて、という流れです。その結果、「無料だからどんなものかと思っていたけど、これなら問題なく使えるね」と感じていただいて採用してもらい、初期のユーザーが地道に増えてきました。
今は、いろいろなご縁もあって、へき地の診療所での導入を推進しようとしています。へき地の診療所は、大体自治体に属しているケースが多いんですね。そうなると、通常の病院とは意思決定のプロセスが変わってくる。
いわゆるオーナー医師が意思決定するのではなく、市の管轄部署が最終的には決めるということになります。そういう状況なので、園生さんと同じように、市に話を通していただける、熱意を持った医師の存在が絶対的に必要になります。
当社もそのような医師の存在があったからこそ一例目を出すことができ、現状まで拡大することができたという経緯があります。
――中西さんは、セキュリティ面の課題についてはどのように解決されるのでしょうか。
中西:そこは、ベンチャーだけではどうしようもない部分が多いので、バックのシステムにはMicrosoft Azureを導入しています。先に導入されていた園生先生からおすすめしていただいたのがきっかけでしたね。
セキュリティや信頼性の担保など、患者データを病院外に持ち出す際の課題を、Microsoft Azureの導入によってかなり解決できていると聞いて。TXPメディカルさんと当社が抱えている課題はかなり似通っていたので、それなら私たちもマイクロソフトさんに協力してもらい、解決していけばいいと思いました。
園生:当社のシステムにも順次Microsoft Azureのサービスを組み込んでいて、営業時のトークにも活用させてもらっています。先程お話ししたように、多くの病院はクラウドに対してまだ懐疑的です。しかし、マイクロソフトの名前を出すと受け取られ方はかなり変わりますね。
――3社とも、Microsoft Azureを導入されていますよね。医療業界に切り込んでいく上で、Microsoftの堅牢性や信頼感が助けになっていると。
園生:そもそも、病院で使われているほとんどの端末にMicrosoft Officeが入っていて、ワードやエクセルを使っていますから。その延長線上に捉えてもらえるのは大きいですね。
――信頼性の担保の他に、Microsoft Azureを導入してよかったと感じるポイントはあるでしょうか。
山口:大きくは2つあります。1つ目は技術的なところですね。時間帯に合わせてシステムの稼働を柔軟に変更できるようになったのが大きいですね。
診療所って診療時間が決まっているし、使う時間帯と使わない時間帯がくっきり分かれるんです。使わない時間帯までシステムを稼働させると、その分クラウドのコストが大きくなってしまいます。
Microsoft Azure上で利用状況に合わせて、自動でサーバー数を増減させているので、今後利用ユーザーがさらに増えてくればコスト的にも大きなメリットがでてくると考えています。
2つ目は、担当いただいた方の熱意ですね。特に感動したのはMicrosoft Azureをテスト導入する際です。既に数百件のクライアントの情報があるなかで、システム移行はかなりハードルが高い。医療情報を扱っている以上、システム停止などのミスは絶対に回避しなければいけない。本当に大丈夫なのかどうか、その判断はかなり難しかったのですが、マイクロソフトの担当者さんにとても真剣に向き合っていただいたんです。
結果的には滞りなく進められたのですが、彼のサポートなしには絶対に乗り越えられませんでしたね。あと、当社が出展した展示会にいらして、スタッフと一緒にブースに立ってくれたこともありました。
「マイクロソフト」という社名やMicrosoft Azureの機能だけでなく、サポートしてくれる方たちの熱意を持って、社員と同じ目線でプロダクトのことを考えてくれていたのが導入の一番の決め手です。やはり、最後は人として信頼できるかが大きなポイントになりますよね。
テクノロジーの力で、医療の理不尽を払拭する
――最後に、各社が描く今後の展望を教えて下さい。
山口:先程もお話ししたとおり、私たちはへき地への電子カルテ導入を推進しています。人口が減少し、高齢化は進み、医師不足にさらされているへき地は日本の縮図に近いと思っていて。へき地が抱える課題は、日本が抱えることになる課題だと思っています。なので、その課題を解決することで、日本全体にも良い影響を与えられるはずです。
直近の目標としては、へき地の医療アクセス状況を改善していきたいですね。オンライン診療ができるようになったりとか、薬をよりスムーズに届けられる環境を作ったりなど、できることは無数にあります。
中西:私たちは遠隔ICUを中心にした周辺領域、たとえば遠隔の救急や麻酔などの領域に展開していきたいなと思っています。そのためには、まず遠隔ICUを確立しないといけません。
遠隔ICUを成立させるためのシステムは、アメリカのメーカーが提供しているのですが、3~5億ほどかかってしまう。それほどの費用をかける必要がなく、かつ安全に遠隔ICUを実施できるようなシステムを開発し、日本の遠隔ICUを推進していきたいですね。
園生:僕らは、救急医療の全国統一のようなことを目指しています。
救急医療は救命センターだけでなく、日本中の救急指定病院、さらにクリニックでも行われています。救急車で運ばれた患者さんって、運ばれてどの病院に収容されて、医師が軽症と診断したのか、重症と判断したのかまでは分かるんです。
でも、その人が存命のまま退院したのか亡くなられたのかは、実は把握できません。
一応、自治体から病院に救急調査票が送られてきて、医師が頑張ってチェックすれば良いのですが、面倒なのでやらない人も多いです。だいたいどこの自治体でも20%~30%の回収率と言われています。
近年、救急医療界隈では救急車を有料化するか否かという議論が起きていますが、判断材料になるデータがない状態では政策決定はできないと思います。
私たちが救急医療のデータプラットフォームを構築し、医療のデータが蓄積され、つながっていけば、より良い医療政策にも繋がる。まずは、全国にある300の救命救急センターから展開していって、そこから中規模の医療機関に拡大し、地域の医療情報連携を促進していきたいですね。
取材・文:水落絵理香
写真:西村克也