「Adobe Photoshop」「Adibe Illustrator」など、クリエイター御用達のソフトウェアを手がけるAdobeが、マルチプラットフォーム化を加速している。
同社では2012年から「Adobe Creative Cloud」の提供を開始し、売り切りのパッケージソフトからクラウド型のSaaSビジネスへと転換。その基盤をもとにPDFなどのクラウドドキュメントや、マーケティング分析などの分野でも存在感を増している。
ここ数年はスマートフォンやタブレット向けにも、様々なアプリを提供。
つい最近も、PhotoshopのiPad版や、ARコンテンツのオーサリングができるiOSアプリ「Adobe Aero」などがリリースされたばかりだ。
また米ロサンゼルスで開催されたクリエイター向けの年次イベント「Adobe MAX 2019」では、来年のリリースに向けてIllustratorのiPad版が開発中であることも明らかにされている。
マルチプラットフォームへ展開することで間口を広げ、新たなユーザーを取り込むほか、「iPad Pro」&「Apple Pencil」のようなパワフルなデバイスの登場による、プロクリエイターの働き方の変化に対応するのが狙いだ。
「Adobe Sensei」を用いた新機能の狙い
マルチプラットフォーム化とあわせてAdobeはここ数年、独自のAI&機械学習プラットフォーム「Adobe Sensei」でも注目を集めている。プロのクリエイターがどのように作業を行っているかという、Adobeにしか持ち得ない膨大なデータをもとに、画期的な新機能やソフトウェアを開発。Adobe MAX 2019でも、Adobe Senseiを用いてクリエイターの生産性を高める新機能が相次いで発表された。
米AdobeでAdobe Senseiの開発を担当するヴァイスプレジデントのスコット・プレヴォー氏は、「クリエイティブな作業時間の約半分は、実はクリエイティブではないルーティンワークに費やされている」と指摘する。
クリエイターがより高いクリエイティビティを発揮できるように、Adobeでは様々なプロダクトにAdobe Senseiを活用し、作業効率を高めている。
たとえば最新の動画編集ソフト「Premiere Pro」にはシーンを解析し、指定した画角にあわせて被写体を自動的にベストな位置にフレーミングする、オートリフレーム機能が追加された。これによってスマートフォン向けの縦の映像など、オリジナルとは異なる画角に編集する作業が大幅に短縮される。
Adobe Senseiは、同社のストックフォトサービス「Adobe Stock」にも活用されていて、何がどこに写っているかだけでなく、撮影された季節がいつかや、背景がぼけているといった写真のスタイルまで理解し、容易な検索をサポートしている。
AIや機械学習を用いた画像検索は他社でも提供されているが、「ユースケースを想定してシステムを構築することが大切」とプレヴォー氏。クリエイターがどのように作業しているかというAdobeならではのデータは、ここでも役立てられている。
Adobe MAX 2019 で発表された様々な次世代技術
Adobe MAX 2019ではこのほか、Adobe Senseiを用いてPhotoshopの高度なレタッチ処理を写真に自動適用する、スマートフォン向けのカメラアプリ「Photoshop Camera」も発表され、話題を集めている。
これもやはり、クリエイターがコンテンツを制作する過程で写真をどのようなレイヤーを分けているか、どのようにフィルタ-を活用するかといったデータをもとにしたもの。ユーザーが撮影する写真に「レンズ」と呼ばれる様々な効果をリアルタイムに適用して、好みの写真を作ることができる。
Adobeでは「Creativity for all」のスローガンのもと、より多くの人がクリエイティビティを発揮できる世界の実現を目指している。
Adobe Senseiはソフトウェアの作業効率をアップし、プロクリエイターの生産性を高めるとともに、Photoshop Cameraのようにクリエイティブを誰もが手軽に楽しめるようにすることにも役立てられている。
非クリエイターに、クリエイティビティを発揮するための門戸を開く意味でも、同社のAdobe Senseiは今後ますます注目される存在になりそうだ。
取材・文:太田百合子