男女共同参画局の調べによると、2018年の日本の共働き世帯数は1,219世帯にまで上り、1980年の614世帯と比較すると、約2倍増えている。

共働き家庭が増えたことで生まれた問題の一つに、家庭での食事がある。忙しく働きながら子育てをする中で、子供とコミュニケーションを楽しみながら食事をする時間を確保するのは難しい。また親は子供の食事には栄養など気を遣っても、自分の食事をおざなりにしてしまうこともあるという。

そのような、家族が同じ時間に食事をすることができない「孤食問題」、そして家族が、それぞれ別の食べ物を食べてしまう「個食問題」。これらの家族をめぐる食の問題についてこれから親になる世代、またすでに子育てが始まっている世代はどのように向き合っていけば良いのだろうか。

今回、話を聞いたのはhomeal(ホーミール)株式会社の代表取締役CEOである鬼海翔氏だ。2019年9月に幼児食宅配サービスを提供するhomeal株式会社を起業し、忙しい家庭での食問題の解決を目指している。自身も共働きで子育てをしている鬼海氏に、子供にとって、家族にとって最良の食事の環境づくりとは何か、詳しく尋ねた。

homealは共働き世代のための、親子用の冷凍パックの食事を提供するサービス

はじめに鬼海氏に、homealではどのようなサービスを提供しているのか、詳しく伺ってみた。

鬼海「homeal株式会社は子供向け、特に1才半から5、6才くらいを対象とした、幼児食に特化した専門のブランドとして立ち上げました。

homealで提供する幼児食は、子供が食べられるご飯なので素材の安心安全が保証されていることが大きな特徴です。国産野菜や厳選食材を使用しており、また管理栄養士さんや保育園勤務経験者の方が、全てのメニューを作成・監修しています。

homealの利用シーンは、ワンオペ育児になりやすい平日の夜を想定しています。我が家もそうですが、仕事が18時に終わり、そこから家に帰ってもご飯の準備が間に合わないという、そういうご家庭が今すごく多いと思います。

忙しくてご飯を作るのが大変な時の救世主としてhomealの商品を提供しています。冷凍庫から出して湯煎で温めれば、子供だけではなく親も一緒に食べられる、そんな体験を提供するためにhomealでは調理済みの冷凍パックにこだわって生産しています。

また子供と親が食べるご飯なので、強い刺激物などは入れていません。素材の旨味を生かし、強い塩分や香辛料、調味料はなるべく使用しないようにしています。親と子供が一緒においしいねと言い合えるような、そういった食事のひと時をお届けしたいと考えています」


homeal ウェブサイト画面

家事の手間を抜く工夫が孤食問題へのアプローチになる

日々の仕事や家事で忙しく、親がゆっくりと食卓につく時間を確保できない状況で起こるのが、子供の孤食問題だ。このような課題を解決できるよう、少しでも親と子供が一緒にいる時間を増やせるように、homealでは冷凍パックの食事を展開している。

鬼海「料理は工程の全てが可視化されていない”名もなき家事”と言われています。掃除と洗濯は10分、20分あればできますが、料理は昨日食べたものや朝食べたもの、また次の外食で食べる予定のものなどを踏まえて、家族全員のメニューを考えなければいけない、これはとても大変なことです。しかしメニューを考えたり、栄養を計算したりする時間は、家事として認識されていないことが多いです。

そのため料理は、特に時間のない平日の夜は一番大変な家事になります。まだ正確な計算ではありませんが、homealの食事を利用することで、料理の時間にかかる30分を1/3程度の10分ぐらいに減らせるイメージを持っています。

そしてその空いた時間で子供と一緒に食事をしたり、お風呂に入ったり、寝る前の30分、子供に愛情を注げるひとときに繋がればいいと考えています」

また、homealは単に時間短縮という観点だけではない。管理栄養士や保育園勤務経験者が、全てのメニューを監修することで子供の栄養もきちんとフォローができるような工夫がされているのだ。

鬼海 「親は子供の食事に関して、プロが作ってくれたものであれば、安心感を覚えます

例えば保育園ではお昼ご飯が出ますが、他のお母さん達から”あのご飯があるからうちの子は栄養が取れて助かっている”という言葉をよく聞きます。平日の昼に保育園でご飯を食べているから栄養は大丈夫だという、それくらい保育園のご飯は、親にただの食事だけではない安心感を提供しています。

そういった形で「孤食」という問題に関しては、親が子供と一緒に食事ができる、ゆとりのある時間が作れるよう、家事でも仕事でも、手抜きではなく、手間を抜く工夫をすることを大切していきたいです

食事の環境づくりへの工夫。「個食」は親子共通の問題

子供をめぐる食事の課題としてあるのは孤食問題だけではない。家族みんながそれぞれ別のものを食べ、その結果栄養が偏ってしまう個食問題だ。この個食問題を考えるきっかけとして、ある管理栄養士の人からの言葉があったと鬼海氏は言う。

鬼海「今homealが提供している商品は、親子2人分のパックになっています。最初は子供分のみのパックを提供しようと考えていたのですが、相談していた冷凍食品の専門家の方に、ある管理栄養士さんを紹介していただいて、その方から貰ったアドバイスで、考えが変わりました。

その方は会ったこともない僕に対して、すごく親身に多くのアドバイスが込もったメッセージ送ってくれたのですが、『管理栄養士で、かつ保育園で勤務している私の立場から言うと、子供のご飯だけのサービスはおすすめしません』と冒頭に書かれていて、驚きました。

管理栄養士さんが言うには、子供の願いは、お母さんやお父さんと、同じものを一緒に食べたい、ということだそうです。たしかに僕らが何か食べていると、子供は「何それちょうだい」と言ってきますよね。

子供は、初めて見る野菜や魚などは警戒して食べないことがあり、これを新奇性恐怖というのですが、発育上は普通の行動と言われています。

しかしそれを保育士さんがおいしいよ、と言って一緒に食べると、新奇性恐怖が和らいで食べるそうです。子供は誰かが食べているのを見ると真似して食べたり、友達がいると食べやすくなったり、そういった環境要因が一番大きいのではないでしょうか」

子供はお母さんとお父さんと同じものを食べたいと願っており、また食事をする環境づくりが重要である。さらに鬼海氏は、個食問題で起きる、親側の栄養の偏りについても言及した。

鬼海「管理栄養士さんのアドバイスを聞いて、子供を元気にしようと思ったら、親である自分達も元気でなければいけないことにも改めて気付きました。

実際、子供のご飯に時間をかけて作っていると、それにかかりきりで、自分のご飯はカップラーメンやお惣菜ということはよくあります。

子育てをしている人にヒアリングをすると、確かにその通りでした。子供だけではなく親のご飯はどうしているのか、という話題が、お母さん達の間でもよく出ていることを知りました。 そういった課題も考慮するともっと親子で楽しめて、美味しく食事できることが大事なのではないかと思い、homealで親子用のパック商品を作りました」


homealでは親子で楽しめる料理メニューを展開している。

homealが目指すのは、食事だけでなく「孤立」をしない環境作りのサポート

共働きで忙しく子育てをする中で、課題は時間の余裕がないことだけではない。周りに自分の悩みや弱音を気兼ねなく相談できる人がいない、親が孤立してしまう問題だ。そこに対して感じる問題意識を、鬼海氏は語った。

鬼海「僕の家庭の場合では、共働きで子育てをするのはとても大変になることが想定できたので、その時に近くで安心して預けられる先を考えて、奥さんの実家の近くに引っ越しました。しかしこういった方法が取れる人は、実家が地方で遠かったりするとそんなに多くないと思います。

そんな家庭が多いからこそhomealが一番サポートをしたいのは、周りに、心理的にあまり頼れる人がいない人達です

起業する前に、あるTwitterの投稿を見て心が揺れ動いた出来事がありました。投稿した彼女は病気を持っていて、人とコミュニケーションをとるのが得意ではなかったようで、『こんなママでごめんね。コミュ症で料理も苦手で、栄養のことも考えてあげられなくって、そんなママでごめんね、ママ失格だよ』といった内容が書かれている投稿がありました。そこまで1人で抱え込んでしまっていることに、心が揺さぶられました」

子育てをする中で孤立感を感じてしまうことは、親自身のアイディンティティを揺るがし、苦しめるものだと鬼海氏は言う。

鬼海 「周りに頼れる人がいなくて子育てに自信をなくすことは、母親というアイデンティティが揺らぐほどの、とても大きな問題だと思います。育児に対しての有能感だとか、母親としての自己認識が崩れるぐらい抱え込んじゃう人もいることを、Twitterの投稿などからも知りました。

しかし、子供からすれば母親のことをダメだなんて全く思っていないはずです。けれどママからすると、他のママに比べて私なんかっていう、自信をなくしてつい自分を責めてしまう。

僕が思うのは、料理が苦手ならそれこそ調理済みの食事を購入したり、誰かに作ってほしいとお願いしたりしてもいいと思います。そこまで苦しむ必要はありません。しかし誰もがそれを言えるわけではないから、homealで冷凍パックの提供を考えました。

Twitterで投稿していた人にも、”あなたの当時の投稿を見て、この商品を作りました”というDMを送り、リプライを貰いました。嬉しかったですね。それはすごい僕の中では大事な経験となりました。homealを利用して少しでも子育ての大変な部分を減らして、子供との時間を増やしてほしいです」

子供はお母さん、お父さんと一緒に同じ物を食べたがっている。このような子供が持っている願いを叶えるために、忙しい日常の中でできるのは、全ての作業を抱え込むのではなく、抜くことができる手間を減らしていくことではないだろうか。

子供の孤食・個食問題は当事者の子供だけではなく、親にとってももちろん切実な問題である。そして子供のためにできるのは、親は自分自身のことも労わりながら、愛情を注げる家族のひとときを増やすことだろう。

取材・文:片倉夏実
写真:西村克也