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「長寿経済」、高齢化を考える新たな視点
高齢化という現象がメディアで取り上げられるとき、医療コスト増や労働人口減など経済・社会的にネガティブなことと関連付けられる場合がほとんどだ。
一方、最近欧米ではポジティブな側面に焦点をあて、高齢化が進むなかでどのようにすれば経済・社会を活性化できるのかという議論が増えてきている。
「longevity economy(長寿経済)」や「グランフルエンサー(高齢インフルエンサー)」といったキーワードが英語圏のメディアで頻出しているのがそのあらわれといえるだろう。
まず長寿経済の視点を紹介したい。英語圏メディアがよく引用しているのがOxford Economicsによる長寿経済分析レポート「The Longevity Economy」だ。
同レポートによる長寿経済の定義は、50歳以上の人々による経済活動のことを指す。
2015年、世界全体の50歳以上の人口は16億人だった。しかし、高齢化が進み、その数は2050年には32億人と2倍増加するというのだ。2015年、50歳以上の人々による経済活動規模は7兆6,000億ドル(約800兆円)だった。50歳以上の人口が2倍増になることを考えると、大きな変化を生み出すであろうことは想像に難くない。
長寿経済への注目度が高まるにつれ、ミレニアル世代より上の年齢層への関心も高まりを見せている。
現在国内外の多くのウェブメディアでは、ミレニアル世代やZ世代という言葉が頻出しており、その認知度はかなり高まったといえる。一方「団塊の世代」を除いて、高齢世代の呼び名はそれほど知られていない。
Oxford Economicsは、1901〜1926年生まれの層をGI世代、1927〜1945年生まれをサイレント世代、1946〜1964年生まれを団塊の世代、1965〜1980年生まれをX世代、1981〜1999年生まれをミレニアル世代、2000年以降の生まれをZ世代と呼んでいる。
X世代はすでに一部が50代に突入。2030年以降は徐々にミレニアル世代が50代に突入することになる。50歳以上の人口は、2015〜2050年の間に45%も増加することが見込まれている。一方、同時期における50歳以下の人口増加率は13%にとどまるという。
人口以上に長寿経済視点の重要性を示すのが年代別家計資産割合だ。
Oxford Economicsがデロイトのデータをまとめたところによると、興味深い数字が浮かび上がった。
2015年、年代別家計資産割合で最大の割合となったのが団塊の世代。実に全体の50%を占めるに至っているのだ。次いで割合が高かったのはサイレント世代。割合は33%。そしてX世代14%、ミレニアル世代4%と続いた。米国の家計資産は50歳以上の世代が83%を占めているという。
2030年には、この割合が団塊の世代45%、X世代31%、サイレント世代9%、ミレニアル世代16%に変化する見込みだ。
高齢者イメージと実態の乖離、求められる認識の刷新
若い世代より多くの家計資産を有し、自由に使える時間も比較的多い高齢世代。この先さらに時間が経過すれば、デジタルデバイスやサービスを活用する割合が増えてくることが見込まれ、それにともない関連市場も大きく変っていく可能性が高い。
KPMGが2017年に発表したレポートが示す数字には、その兆候があらわれている。51カ国のオンライン消費分析を実施したところ、1回の買い物でテックサビーと呼ばれるミレニアル世代の平均支出額が173ドルだったのに対し、団塊の世代は203ドルであることが判明したのだ。
消費者ブランドや広告・マーケティングプレーヤーらが関心を高める長寿経済だが、高齢世代のエンゲージメントを高めるためには高齢者イメージの刷新が求められるかもしれない。なぜなら、既存の高齢者イメージと高齢層の実際のライフスタイルには乖離が出始めており、間違ったイメージを基にしたアプローチになりかねないからだ。
こうした課題を念頭に、米国のロビー団体AARP(旧称アメリカ退職者協会)は、ストック画像大手のゲッティイメージズと提携し、高齢者イメージの刷新を試みようとしている。
FastCompanyによると、ゲッティイメージズでは2018年高齢者関連イメージの検索数が前年比151%も増加したという。一方、高齢者関連イメージは、数・内容ともに現在の状況を反映したものなっていない。
AARPの分析では、米国全人口に占める50歳以上の割合は46%を占めているのにもかからわず、ストック画像では関連イメージが15%しかないことが判明。また、その多くが社会的な孤立や非活動性などを連想させるものが多く、活発な高齢者が増えている現状を捉えきれていないことも分かったという。
こうした現状を踏まえ、AARPとゲッティイメージズは「Disrupt Aging Collection」という取り組みを開始。高齢者の活発な姿を表現する画像や動画を増やし、これまでの不活発な高齢者イメージを払拭することを狙うという。
AARPウェブサイト「Disrupt Aging Collection」説明ページ
インスタフォロワー数100万人超えも、「グランフルエンサー」の台頭
高齢者には「機械音痴」というイメージもつきまとっている。実際そのようなケースは少なくないが、時間とともにテックサビーな高齢者が増えてくることが考えらえるだろう。
実際すでにスマートフォンとソーシャルメディアをフル活用し、多くのフォロワーを獲得し、インフルエンサーと呼ばれるまでになった高齢者が登場している。海外メディアはこうした高齢インフルエンサーのことを「granfluencer」と称し、その盛り上がりぶりを伝えている。
英BBCは2019年5月「The rise of the ‘granfluencer’(グランフルエンサーの台頭)」と題した記事のなかで、世界的に有名なグランフルエンサーたちを紹介。
91歳の女性Baddie氏(アカウント名:baddiewinkle)はインスタグラムで380万人のフォロワー数を誇るグランフルエンサー。2014年、孫娘がBaddie氏の写真をインスタに投稿したところ予想外に拡散。それがきっかけとなりインスタにハマったという。
57歳の男性Irvin Randle氏(irvinrandle)。米ヒューストンの小学校教師だが、ファッションモデルとしても活躍するグランフルエンサー。2019年10月時点で、インスタでは29万4,000人のフォロワーを有している。
BBCの同記事には、おもしろ写真で知られる日本の西本喜美子氏も紹介されている。インスタフォロワー数は21万8,000人。またBBCの2019年10月11日の英語記事では、別の日本のグランフルエンサー「bonとpon(インスタフォロワー79万9,000人)」にも言及されている。
このほか97歳の女性Apfel氏(インスタフォロワー130万人)を筆頭に、数十万〜100万人規模のフォロワーを持つグランフルエンサーは世界に多数存在する。
ストック画像による高齢者イメージの刷新やグランフルエンサーの台頭によって長寿経済はこの先どのような盛り上がりを見せるのか、その動向から目が離せない。
文:細谷元(Livit)