持続可能な投資とは? サステナブル・ファイナンスを目指す欧州委員会が発表した3つの提言レポートの中身

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国連の持続可能な開発目標(SDGs)を視野に入れた、気候変動や資源枯渇等の課題に対応するための策は各分野で整備されている。世界の経済で重要な位置を占める、金融市場の仕組みの再構築として、EUでは2016年にサステナブル・ファイナンス(持続可能な金融)の構想が立ち上がった。

その最新の活動として、今年2019年6月には持続可能な金融に関する環境面で潜在的な投資の持続可能性を分析するツールとして役立つEU分類法の定義を提言した。同時にEU公式グリーンボンド基準(EU-GBS)と、ESG(環境・社会・ガバナンス)インデックス基準の最終提言報告書も発表している。

今回は、EUの「持続可能な金融」に関連するこれら報告書の背景や、概要について紹介する。

報告書の背景

パリ協定とSDGsへのコミットメントを実施するために、これまでにも欧州委員会はすべてのEUプログラムで、気候変動への関心レベルを野心的に引き上げてきている。

たとえば、EUの予算目標として、EUの支出の少なくとも25%が温暖化改善目標に貢献することを、2017から2021年までの5年間で達成することを掲げている。

実際、温室効果ガスの削減などパリで合意された2030年のEU目標を達成するためには、年間1800億ユーロもの追加投資が必要だと欧州委員会で2018年9月に試算がでている。

持続可能な金融の構想が立ち上がり、2018年3月には「サステナブル・ファイナンスに関するアクションプラン」を公表した。ここでは、EUが構築しようとしている欧州の単一資本市場である資本市場同盟において、金融が、地球環境と欧州社会の課題に対応するものとなるための施策を提案している。


アクションプランで図式化されている持続可能な金融の発展

2018年5月には「持続可能な投資を促進するための枠組み規則:Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL」を公表。

そして最新の動向として今回、この枠組みに基づき具体化される形で、「分類法技術レポート:Taxonomy Technical Report」を発表した。

「EU公式グリーンボンド(環境債券)基準(EU-GBS)」と、「ESG(環境・社会・ガバナンス)インデックス基準」の最終提言報告書も同時に発表されている。分類法レポートは400ページを超える大作である。

これらを提言するのは技術専門家グループ(Technical Expert Group:TEG)と呼ばれるEUの専門家集団だ。分類法を確立するために欧州委員会は200人にも上る専門家が技術専門家グループとして任命し、彼らが学界、金融、産業、市民社会のなどの専門分野において分類を推奨した。

3つのレポート概要

1つ目の報告書「分類法技術レポート:Taxonomy Technical Report」は、目的として以下の6つの環境に関する項目を定めている。

Ⅰ.気候変動への緩和
Ⅱ.気候変動への適応
Ⅲ.水と海洋資源の持続可能な利用と保護
Ⅳ.循環型経済、廃棄物対策とリサイクルへの転換
Ⅴ.公害防止と制御
Ⅵ.健全な生態系の保護

対象経済活動(企業)は、他の5つの目標に重大な害を及ぼさずに、6つの内の1つに実質的に貢献し、(国際労働機関の労働協約として定義されている)最低限の社会保障を遵守するものに限定される。

その上で分類法では該当する活動を、エネルギー、輸送、農業、製造、ICT、不動産などの各セクターにおいて定義している。その他のセクターにおいても今後まとめられ提言される予定だ。

2つ目は「EU公式グリーンボンド(環境債券)基準(EU-GBS)」で、環境分野への取り組みに特化した資金を調達するために発行される債券の基準に関する専門家報告書だ。グリーンボンドを発行するための、明確で比較可能な基準を推奨している。

ここでは前述の分類法に資金使途を該当することで、EUグリーンボンドによる資金調達の対象となる気候と環境に優しい活動を定義している。債権の発行体には、グリーンボンドの内容を定めた正式ドキュメント「グリーンボンド・フレームワーク」を策定することを必須としている。

今後欧州委員会が正式決定の手続きを決めるグリーンボンドにより市場が活性化し、投資家が持続可能なグリーン投資を拡大できることを期待している。

3つ目のレポート「ESG(環境・社会・ガバナンス)インデックス基準」は、環境、社会、ガバナンス(ESG)のEUの気候ベンチマークと、そのESG開示に関する専門家レポートだ。

気候変動に配慮した投資戦略を採用し、投資家の選択を方向付けることを可能にする指標の方法論と最小技術要件、グリーンを考慮しているふりをしながら利益を貪る企業への対処を定めている。

義務化される項目には、ESGスコア、カーボンフットプリント、気候変動物理的リスクの提示等が盛り込まれた。

今後のステップ

今回の報告書の勧告はEUの分類法の基礎を提供しており、技術専門家グループは、2019年末まで欧州委員会と協力して、法案成立への準備を順を追って行う。これには利害関係者からのフィードバックの要請(2019年9月まで延長)、それによる分類法の改善や実装と、使用に関するガイダンスのさらなる構築が含まれる。

今回の分類法は、第一段階として気候変動緩和策における分類法を作成している。今後第二段階は、気候適応を含む環境的に持続可能な活動の分類法を完成していく予定だ。

提言された分類法は、非財務情報を開示しなければならない約6,000のEU上場企業、銀行、保険会社などに送られ、ガイダンスを与えることが知らされる。

2020年以降法案が成立すれば、環境的に持続可能な投資商品を販売する機関投資家は、この分類法の基準を使用したかどうかと、使用した方法を説明する必要がある。

これらの報告書の意義

今回発表された3つのレポート提言は、単に欧州金融市場へのガイダンスを示しているだけではない。

大きな進展として、長期間望まれていたグリーンボンドの政策目標を表しており、将来のクリーンでグリーンな経済に対する定義や規制を可能にする、布石が投じられたと言える。

セクターごとにグリーンへ移行を行う投資家と企業を奨励するフレームワークと構造を構築し、将来の投資を各国の削減目標の範囲にとどめ、関連するSDGsの考慮してエネルギーなどのネットゼロ(消費量正味ゼロまたはマイナス)の社会に向け、進展するステップを作っている。

また、グリーンボンドの定義づけは、将来的にはグリーンボンドのみならずグリーンローン、グリーン証券、グリーンエクイティ投資などの範囲で世界の金融および貿易圏の1つとして拡大していくかもしれない。その際に偽ったグリーンを主張する団体を規制するためにも、適切なルールの提言が必要だ。

持続可能な金融の背景となっているパリ協定の目標や、SDGs関連の政策は、EUだけにとどまらず、日本を含めた世界各国で今後もアクションが必要なことは間違いない。

欧州委員会は、これらの提言がヨーロッパおよびそれ以外の地域でも採用されることを望んでいる。分類法にもある通り、これらの指標はEU外でも使われる可能性が在るのでグローバルで適応可能であることを目指して作られている。

世界の銀行および金融機関、他法域、世界中の投資家に向けた、この包括的で先駆けた取り組みは、EUのサスティナブル・ファイナンスを確実に形作っていく。意見・議論を取り交わされながら、これらの動向は、これからもさらに注目を集めていくだろう。

文・米山怜子
編集:岡徳之(Livit

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