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IT大国として、また中国に対するカウンターウェイトとして注目を集めるインド。経済成長率は6%台を維持しており、欧米だけでなく、日本、中国などアジアからの大型投資も増えている。
これにともないインド各都市も急速に発展。地方から多くの人々が都市部に集まり、都市経済を活気あるものにしている。
一方、都市化とともにゴミ問題が深刻化しており、都市の衛生状態を悪化させている。街のいたるところにゴミが散乱し、屋外排泄物なども処理されずに放置されている状況も少なくない。
インドの都市というと「不衛生」というイメージを持つ人は多いかもしれないが、これは偏見ではなく実際の状況を反映するものといえるだろう。
しかしここ最近インドの各都市では、この不衛生イメージを払拭するための取り組みが加速しており、きれいかつ持続可能性を備える都市が続々誕生している。いったい何が起こっているのか。インドできれいな都市が生まれる秘密を探ってみたい。
インドの都市が頭を抱えるゴミ・衛生問題
人口13億人、若年層が多く、人口は増加傾向にあるインド。少子高齢化で人口減に直面する日本や中国とは対照的だ。
そのインドの都市の多くは、人口流入によって年々活気が高まっている。米不動産コンサルティング会社JLLが毎年発表している「City Momentum Index(CMI)」でもその状況が如実に示されている。
CMIは社会経済のさまざまな要素から、世界各都市を活況度で順位付け。2018年版、2019年版の両ランキングにおいて、インド都市が上位をほとんど独占してしまったのだ。
2018年版ランキングトップ5は、1位ハイデラバード、2位バンガロール、3位ホーチミン、4位プネー、5位コルカタ。
2019年版では、1位バンガロール、2位ハイデラバード、3位ハノイ、4位デリー、5位プネー。いずれもトップ5のうち4つがインドの都市となった。
都市が活況することは望ましいといえるが、過剰な人口流入はさまざまな都市問題を引き起こすため、適切な管理が必要となる。しかしインドの多くの都市ではそのようなコントロールはなされていないのが現状だ。
過剰な人口流入によって悪化する問題の1つがゴミ問題。特にインドの都市では、ゴミ処理施設の処理能力が乏しいケースが多く、人口増に対応してきれていない。多くの場合、ゴミは非公式なゴミ埋め場に集められ、そのまま放置されている。
ここに野良犬や虫がたかり、衛生問題も悪化している。さらに、地中に埋められたゴミから汚染物質が流れ出し、地下水を汚染してしまうといったケースも報告されている。
インド・ハイデラバードの様子(2013年8月)
インド政府の調査によると、インドでは1日15万トンものゴミが生み出されている。このうち回収されているのは90%。残り10%、1万5,000トンのゴミは回収されていないことになる。また、回収されたうち処理されるのは20%で、残りはゴミ埋め場に捨てられている。
世界銀行の推計では、2050年にはインドで排出されるゴミの量は現在比で3.5倍増加する可能性もあるという。
インド各都市を競わせる「きれいな都市ランキング」の効果
いまのままでは不衛生というイメージからの脱却は難しく、今後さらに衛生問題が悪化する可能性に危機感を覚えたインド政府は、2016年にある施策を開始。その結果、多くの都市でゴミ問題・衛生問題が大きく改善し始めたのだ。
それがインド各都市のゴミ処理状況や衛生問題を評価しランク付けする「インド全国きれいな都市ランキング」。公式には「Swachh Survekshan(cleanliness survey )」と呼ばれ、人口10万人以上の都市を対象に実施される全国調査だ。
このほど2019年版が発表されインドでいま1番きれいな都市が明らかになった。
1位になったのはインド内陸部マディア・プラデーシュ州南西部の都市インドール。人口200万人を誇る同州最大の都市だ。
実はこのインドール、「きれいな都市ランキング」において2017年から連続3回目となる1位の獲得となり、インド他の都市のロールモデルとして注目を集めている。
1位インドールに続くトップ10には、2位アンビカプル、3位マイソール、4位ウッジャイン、5位ニューデリー、6位アフマダーバード、7位ナビ・ムンバイ、8位ティルパティ、9位ラージコート、10位デワスがランクインした。
ランキングは主に3つの視点で評価されている。
1つは自治体のデータ。ゴミ収集・処理・廃棄や屋外排泄状況などに関するもので、評価全体の45%を占める。2つ目は市民によるフィードバックで、評価全体の30%を占めている。3つ目は第3者による評価で、25%を占めている。
インドで一番きれな都市、市長のコミットメントの成果
「きれいな都市ランキング」3年連続でトップの座を獲得したインドール。もともときれない都市だったのではとの疑問がわくかもしれないが、そうではなさそうだ。
インドールはもともと他の都市同様にゴミ・衛生問題に悩まされていたという。2016年に実施された「きれいな都市ランキング第1回目」では、25位という冴えない順位だった。
この情けない結果が自治体のやる気に火をつけたと思われる。
2016年以降、インドールではゴミ収集車が家々をまわるようになり、ゴミの不法投棄は大幅に減少。以前は道端にもゴミが散乱していたが、いまではほぼゴミが落ちていない状況が達成されているという。
インドールの様子(2017年2月)
特筆すべきは、ゴミの分別とリサイクルが徹底されている点だ。
固形廃棄物はリサイクル業者に販売され、道路建設の建材として利用されている。一方、食べ残しなどの生分解性廃棄物は、肥料や燃料にリサイクルされ利用されているという。
インドールがインドでもっともきれいな都市になった最大の要因は、行政のコミットメントといえるだろう。ポイ捨て、野外排泄、つば吐きなどに対し罰金刑を導入。
インドール市長を務めるマリーニ・ゴー氏は、街なかでポイ捨てをしている人を見つけると、公用車から降りて自ら違反者に罰金を科すほどの徹底ぶりだ。
何事においても過剰な競争は弊害を生み出すものだが、これまでのところインド都市間における「きれいさ」をめぐる競争は、非常にポジティブな影響を生み出しているといえるのではないだろうか。
持続可能性を維持しつつ、急速な発展は可能なのかどうか。インドールを中心にインド都市の動向は興味深いものになるはずだ。
文:細谷元(Livit)