日本に限らず、いま世界では少子高齢化、特に人口の高齢化が深刻な問題となっている。国連が今年の4月に発表した報告書によれば2050年には6人に1人が65歳以上の高齢者になるという試算。2017年の時点で約11人に1人だった割合を考えると、高齢化の波は世界中に急速に押し寄せてきていることがわかる。

老後の過ごし方を検討

医療技術の進歩により我々の寿命が著しく延びているなかで、気になるのは老後の生活をどう過ごしていくかであろう。ひと昔以上前、老後は「悠々自適、年金暮らし」と称されていたが今は状況がずいぶんと異なる。

今年6月、日本では政府が「老後に2,000万円が必要」と言った、言わないの大騒ぎになったことも記憶に新しい。確かに支給される年金だけで、老後に「豊かな暮らし」が送れるとは誰も思っていなかった。すでにわかっていることではあったが、政府から具体的な金額を示されて発表されたとなるとそれまでは多少曖昧だった不安を一気に煽り、騒動となったのも無理はなかった。

平均寿命が延び、定年後の生活が長くなりゆく中で、日本や韓国ではこれまでの「定年」の概念や規定を越えて働き続ける人が多いのも世界的に見て珍しいケースだったが、この流れに追従する動きも見られている。

例えばオーストラリアではこれまでは65歳6か月としていた定年の年齢を67歳に延長するとしている。しかしながら退職してから(定期的な収入がなくなってから)の人生がどんどん長くなる傾向は変わらない。

世界老後指数ランキングと3つのキーワード

老後や年金についての話題がホットななか、フランスの資産運用大手ナティクシス・インベストメント・マネージャーズがこのほど公表した「世界老後指数ランキング2019」は興味深い。

同社が発表する老後指数は新興国と先進国の44か国が対象。老後の財政、物質的な幸福度、健康医療そして生活の質の4分野にわたる18項目を調査して数値化したもの。また今年度の報告書では次の差し迫った3つの問題について注目している。

  1. 金利
  2. 人口統計
  3. 気候変動

金利の低下は借り入れの助長となる一方で、貯蓄による利息収入を計画している定年退職者たちをひっ迫する。利点がないと貯蓄をあきらめる定年退職者が増え、銀行の資金が減少すれば社会的経済にも大きな影響を与える。

実際に2008年の経済危機の際に中央銀行によって引き下げられた金利は、10年以上経った現在も上昇する気配はない。また特に日本は低金利にと低インフレに25年以上とらわれたままで、変化の兆しはない。また日本銀行も2020年中盤まで金利を引き上げる予定はないと発表したとしている。

人口統計は、急加速する少子高齢化が年金システムの崩壊を引き起こすことを暗示している。この問題が大きくフォーカスされたのは2018年。この年に歴史上はじめて65歳以上の人口が5歳未満の子供の人口を超えたからだ。

労働人口にあたる15歳から64歳に対する65歳以上の人口比率は増加の一方で、2000年生まれの子供たちが定年退職する時代には、先進国の人口の半分は65歳以上になるとされている。具体的には現在先進国における100人の労働人口当たりの年金受給対象者は約30人、これが2050年には46.40、2070年には49.54人となる試算だ。

ビーチの近くで老後の夢

一見して老後指数に関連の無さそうな気候変動はどのような影響をもたらすのだろうか。実はこの問題、老後は海の近くや温暖なビーチの近くで暮らしたいと夢見て働いてきた人たちには悲しい現実となる。

まず地球温暖化現象である。地球の温暖化は海面上昇や洪水、深刻な嵐、干ばつ、山火事とこれらに関連する様々な事象をすでに引き起こしている。WHOの試算によると2030年から2050年の間には気候変動による死亡者が年間25万人発生する。ここには大気汚染や家庭内の空気汚染で死亡すると予測される730万人を含む。アメリカの環境保護庁もまた、気候変動による熱波がとくに持病もちの老人たちの命を脅かすとしている。

危機にあるのは命だけでなく財政的なリスクもある。現在世界の人口の約40%(24億人)が海岸線から100㎞圏内に居住している。さらに、世界人口の10%にあたる6億人が海抜10m以下の土地に居住している。老後の生活を海辺で送るのは夢があるが、地球温暖化がこのまま進行すれば海面レベルが上昇し、台風やハリケーンによって家屋を破壊される可能性が高まる。

災害から家を守るための火災保険も値上げするであろう。なぜならば保険会社の負担が年々増加傾向にあるからだ。2018年には自然災害による損害は約16兆円(半分にあたる8兆円分は保険に加入)に到達、将来値上がり必須の保険掛け金を支払えない中級家庭や低所得者層が社会問題になるのは時間の問題とされている。

老後指数ランキング


Source: Natixis Investment Managers / © 2019 Natixis Distribution, L.P.

ランキングの全体像を見てみると、地域別では北アメリカがトップスコア、そして西ヨーロッパが僅差で続く。西ヨーロッパは上位25か国中15か国を占めているが、アジアは地域としてのスコアがすこぶる悪い。

トップの北アメリカは4分野のうち健康医療と財政の分野でトップ、物質的幸福度と生活の質で第2位をマークしている。一方で物質的幸福度と生活の質でトップスコアだったのは西ヨーロッパ。健康医療分野では第2位をマークしたものの財政分野におけるスコアが下から2番目の順位とふるわなかった。

全体的に不振のアジアでは、財政分野でシンガポール、ニュージーランド、オーストラリアと韓国が上位を占めたものの日本の財政分野における低いスコア、シンガポールと韓国の生活の質分野での低いスコア、そしてなんといっても人口がダントツに多い中国とインドの多方面にわたる不振がアジア全体のランクを下げてしまった形だ。

国別ランキングと日本の順位

ところで、各国国別ランキングの第1位はアイスランド、続いて2位にスイス、3位ノルウェーという結果となった。アイスランドは前回の2位からの上昇ではあるが、スコアそのものはわずかに低下している。2位のスイスは前回の1位からの転落、そして3位のノルウェーは順位が変わらなかった。


老後ランキング2019

日本は44か国中23位と真ん中の位置。報告書では日本のケースについても深く掘り下げている。日本が中間順位にあるのは調査項目の中で最高得点の分野と最低得点の分野があり、これらが混在することによる中間の順位であった。この優劣混在の分野は日本という国を特徴付ける強力な要因「人口分布」によるものと指摘している。

長寿率では第1位と恵まれた日本は一方で最低の出生率という形で呪われている。老後の高齢者を支える労働人口が極端に少ない日本は、老人の依存率で44か国中最低ランキングだ。これに関連して政府の負債指数でも最低ランキングだった。一方で日本のスコアで目立つのは就業率の高さ。44か国中トップに位置し、人口の高比率が仕事をしている。

報告書では現在の日本の状況を直ちに変えられる単純な解決策はない、様々な角度から複合的に解決しなければならないとしている。また危うい人口分布図の時限爆弾は刻一刻と爆破する瞬間へと近づいているので、一刻も早く迅速な対応が必要だと警鐘を鳴らしている。また幸福度においてもランキングが下から8番目であることも憂慮すべき点だ。

ちなみに隣の韓国は日本に次ぐ24位、中国はスコアそのものが上昇し、改善が見られるものの39位であった。
 
各国のスコアの優劣はそれぞれ、上記以外の特筆すべき傾向があるわけではなかったことと、過去3年のランキング、スコアにも一部を除いて大きな変化がないことも興味深い結果であった。各国ともに好転していないと同時に悪化もしていない、こう着状態なのかもしれない。

これからの老後移住先トレンド

本調査のトップ10中には北欧が4か国。アイスランド、ノルウェーのほかに6位のスウェーデン、7位のデンマークがランクインし健闘している。一方で海外移住希望者を対象にしたランキングでは、パナマやコスタリカ、マレーシア、ポルトガル、タイなどがランクイン。温暖な気候とのんびりした国柄、リーズナブルな生活費や食の充実が決め手だ。

定年退職後は温かい場所で、のんびり暮らしたいと願う人々の理想とは裏腹に現実は北欧の寒冷地帯が「定年指数が高い」とされている報告書。老後は寒いところで、が定番になる日が来るのかもしれない。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

参考:
https://www.im.natixis.com/us/resources/global-retirement-index-2019-report https://www.im.natixis.com/us/research/2019-global-retirement-index