金融情報やリスク管理などのサービスを提供する企業であるリフィニティブが9月に、独自の「ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス」に基づく、企業ランキング・トップ100を発表した。これは、多様性を受け入れるキャパシティが最もある企業100社を選んだものだ。
同インデックスは、金融の専門家が企業投資における長期的なリスクと機会を評価し、多様性に重きを置いた企業への投資戦略を勧めるのに用いられる。近年企業にとって、業績をも左右すると考えられるのが多様性の受け入れだ。
ランクイン入りで多かったのは、国別では米国、業種別では製薬会社
ランキングのもとになっている「ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス」は、リフィニティブによる独自のESG(環境・社会・ガバナンス)情報がベースになっている。
世界の約7,000の上場企業に対し、大きく分けて、「多様性」「受容性」「人材開発」「メディアで取り上げられた物議」の4点において調査・評価し、多様性の受け入れに秀でた企業100社を発表した。
国別にみると、25社の米国を筆頭に、英国で10社、オーストラリアで9社がランクインした。日本の企業で最も高位に評価されたのは、NTTドコモで32位。58位には資生堂、64位にソニー、65位に富士通が入っている。
また業種別にみると、製薬会社が13社と最も多く、11社の銀行/金融サービス/保険会社、9社の電気通信サービス、7社の家庭用品/パーソナルケア製品とサービスが続いた。
アクセンチュアは、性別バランスがとれた社員構成を2025年までに達成することを目標に掲げている
100社中第1位の企業、アクセンチュアの努力
今回トップ100の頂点を極めたのは、総合コンサルティング会社、アクセンチュアだ。アクセンチュアがリフィニティブの「ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス」において、取り上げられた項目は4つ。この4項目に、同社が頂点に輝いた秘密があるといえるだろう。
1. 経営陣が多様性に富むこと
役員の出身地は4大陸6カ国にわたる。筆頭取締役を含め、5人が女性で、女性が占める割合は42%ということになる。
2. 職場において社員が平等であること
LGBTQ+である社員を支援する「プライド・アライ」プログラムには11万人以上、障がいのある社員を支援する「ディサビリティ・チャンピオンズ」プログラムには約2万2,000人が所属している。
3. 能力開発・人材育成
2018年度には、9億2,700万USドル(約1,000憶円)を専門分野の能力開発やスキルアップに費やしている。特にクラウドコンピューティング、AI、ロボット工学の分野といった進化が速い技術に、社員が常についていけるよう配慮されている。
4. 世界的な対話を呼び起こすこと
職場における平等が会話にのぼるよう、ソートリーダーシップに関する調査書を毎年発行している。
「ゲッティング・トゥ・イークォル」レポートでは、平等を取り入れた職場が、企業の成長とイノベーションの躍進に大きな影響を及ぼしていることを、また「ディサビリティ・インクルージョン・アドバンテージ」レポートでは、障がいのある社員をも包含する社風が、企業に良い財務実績をもたらしていることを明らかにしている。
多様性の受け入れは利益をも生み出す
アクセンチュアにもみられるように、多様性の受け入れを率先して実行する企業には、モラル面のほかにも、メリットがある。業績や創造性、問題解決能力の向上、ガバナンスの強化などだ。
ボストン・コンサルティング・グループの調査によれば、社員に多様性に富む人材を採用する企業は、そうでない企業より収益が19%も高いという。
収益アップを支える要素の1つが、イノベーションだ。さまざまなバックグラウンドを持つ社員は、独自の視点、アイデア、経験を企業に持ち込み、それをビジネス戦略に生かす。
おかげで、企業は問題にぶつかっても、解決策を見出しやすく、早く回復することができる。また効率的な経営が可能になるため、多様性を取り入れない企業をしのぐ業績をあげることができるのだ。
© Helge V. Keitel (CC BY 2.0)
企業の成功は、社員の帰属意識にあり
世界有数の金融グループ、シティグループのグローバル・ダイバーシティ&タレント・マネージメント部門の副責任者であるサム・ラレーン氏によれば、現在、多様性の受け入れを超え、企業における帰属意識の役割に注目する企業が続々と増えているという。
ラレーン氏は、現在は同社で役員を務める、東南アジア出身の男性の例を挙げる。
その男性は以前の職場で、白人に囲まれ、自分が変な風に目立っていると感じた時、あえて東南アジア出身であることを堂々と前面に出し、乗り切ったそうだ。男性は、それが「自分はここに属している」という自己主張だったと、ラレーン氏に話している。
アクセンチュアの人事とリーダーシップ分野の最高責任者、エリン・シュック氏も帰属意識を高く評価する。「帰属意識を育み、個々の働きや視点などが正当に評価されると、社員は成長し、率先してイノベーションを行うべく努めるようになる」と話している。
オンライン不動産データベースを運営する米企業、ジロー・グループの文化&コミュニティ部門副責任者、レベッカ・バスティアン氏は、多様なバックグラウンドの社員を採用しても、各人に帰属意識がなければ、企業としての成功はないという。
ただ多様性に富む人々を登用し、声を聞き入れ、障害を取り払い、各人が持つバックグラウンドの価値を認めるだけではすでに足りないところに来ていると氏は考える。
バスティアン氏もラレーン氏も、企業への帰属意識があるということは、自宅にいる時と同じクオリティのまま、職場に来て働くということだと口をそろえる。
社員の帰属意識を育むためには、企業側にも努力が必要だというのは、エリック・ソロモン氏の意見。ソロモン氏は、ブランド戦略とビジネス・イノベーションを助ける、米国のブラックバード・グローバルの駐在最高マーケティング責任者であり、グーグルで役員を務めた経験もある。
企業は、共感と寛容が感じられる社内環境を整備しなくてはならないのだ。
就職活動の際、ミレニアル世代の47%が企業の多様性を見て応募するかどうか決めている Image by Piqsels
米国では、来年までに労働人口の半分が、2025年までには約75%がミレニアル世代になると推測されている。つまり、向こう10年のうちに、ミレニアル世代が役職に就き、企業を牽引するということだ。
2018年のデロイト・トウシュ・トーマツのミレニアル世代に関する調査によれば、この世代は多様性を包含する文化が根付く企業こそが革新的だと信じ、高く評価する傾向があるという。
ミレニアル世代を雇用するには、社風が多様性の受け入れが整っていることが条件なのだ。ミレニアル世代が就職し、役職に就くに従い、社内の多様性の受け入れはさらに進むことは間違いないだろう。
アジアを中心に教育・旅行・リテールなどを手がける多国籍企業、QIグループ・オブ・カンパニーズの最高経営責任者、ヴィージェイ・エスワラン氏は、多様性がある企業には、社会をも多様化させる力があるという。
昨今、ソーシャルビジネスが盛んになりつつことからも明らかなように、企業の評価として、社会貢献度が問われるようになってきている。利益の追求だけでなく、誰にとっても暮らしやすい社会を築くための使命も、企業は負っている。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)