現在、転職市場は求職者にとって「売り手市場」。つまり、求職者に対して採用希望企業が多く、転職先を選びやすい状況となっている。一方で、早期離職の引き金にもなる「入社後に生じるミスマッチ」は依然として残っており、何度面接を重ねても回避が難しいのが現実だ。

そんななかで“友人”または“友人の友人”から仕事の依頼や転職・副業スカウトがくるマッチングサービス・YOUTRUSTを利用した「お試し転職」によって転職を成功させる人もいるという。同サービスを運営する株式会社YOUTRUST代表・岩崎由夏氏に、転職市場が抱えるミスマッチをはじめとする課題と、そのソリューションとしての「お試し転職」の意義について伺った。

“転職市場への違和感”から生まれたサービス「YOUTRUST」

——貴社が運営する「YOUTRUST」は“知人から直接オファーを受けられる”サービスとお伺いしていますが、具体的にどのようなサービスなのでしょうか。

岩崎:「YOUTRUST」は簡単にいうと、友人・友人の友人のみから仕事のオファーやスカウトを受けられる副業・転職マッチングサービスです。

基本的にはFacebookの友人関係をもとにYOUTRUST上でつながった友達、あるいは YOUTRUST上の友達の友達からチャット形式でオファーが届きます。


YOUTRUST サービス画面イメージ

また、利用者は雇用者側としてプロジェクトメンバーの募集や、働き手側として“転職含め検討中” “今は難しい” “まずは相談から”など自分のステータスを表示し、利用することが可能です。

ですから、雇用者・働き手側としても今自分が置かれている状況に応じて利用できます。

——岩崎さんがサービスを立ち上げようと思ったきっかけは?

岩崎:私は2012年に新卒入社した企業で採用担当をしていました。大きな企業だったので採用には転職エージェントを使っていたこともあり、自分自身が転職を考えたときにも同じく転職エージェントを利用したんです。

そこで、「採用が成立したときに、企業がエージェントへ支払う報酬」に違和感が生まれて。人材業界の構造として避けられない面ですが、報酬の相場は企業によってさまざまです。

であれば、エージェント側の担当者の立場で考えると、当然得られる報酬の高い企業を求職者にすすめますよね。でも、求職者はそんなこと知るはずもなく、担当者から紹介された企業の選考を受けて入社していきます。

求職者のまったく知らないところで、本人のキャリアが誘導されてしまっているという状態を打開したくて、自分自身で新しい採用チャネルをつくろうと決めて起業しました。

求職者が自分に提示されているチャンスや機会をきちんと理解したうえで、「フェアに意思決定できるサービス」を生み出すことで、この課題を解決できると考えています。

「お試し転職・副業」が採用のミスマッチを減らす

——「YOUTRUST」では知人同士での「お試し転職」や副業をオファーする場として活用されていますが、お試し転職とはどのようなものですか?

岩崎:「YOUTRUST」に登録したユーザーはまず、Facebookで友達になっている人の一覧から誰とつながるかを選びます。このときに職場の上司や仕事相手を除くこともできるので、転職や副業の意思を知られることはありません。

つながった友人とその友人からは「この人は転職を考えているのか」「今すぐにでも副業をスタートできるのか」といったステータスを閲覧でき、仕事の相談やスカウトのメッセージを送ることもできます。

これまで行われていた「転職活動」は、お見合い結婚のようなもの。対して「お試し転職」は、恋愛、そして同棲を経ての結婚のようなものといえるかもしれません。企業がいま行っているような面接って、求職者も採用企業もお互いのいいところを見せようとするじゃないですか。

それに対して、いきなり採用ではなくまずは副業やお手伝いを通して「お試し」をして、相手をよく知った上で転職の道へ進むプロセスが企業のことや職場環境を本質的に知ることができ、ミスマッチを防ぐ一手に繋がるのではないかと考えています。


実際に現在の転職市場では、そのようなコミットメントシフトの時代は近づいて入きている。参照:リクルートワークス研究所

——なるほど。何度かおしゃれをして会って、いざ結婚。「こんな話聞いてない!」「気づかなかったけどこんな欠点があるんだな」とお互いにガッカリしてしまう場面が、転職でいう「ミスマッチ」なんですね。

岩崎:お互いに好感触で、結婚前に同棲してみるという状態が転職でいうところの「お試し転職」に近い状態だと思います。

正社員という形ではなく、副業としてとか、週に何回とか、少し抑えた状態で働いてもらって、フィーリングが合えばフルタイムの正社員として入社する人もいますし、そのままのバランス感で仕事を続ける人もいます。

A社で本業を続けながら副業としてB社に参加していて、徐々にB社へのウエイトが上がっていって……と、グラデーション状にコミット度合いを変化させていく人もいますよ。

——「YOUTRUST」のような土壌があることで、「お試し転職・副業」が増えているのでしょうか?

岩崎:反対に、そうした形で転職や副業を検討する人が増えているからYOUTRUSTを活用いただけているといったほうがよいと思います。今、全社をあげての「スクラム採用」や知人を介した「リファラル採用」が注目されているのは、転職市場に出ていない優秀な人材を見つけたいからなんですよ。

——転職市場に出ていない人材ですか?

岩崎:「潜在層」とも言われますが、優秀な人は今の職場でも評価されていて、やりがいのある仕事を受け持っていることが多いので、仕事への満足度も高い。そうすると「転職しよう」とはなかなか思いませんよね。だから潜在層は転職エージェントにも登録していません。

そういった優秀な人にアプローチできるのは各企業の採用担当者ではなく、直接の知人や友人に限られます。優秀な人が何らかの理由で転職を考えたときに向けて、他の企業よりも先に接点をもっておかなければならないんです。

だからこそ「YOUTRUST」のような“人どうしのつながり”を活用した転職や副業のマッチングが必要とされているのだと感じています。

「まずは副業から」でお互いの理解を深め、採用リスクも減らす

——「お試し転職・副業」を行うユーザーの属性や、どのような企業での利用が多い、など傾向はありますか?

岩崎:インターネット業界内での転職はやはり多いですね。終身雇用という考え方も薄いので、転職ハードルが低いことも一因といえます。

会社の規模だと、メガベンチャーからスタートアップへの転職が多いと感じます。 特にスタートアップは企業の成長フェーズとしてはまだ不安定ですし、いつ倒産するかもわからない。入社する側としては不安要素もあるはずです。

反対に、スタートアップの経営者側も、知らない人をいきなり正社員で迎えることには大きな不安があります。大きな組織でないだけに、会社に合わない人材を採用してしまうと全体のパフォーマンスに影響があるからです。

そこでお互いに「まずは副業として」という形でのお付き合いをスタートさせるわけです。信頼できるか、価値観が合うか、将来を一緒に考えられるかをお互いに見極める……まさに同棲期間のようですね(笑)。

——一方でそうした「お試し」で副業のスタッフを受け入れる企業側は、どのようなところに気をつければよいのでしょうか?

岩崎:いろいろなケースを見聞きしていて感じるのは、正社員とはマネジメントのしかたを変える必要があるということ。

副業の場合は、ずっと同じオフィスで一緒に仕事をするわけではないので、指導の方法も変わってきます。また、どんな仕事を任せるかも考えなければなりません。例えば緊急性の高い仕事を任せるのはNGです。

あくまでも「副業」なので、稼働時間が限られる人も多いため、どんな仕事をお願いするかは事前に考えておく必要があります。副業スタッフを受け入れてうまくいっている企業は、やはり任せる仕事をきちんと区別している印象です。

市場に出てこない「優秀な人材」とコネクトするツールに

——今後、転職や副業の市場にはどのようなサービスが必要だと考えますか?

岩崎:これからも転職市場では売り手状態が続くと思いますし、優秀な人材はどこの企業もほしいはず。ですが、そこで「いきなり正社員」ではなく「副業からでもOK」とハードルを下げることで、人材との接点をもっておくのが重要です。その人が転職を考えたときには、初めて見る会社よりも、ある程度内部を知っていて関係を築けている会社を選ぶことのほうが多いでしょう。

いま「YOUTRUST」のユーザーの声を聞いていて感じるのは、能動的に副業を探している人がとても多いということです。働き方改革の影響で会社はどんどんホワイト化していますし、多くの人が仕事のあとや週末の空き時間を持て余しているんですね。

そこへ副業解禁の追い風もあって、社会全体の機運も高まっていますから、ますます副業をしようとする人は増えるでしょう。そうした人たちの受け皿になるような、“副業を探せる”サービスにもしていきたいと構想しています。

岩崎由夏
株式会社YOUTRUST 代表取締役
大阪大学理学部卒業後、2012年株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社。新卒、中途の採用を担当。2016年子会社ペロリに出向し経営企画を担当。2017年株式会社YOUTRUSTを設立。

取材・文:藤堂真衣
写真:西村克也